祖母との思い出
幼稚園のとき、指にトゲが刺さったことがある。祖母は私の手を取って「痛くないかい?」と指を見てくれた。
普段は眼鏡をかけている祖母だが、指を見るときは眼鏡を外して裸眼で見た。
私はそれが不思議で「なんで眼鏡とるの?」と聞くと、「こっちの方が見やすいんだよ」と。
「なんで?目が悪いから眼鏡してるのに?なんで外すの?」
「ピントが合いにくいからねえ」
「ピント?」
「眼鏡ない方が近くのものはよ~く見えるんだよ」
「なんで?」
「なんでだろうねえ・・・。ほら、トゲ取れたよ。痛くないかい?」
「大丈夫!泣かなかったよ!えらいでしょ!?」
そんな会話をした記憶がある。
あれから年月が経ち、私もいい大人になった。
愛すべき女性もでき、今日はプロポーズをする日。
自宅に女性を招き、自前のディナーを振る舞った。
指輪を取り出し、いざプロポーズ。
遺伝なのか、ひどい近視で私も眼鏡をしている。
眼鏡をはずし、裸眼で女性を見つめた。
「結婚してください」
女性は震える声で「なんで?」と。
「ピントが合いにくいからねえ」
私は答えた。
女性はふたたび「なんで?」と言う。
「眼鏡ない方が近くのものはよ~く見えるんだよ」
女性は泣きながら「なんで?」と言う。
「なんでだろうねえ・・・。ほら、喉に安全ピンを刺したよ。痛くないかい?」
女性は答えない。
右手で首を絞めながら、左手で刺した。
身動きを封じて刺すことができた。
安全ピンで人は死ぬかな?という懸念があったけど、無事に死んだようだ。
甲状軟骨の下あたり、を狙って刺すことができたからだろう。
人生の記念日に祖母のことを思い出した。
たまにはお墓参りにでもいくかな。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?