創作1ー③『タイトル未定』 2022.12.18

隣の建物で視野の半分は奪われている。
日のあたりも決していいとはいえない物件だ。
所々滲みのある灰色のコンクリと、わずかに見える向かいの通り。
あたりはすっかり暗くなっていた。
東京であるのに、街灯は少なく、
遠くにある繁華街の光を際立たせている。

三上はスウェットを着ると、暖房のスイッチを入れ椅子に腰かけた。
ふう、とため息をついて机の上に散らばっている論文を眺める。
英語や日本語で書かれた文章の、意味を考えることなく
そして横から、斜め下からとデタラメに目を沿わせると
まるで自分が本の上に立っているかのように錯覚してくる。

足元にはアルファベットだの、やたら難しい漢字などが並んでいて、
それらを足下駄のように渡って歩いていく。
正しい進み方はあるのだろうけれど、
どうしてもそう進めないのだ。
わかってはいるが、正しい次のステップは遠く
脈絡のない近くのものに興味を持ってしまう。

でもここでは雨は降っていない。

もし、雨でも降ったらどうなるのだろうか。
地に吸い込まれる雨粒は、世界をふやかせるのか
文字を滲ませてしまうのか。
この世界を守るものも、己だけでもしのぐものを
自分はなにも持っていない
と三上は感じた。

そういった無力感をただ肌で感じているときにふと、
先ほどのゴミの山にあった男の目が、背中の方から込み上げてきた。

三上はそっと目を閉じて、その嫌悪する感情と共に
蓋をしてしまおうと対峙した。
ただなんとなく、傘を持たない自分が情けなく腹が立っていたから
八つ当たりだけのものだ。
そう今日の出来事をラベリングして置いてしまおうとした。

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