【小説】名前の分からないやつと家まで競争する毎日(1515文字)
「ゴラァ!」
「負けないぞー!」
いつも名前の分からないやつと家まで競争をしていた。多分だけどこいつは家の近くに住んでいると思う。
けど名前は一切分からない。通う学校も多分違う。名前は知らないがなぜか帰る時間はいつも同じ。
毎日どちらが早く帰れるかの競争だ。
「今日は負けないぞ!」
「こっちこそ!」
なんやかんやで良いライバル関係だなと思っている。アイツは速く走るためにとにかく工夫をしているのが分かる。
まず、シューズもなんか速そうなやつに履き替えて来ている。それにフォームもちょっとずつだが改良されていっている気がする。
「クソッ! 今日は負けた!」
最近は自分の負け立て続けに起こっていた。いや、詳しい家までは知らないけどなんか負けた気がする。
自分はまだまだ速く走るための努力が足りていないんだなということが良くわかった。自分もフォームの改善をしたり筋力アップを始めたりと色々試してみることにした。
そしてまたリベンジをする。
「よし、今日は勝ったぜ!」
やっぱり勝つと嬉しいものがある。アイツはものすごく足が速い。自分も気が付けば学年で一番足が速くなっていた。
これもあの謎のライバルのおかげかもしれない。最近はどんどん走るのが楽しくなってきた。早くアイツと戦いと思うようになっていた。
「アレ、今日はあいついないな?」
最近は謎のライバルに会う頻度がめっきり減った。名前も分からないやつだけど、謎の親しみを覚えるようになっていただけに少し残念だ。
でも明日になればきっと会えるはずだ。そう思っていたけど、それ以降会うことはなかった。でも走り続けていればまたどこかで会えると思ったのでいつしか謎のライバルの幻影と勝負することになった。
「よし、今日は勝った!」
今頃のアイツならこのぐらい成長しているだろうという予想を立てて想像しながら走っている。勝つ時もあれば負ける時もある。
そしてこんなことを毎日続けていたら更に足が速くなった。そのまま陸上部に入ることにした。そして連勝街道が続く。
「よっしゃー! 今日も1位だ!」
気が付くと自分は県で一番足が速くなっていた。そして全国大会へと進んだ。
「とうとう来たぜ、全国! このまま全国一を目指すぜ! 多分アイツも来てるな」
予感がビンビンしている。絶対にあのときの謎のライバルがいるような気がする。そして全国大会で走る当日になった。
「よぉ」
「けっ、やっぱり来たかよ」
いた。アイツもどうやら走ることをやめていなかったらしい。
「元気だったかよ」
「まあな」
昔よりも相当レベルアップしていることは2人とも分かっていた。そして成長の過程というのライバルの幻影と競争をするというやり方でどちらも速くなっていた。
「さてと、決着つけようか」
「だな」
もはや一騎討ちであろう。他の者とは比べ物にならないほど速くなっていた。そしてスタートの合図がされる。
「おりゃー!」
「どりゃー!」
びっくりするぐらいに走りがシンクロしていた。まるで双子のようだ。2人は究極の走りを追求した結果、まさかの同じところに辿り着いていた。
「お前だけには!」
「負けない!」
「おりゃー!」
なんと結果は同着1位だった。ものすごい戦いとなったのであった。そしてお互いに健闘を称えあった。
「おめぇーすげーな」
「そっちこそ」
これからもこいつとならもっと速くなっていけそうな気がした。
「そういえばお前の名前はなんだ?」
「田中だ」
「普通だな」
「なにぃ!? そういうお前は?」
「俺は佐藤だ」
「なるほどな。俺たち似てるな」
「たしかに」
ここで初めて名前を知ったのであった。昔から続いた謎のライバル関係が今日まで続いたことはとても感慨深かった。