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三春の滝桜

 三春とは——遅い東北の春、梅,桃,桜が一斉に花開くことから三つの花の春と名付けられた福島県の地名、三春町の事。
「滝桜」は、その三春の地におよそ千年の昔から自生する枝垂れ桜の巨木です。

 枝さしは太い幹から扇の様な弧を描いて広がり、枝から派生する細い小枝は流れ落ちる滝の様に幾筋も地表に向かって下垂して行きます。
 薄紅の小さな花弁が、か細い小枝を滑りゆくかの様な軽やかさで咲き,風に揺らいで散りゆく様は、訪れた人の眼に,心に,絵画の様な一期一会の瞬間を刻むに違いありません。

 都まで 音に聞こえし滝桜 色香を誘へ花の春風
 三春藩士、大炊(おおい)御紋 前内大臣 経久の詠歌です。

 陸奥に 満ちたるのみか四方八方に 響き渡れる滝桜花 
 都の歌人、賀茂秀鷹の詠歌です。

 地元で滝桜を見守り続け愛でて来た人と、噂を耳に想像で詠じた人の違いが分かる二首になっていますね。


 写真は今年の四月、現地に出かけた友人がスマホで写した滝桜を15×21㌢の大きさに現像して送ってくれた写真ですが「三春の滝桜」で検索しますとより良い画像を見る事ができます。
 額縁に収め毎日眺めては、またいつの日か行ってみたいと思っています。

 海岸方面にルートを辿れば,あの忌まわしい事故に見舞われた浪江町に至ります。滝桜もまた被災樹ですが千年の老樹はぴくりともしませんでした。

 今——滝桜の子孫樹は日本の各地や近隣の国にも迎え入れられ新天地に根を下ろし始めています。赤坂サカス前にある枝垂れ桜も滝桜の子孫樹だそうです。
 未来にどんな春爛漫を演出してくれるでしょうか。楽しみです。

☆転勤族で福島県郡山市にて過ごした二年間,長期滞在の観光旅行の様に あちこち見て周りました。
 三春はもちろん、猪苗代,磐梯,裏磐梯,会津,果ては秘境奥只見まで——水辺の青と滝桜の薄紅色,そして土壁の白と…鮮やかな追憶の彩りです。

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