我が国沈没
4月は畑仕事が引きも切らず。
毎日やる事が押し寄せる。
※
4年前に母が特別養護老人ホームに入居した。
介護の主な仕事は掃除と洗濯だったが、その手が離れた。
直後に年老いた犬も世を去った。
心身にゆとりができたので、庭仕事ができるようになった。
今までの数年間ほったらかしだったので、ずいぶん荒れていた。
母は戦中戦後に十代を過ごした。
国中が貧しかった。食べるものが無かった。
みんな自分で畑を作って、薯や南瓜ばかりを食べていた。
子どもの頃に、そういう体験を繰り返し聞かされてきた。
戦争中、大岡山小学校に通っていたそうだ。
現在の小学校のすぐ東を環状七号線が走っている。
ここを、埼玉大学の今昔マップon the web で見てみる。
右が現在の地図、左が1928年頃の地図。
左の地図に黄色いマーカーで記入したのが環七通りで、
赤丸が大岡山小学校だ。
ちょうど小学校の辺りは、道路を新しく通したことが分かる。
母が言うには、環七を造るために土地は接収されてあったが、
戦争で工事が中断して、空き地になっていた、
そこに近所の人がみんな勝手に畑を作っていた、
ということだ。
※
その頃の経験のせいで、畑を作ることを母は楽しまない。
庭には花壇ばかりを作っていた。
私が野菜を作ろうとすると、いやがった。
その母が特養に入ったので、庭で自由に畑を作ることができるようになった。
数年間放置していたせいで、木が高く繁っている。
そのせいで、庭は日陰の部分が広くなっている。
そのせいで、シダがあちこちに殖えている。
蕗や茗荷も殖え過ぎだ。
高い木を伐って日当たりを良くする。
シダやヤブミョウガやヤブランやキチジョウソウなど、
日陰を好む雑草をひっこ抜きまくる。
そういう作業を3年間で進めてきた。
※
だいぶすっきりして、日当たりの良い畑にできる地面が広がってきた。
そうなると今度は、植木が邪魔に見えてくる。
近所の植木畑で種を拾ってきて、一から育てたモミジの木が有るけれど、
惜しげもなくひっこ抜いた。
アジサイも3株有るけれど、1つだけ残してあとは抜いた。
ドウダンツツジやサルスベリやツツジやキンモクセイは、
北側のお隣さんの庭にも有る。伐るべし。
ツバキは毎年5月と9月にチャドクガの毛虫が発生してひどい目に遭っている。
3本有るが、全部伐った。
ヤマブキもビヨウヤナギも、やたらと広がって困る。どんどん抜く。
これはモッコクか。バッサリ。
日当たりも風通しもずいぶん良くなった。
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ミョウガやタラノキやフキは、地下茎で広がり過ぎて困る。
それぞれの区画を決めて、間には堀を掘ることで地下茎が広がることを防ぐ。
掘る作業はわりと好きだ。
土のにおいの湿った感じには懐かしさがわきおこる。
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どうせなら日照も降雨も温度も管理しようということで、
庭の半分を覆うビニールハウスを建てた。
露地栽培のほうが良い物は、外で作る。
ハウスの天井にはスプリンクラーを設置した。
タイマーで水やりを管理できる。
温度センサーに連動して窓が開閉するので、風通しを調節できる。
日照が足りない場合のために、ライトも付けた。いやー、費用たいへん。
電気代を浮かすために、家の屋根には太陽光発電パネルを設置した。
ハウス栽培ってほとんど映画『トゥルーマンショー』みたいなもんだと思う。
だったら水道代も浮かそうということで、まずは
家の2ヶ所にタンクを設けて、雨樋を繋ぎ合わせ、
屋根の上に降った雨は全部貯められるようにした。
いや待てよ南側のお隣さんの家には井戸が有ると気付き、
井戸を掘った。
7メートルまでは自力で掘ったが、そこから先は業者を入れた。
穴の底に入ってはシャベルで掘り、掘った土を一斗缶に入れる。
穴の上に櫓を組んで、滑車を取り付け、ロープを掛け、両端にフックを付けておく。
このフックに土を入れた一斗缶を掛ける。
そして穴から出て、反対側のフックに乗って、穴に降りる。
一斗缶は地上に出る。
とまあ、こういう事の繰り返しで、1週間で7メートルを掘り下げていった。
最後は業者に仕上げてもらい、
ポンプを置いて、汲み上げられるようにした。
※
最後のがいけなかった。
ポンプって楽だ。
スイッチを押せば、水がじゃんじゃん汲み上げられる。
ポンプでじゃんじゃん汲み上げて、ビニールハウスの天井から散水する。
面白がってじゃんじゃん水を撒いた。
つまり、
地盤の下のは水を抜かれてすっからかんになり、
地盤の上は水を含んで重たくなる。
そりゃ地盤沈下しますわ。
昨日、気付いたら、
庭の南東角近くにボコッと陥没穴ができていた。
今は直径が30cmほどだけれど、いつまた拡大するか分からない。
地面に見えている穴は南東角だが、
家の東の端で、基礎の表面に亀裂が入っているのを見付けた。
おそらく、基礎が沈下しているのに耐えられず、割れたのだろう。
※
我が家が沈没するのも時間の問題のようだ。