見出し画像

なぜ核融合炉は暴走しないか?

こんにちは、とりとんです。

この記事では「なぜ核融合炉は暴走しないか?」について解説します。
(核融合炉の原理を知っている人からすると、このタイトルはむしろ逆説的に感じるでしょう)

」と聞くと、危険なモノというイメージの人も多いと思います。「核」に代表されるものとして原子爆弾があります。間違いなく最も危険な兵器の一つです。

原子爆弾同様、「核分裂反応」を利用したものとして「原子炉」(原子力発電所、通称原発)があります。

原発はチェルノブイリ原発事故や、福島第一原発事故に代表されるように、事故が起きる危険なものとして認識されています。(この2つの事故の発生原因は全く異なりますが...)

では、「核融合反応」を利用する核融合炉では、そのような事故は起きないのか?という疑問が生じるでしょう。結論から言うと、核融合炉は原発で生じるような事故(暴走事故など)は生じません

もちろん、核融合炉が絶対安全というわけではありません。(放射性物質であるトリチウムが数10 kg単位で必要など)

この解説記事では、なぜ核融合炉は暴走しないのか?その理由について解説します。(この記事は専門知識を持たない一般の方向けに、できるだけわかりやすく書いています。)

以前の解説記事はこちら

1. 核分裂における「連鎖反応」とは

原子爆弾や原子炉の重要な物理的原理として「連鎖反応」があります。

言葉だけ聞くと難しい気がしますが、実は理屈はそれほど難しくなく、例えるなら「玉突き事故」そのものです。

原子炉では、ウランの核分裂反応を利用します。ウランに中性子が当たると、核分裂反応を生じて、ヨウ素やイットリウム、中性子などのいくつかの物質に分かれます。このとき発生した中性子が別のウランに当たることで、また核分裂反応が生じ...ということが、まるで玉突き事故のように起こります。

文字通り核分裂反応が連鎖していくため、連鎖反応と呼ばれています。

画像1

また、核分裂で生じる物質として上の例ではヨウ素とイットリウムを上げましたが、これらはいつも同じではなく、セシウムやルビジウムを生じたりすることもあります。原子炉でメインの核分裂を担うウランは、一回の核分裂で中性子を平均して2.4個放出します。

1つの核分裂反応から、約2つの核分裂反応が引きおこされるため、ねずみ算式に反応が増えていきます。

このようにして生じる膨大なエネルギーを兵器に利用したものが原子爆弾です。

原子炉ではウランの量は厳重に管理され、なおかつ「制御棒」という「中性子を吸収する物質」で、中性子の数と核分裂反応の数をうまくコントロールしています(これを中性子経済と言います)。

さらに非常時には必ず制御棒が挿入され、連鎖反応を食い止めるように設計されています。福島第一原発事故でも制御棒が正しく挿入され、連鎖反応を止めることは出来ました(が、津波による電源の喪失で冷却水の注入が不可能になり、燃料棒の表面が水蒸気と反応して大量の水素が発生・水素爆発しました。参考はこちら)。

チェルノブイリ原発事故の原因は更に複雑となっていますが、ここでは割愛します。参考1参考2など(専門知識が必要です)。チェルノブイリ原発事故では、連鎖反応を止めることが出来なかったとされています。

つまり核分裂における「暴走」を防ぐには、まず第一に「連鎖反応」を如何にして止めるかが重要、ということになります。その次に冷却であったり、燃料棒などの化学反応の阻止、ということになるのでしょう。

2. 核融合炉は連鎖反応を生じない

では核融合炉はどうでしょうか。最も有望視されているDT核融合炉では、プラズマ状態にある重水素とトリチウムの核融合反応を利用します。重水素とトリチウムの反応後、ヘリウムと中性子が発生します

DT反応

さて、重要なのは反応後の物質(中性子とヘリウム)は、重水素とトリチウムの核融合反応そのものに必要ではない、ということです。ウランの核分裂では、核分裂で発生する中性子が次の核分裂を引き起こしていました(連鎖反応)。そして連鎖反応を止めることが出来なければ、核分裂では暴走事故へと繋がる可能性があります。

一方で核融合反応は、そもそも連鎖的な反応ではないのです。また、核融合反応を生じ続けさせるためには、プラズマを高温に保つ必要がありますが、非常に難しく核融合炉実現に向けた課題の一つでもあります。(これまで何十年も世界中の研究者たちがこの課題に取り組んできました。)

したがって、①連鎖反応ではない、②プラズマを高温に保つのが難しい、などの理由から、核融合炉は暴走しないのです。

核分裂を利用する原子炉と同じようなイメージで「核融合炉も危険な技術」と論じるのは、物理的に間違いであるといえます。

3. 核融合炉の危険性

では、核融合炉は完全に安全か?と聞かれると、決してそうではありません

たとえば、核融合炉の燃料であるトリチウムは放射性物質です。福島第一原発の処理水中に含まれることでも注目を浴びていますが、処理水中全ての料をかき集めても現在(2022年)では4 g程度しかありません。

一方で、運転の方式にもよりますが、核融合炉には数10 kg単位のトリチウムが必要とされます(参考)。

(余談ですが、福島第一原発処理水の海洋放出は全く問題がありません。日本はたった4 g分のトリチウムを十数年かけて海洋放出していくとされており、1年あたり最大22兆ベクレル分を放出するそうです。一方でフランスのラ・アーグ処理施設は1年間で1京ベクレル以上のトリチウムを海洋に放出しています。はっきり言って、何を問題視しているのかというレベルでしょう。)(参考

さて、それでも数10 kgのトリチウムは驚異的な量です。当然、環境にもれないように幾重もの防護措置が取られるでしょう。

また、中性子の照射を受け炉壁が放射性物質を生じます。原子炉のように数百年~数万年単位で管理が必要なものではありませんが、30~40年程度の管理は必要とされます。また、装置の解体や改修工事は高い放射線量のために人力では行えず、ロボット技術を活用します。

核融合炉が完全に安全である、とは決して言い難い技術ですが、どこがどのように危険なのか、正しく知り正しく恐れる必要があるでしょう

4. 終わりに

ここまでお読みいただき、大変ありがとうございます。ツイッター(@supertriton1758)でも情報発信を行っていますので、ぜひフォローしていただけると嬉しいです。

また、以下の有料部分を購入していただけると、大変励みになります。それではお付き合いいただき、ありがとうございました。

ここから先は

32字

¥ 100

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?