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いまはもうないアイドルグループの話
「転機をうまく乗り切れずに苦しんでいるケース」 には共通して「過去を終わらせていない」 という問題が潜んでいる
先日読み返していた本に、上記のような一節があり、いまの自分にはあまりにもクリティカルな一節であるように感じられた。自分自身が「次」へ進むためにも、「過去」を一度整理する必要があると。
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神宿研修生ユニット「かみやど」は、2019年6月から2021年6月までの2年間活動していた6人組(5人組)のアイドルグループだ。グループは、原宿発アイドルグループ「神宿」の新メンバーオーディション最終候補生7人から、新メンバーとなった塩見きらを除く、6人で結成された。
僕は神宿のスタッフとしてオーディションの立ち上げから関わり、このグループの担当として活動終了まで立ち会った。
「はじまりの合図」
原宿発のアイドルグループ「神宿」は2014年の結成以来変わらぬメンバーで活動してきたが、2019年1月に緑担当の関口なほが勇退。同時に緑担当の継承オーディション開催が発表され、その最終選考の場が豊洲PITでの「最終選考ライブ」だった。ファイナリストの7人は、1人1曲ずつ現メンバーと共にパフォーマンスを行い、最後に新メンバー1名が発表される。
もともとは本当に新メンバー1名を選ぶためだけのオーディションだったが、最終候補のメンバーに良い素材が揃っていたので、オーディションの結果が出たあと、それぞれに意思を確認してスタートしたのが神宿研修生ユニット・かみやどだ。
グループ名や研修生ユニットという位置づけは、のちの改名からの再デビューを示唆する意味合いもあった。
「はじまりの合図」はそのオーディションのテーマ曲で、神宿の曲ではあるのだが、かみやどの曲でもあると僕自身は思っている(たぶんファンの皆さんやメンバーもそう思っていたと思う)。デビューワンマンから、活動終了となるファイナルまでずっと歌い繋いだ唯一の曲だ。
「冷凍みかん」
4月29日にオーディションの結果が出たあと、5月21日に結成を発表し、6月29日にデビューワンマンO-WEST。チケットは前売りで完売した。
かみやどは当初カバー曲中心の活動で、デビューライブで歌った神宿以外のカバー曲は、ももクロが路上時代からカバーしていた「冷凍みかん」、Perfumeのデビュー曲である「スウィートドーナッツ」、Buono!の「初恋サイダー」の3曲。いろいろな系統の楽曲をカバーしながら、本人たちの適性を見極め、それからオリジナルを、という方針だった。
紹介順としては2番目になったが、これがかみやどとして最初に撮影したMVとなる。メンバーにはアイドル経験者もいたけれど、MVの撮影はみんな初めての経験だった。
「もういちど」
デビューワンマンからおよそ半年、12月2日渋谷WWWXでの2ndワンマンで初のオリジナル曲「もういちど」を披露した。この日のチケットも前売りで完売した。
「もういちど」は初のオリジナル曲だが、かみやどのオリジナル曲の中で、唯一MVが存在しない曲だ。かみやどは結成当初から、1周年でO-EAST、2周年でZEPP、3周年で豊洲PITでのワンマンを目標にしていて、自分たちの力であの会場を満員にして次のステップへ、というのが基本方針だった。もしこの曲のMVを作るなら、そのタイミングかなと思っていたのだが、結果的にそれは叶わなかった。
メンバーの心情に寄せた歌詞になっていて、初披露の際は感情が入りすぎて上手く歌えず、悔しい思いをしたメンバーもいたけれど、ライブでのパフォーマンスとしては良いパフォーマンスだったと思う。
「スーパーヒーロー」
「スーパーヒーロー」と、この次に紹介する「color」は、その後のオリジナル曲の方向性を決定づけた曲でもある。作家さんにはライブを見て、メンバーにもヒアリングをしてもらい曲を発注した。もともとは1曲の予定だったが「もう1曲できちゃいました」とデモが送られてきて、すぐに「2曲ともやらせてください!」と返事をした。
「転んでも 転んでも立ち上がる スーパーヒーロー」のイメージは彼女たちの境遇と重ね合わせたものでもあるし、自分たち自身を、ファンの人たちを、そして聴いてくれるすべての人たちの気持ちを後押しする意思表明の曲でもある。
「color」
この曲は2020年3月15日渋谷クアトロでの3rdワンマンで初披露された。
この日もチケットはほぼ完売。ただし、客の入りは6割程度。新型コロナウイルスの影響で、すでに多くのライブは中止となっており、あと1週間遅ければ開催自体が難しかった。
ライブの中で、1周年ツアーの開催が告知されたが、こちらもすべて延期、のちに中止となった。お客さんが声を出して盛り上がって楽しめるライブは、グループにとって、これが最後だった。
かみやどは固有のメンバーカラーを持たないグループだ。音大でピアノを弾いてる子がいたり、16年間海外にいてスマホを英語設定で使っている子がいたり、元工場勤務でエンジンの組み立てができる子がいたり、わりとキャラの立ったメンバーは多かったが、そうしたわかりやすいキャラ付けとは別に、この活動を通して、自分自身の色を見つけてほしい、自分自身の魅力に気づいてほしい、そんな思いが込められた曲になっている。
「透明なRainbow」
この曲は、もともと1周年ツアーに向けて用意していた曲。
かみやどのオリジナル曲の中ではむしろ少数派となる、ライブでの盛り上がりを第一に考えた曲で、振り付けにタオルを回す振りが入るいわゆる「タオル曲」だ。
実際、ライブではとても頼りになる楽曲だったが、こういう曲は、お客さんのコールなどが入って初めて完成する面もあるので、曲の力を100%引き出す環境を最後まで作ることができなかったのは残念だ。
当初は「ポジティブ宣言!!」という仮タイトルで、タイトルと歌詞だけは大幅に修正してもらった記憶がある。
「I believe...」
この曲は、8月12日に発売されたかみやど 1stアルバム「HRGN」に収録された、唯一の未発表曲。かみやどに合いそうなデモ曲、未発表曲をいろいろと聴かせてもらった中で、これは、と思った曲の一つ。
もとは、おそらく女性のソロシンガーを想定した曲で、ターゲットの年齢層ももう少し上だった。仕事で壁を感じはじめる世代の女子会的なイメージから、就活生・新社会人的なイメージと、新人アイドルである彼女たちの心境を重ねる方向にアレンジしてもらった。
いずれは次のステップに進むことを前提としていたかみやどだが、その際にはライブアイドルのカテゴリーに収まらない活動を考えていた。一方で、楽曲自体は改名後も歌い継ぎたいと思っていたので、制作の段階から、次のステージに移行しても歌えるものを、というのは意識していた。
この曲も、当時の彼女たちからすれば、少し背伸びした内容になっているが、それも含めて、グループにとって大切な曲になったと思う。
「キセキの唄」
2021年1月1日配信リリース。「I believe…」と同じく、デモ曲、未発表曲の中から見つけた曲で、もともとは男性アイドルグループ向けに書かれた曲だ。
メンバーに次の曲どんな曲ですか、と聞かれたとき、一人称が「俺」だよ、と言ったら、すごく嫌な顔をされたのを覚えているが、実際に曲を聴いて歌ってみたら、違和感はなかったようだし、むしろライブでは非常に映える曲となった。
この曲は、音源追加型アルバム「HRGN FINAL」の1曲目となっている。このアルバムはミュージックカードという、後日追加でデータを配信できるデータカードで販売されており、毎月1曲ずつ新曲が配信され、半年後に全曲が出揃うという、ちょっと変わった形でリリースされた。
タイトルの「HRGN FINAL」は2周年ワンマンのサブタイトルでもある。もともと3ヶ年計画で考えていた改名とリニューアルを2周年で行う、というのが会社の決定で、タイトルの「FINAL」は名付けた時点ではその意味のはずだった。
「キミのために鳴らすファンファーレ」
2021年2月の新曲。久々のゼロから作ってもらった新曲で、「透明なRainbow」以来の、わかりやすくライブで湧いて盛り上がれる曲だ。
当初は「イエスウーマン」というタイトルで、女の子応援ソングみたいな感じだったのだけど、男の子も女の子も同じように応援してあげてくださいと修正のお願いをして、現在の形になった。
画変わりが多く、楽しいMVだったので、ツイッターでスクショ選手権やったら、思っていた以上に盛り上がって、ファンの方だけでなく、メンバーや関係者の皆さんまで参加してくれたのが嬉しかった。
「HRGN FINAL」の6曲に関しては、2周年のワンマンから逆算して、そこでどんな曲がほしいか、最初に6曲分のイメージをおおまかに書き出して、そこから実際に上がってきた曲に合わせて、以降の曲の方向性を微修正してく、という形で制作し、5曲目まではわりと早い段階で決まっていた。
「ニジノムコウヘ」
2021年3月の新曲。こちらは、コンペで募集した楽曲の中からの採用。
以前別のグループでコンペをやったときは、コンペでイメージに合った曲をみつけるのって難しいなと思ったのだけど、今回は候補の曲数自体は多くなかったものの、むしろドンピシャの曲ばかりで絞るのに困るくらいだった。
この曲は、最終的に6月のFINALで一番の見せ場に持ってきた曲で、すごくこのグループのことをわかってくれている曲だと思ったし、だからこそ、初披露から短い期間で活動終了になってしまったのが申し訳なかった。
MVは2周年に向けたドキュメンタリー風。このとき、彼女たちが話している言葉にウソはないと思う。MVが公開されたのが、3月14日。グループとしての活動終了がアナウンスされたのが3月28日。
最終的なきっかけは一つだが、予兆はかなり早い段階からあった。すぐに対処すれば何の問題もない問題も、放置し先送りにすることで、問題が問題を呼び、複雑に絡み合って、解決のしようがない状態にまで膨れ上がる。膨れ上がった問題を抱え続けていた壁は、あるとき突然決壊する。
「WONDERLAND」
2021年4月の新曲。こちらも、コンペから。この曲も、ものすごくいい曲だと思っていて、うちが採用しなければ、別のどこかで採用されて、長く歌ってもらえてたんじゃないかと思うと非常に申し訳ない。
MVは、アパレルショップさんとのコラボとなっていて、楽曲内の衣装やコラボグッズの作成、公式での通販、ライブツアーと連動した店舗イベントの実施、撮影自体も、ショールーム的なところをお借りして撮影している。こうした立体的なコラボや連動性のある企画はわりと好きで、この規模のアイドルとしては充実していた方だったと思う。
撮影スケジュールの関係で、振り付けの先生に現場に来て指導してもらったのだけど、彼がその場にいるどのメンバーよりも、かわいく踊っていて、プロってすごいなぁとあらためて思わされた。
「嘘のない世界」
2021年5月の新曲。かみやどのオリジナル曲11曲のうち、8曲は同じ作家さんに提供してもらった曲で、どれも神曲だと思うのだけど、その中でも個人的には一番好きな曲だ。
1stの「HRGN」の頃に比べて、2nd「HRGN FINAL」では、本人たちの成長もあって、表現の幅も広がっているし、できることは間違いなく増えた。
コロナ禍ということもあり、目に見える動員はなかなか増えづらかったので本人たちは手応えを感じづらかったと思うが、売上はそんな状況にありながらも伸び続けていたし、この時期に行われた神宿xかみやどの2マンでも、チケット先行の出足は、かみやどの方が上回るくらいの勢いがあった。
「親愛なる君へ」
2021年6月の新曲。かみやどとしては、最後のオリジナル曲となる。
「HRGN FINAL」の6曲のうち、5曲目までは早い段階で曲が決まっていたが、最後の曲だけは方向性を迷っていた。
当初は、改名しての再デビューを考えていたので、前向きな形の楽曲を考えていたが、最終的にはメンバー作詞で感謝の気持ちを伝える楽曲になった。
「スーパーヒーロー」以降のMVは、すべて同じプロデューサーさんに制作をお願いしていて、毎回楽曲のイメージと予算に合わせて提案をしてもらっていた。最後の最後まで、かみやどらしいMVになって感謝している。
今思えば、多くのアイドルグループが生まれ、なくなっていく中で、こういう形でしっかりグループの軌跡を残せたのは、恵まれたことだったのかもしれない。
神宿研修生ユニット「かみやど」は、2021年6月29日Zepp Yokohamaでの2周年ワンマンをもって活動を終了した。