摘便録
[あらすじ] 酒を飲めば便がゆるむ。
毎朝、起床直後に便意が来る。
特にいきむことも無く排便できる。
このような私が、なんとしたことか。
気張っても気張っても便が出ないので、遂に摘便の覚悟を決めたのである。
便は硬いながらも、指でつまめば潰れる程度なものだ。
それに、水分が再吸収されていると言っても、粘りを持っている。
だからこそ、肛門に押し寄せた便が、形を変えたりくっ付き合ったりして、
詰まって出なくなってしまうのだろう。
硬い便というのは、コロコロの粒状になる手前の、
硬めの煮豆みたいなのの集合体といった感じだ。
これを、豆ごとに崩せば出るのではないだろうか。
繋がってスルスル出てくれりゃあ世話無いのだが、
それが叶わぬ今、崩すしか無いだろう。
※
肛門は、閉じている。
分かっている。
肛門は日頃、閉じているものだ。
だから、指は入らない。
無理に入れようとすれば、痛い。
そこを、排便しようとちょいといきむと、
反射的に肛門は緩み、開く。
そこに指を入れる。
中指を入れる。
豆を掻き出したい。
しかし、粘り気が強いので、なかなかうまくいかない。
そもそも、出口から指を入れて塞いじゃってんだから難しい。
大きな塊になっているのを、豆ごとに崩せないだろうか。
便塊を突くようにしてみる。
しかし、直腸という筒は柔軟だ。
壁が固ければ、便を突いたら崩れるかもしれない。けれど
その圧力を柔軟な直腸壁が吸収してしまう。
あまりうまく崩せている気がしない。
とは言え、便塊を突いていると、
そのうち、ガスがプスリと抜けたりもする。
すると、少しなんだか楽になる。
※
とにかく、寒い。
暖房も無いトイレに、もう1時間も籠っている。
いきむ度に、血圧がスッと下がるのが分かる。
フーーッと来て、かすかに吐き気がしそうになる。
これで決めるぞ!と思って力強くいきんでも、出ない。
先日、友人から「あんまりいきむと直腸が破裂するしね」
とだけ聞いた。
あの時、詳しく調べておけば良かった。
どれほどいきむと、この柔軟な直腸が破裂してしまうのだろう。
※
指先を曲げて、搔き出そうとする。
中指一本で掻き出そうとしても、うまくいかない。
肛門から少し出たところを、掴むような感じで取り出す。
こうするしかないのだが、こうすると
手袋の親指にも便が付く。
ふたたび中指を入れようとする時に、
親指に付いた便が肛門周囲に付いてしまう。
イヤだな。
私は何度も手袋を交換した。
便の付いた手袋を、裏返すようにして脱ぐ。
こうすると、表面に付いた便が内側に収まるからだ。
とは言え、手首の部分は丈夫に作ってあるので、広がりにくい。
指をすぼめても、付着物が手袋の手首の口部分に付かないように
裏返しに外すのは、なかなか難しい。
いきんでは摘便し、手袋を交換する。
10℃も無いトイレで、この繰り返し。
身体は冷え切る。
いっそのこと気絶してしまいたくなったりする。
※
居間のストーブに薪をくべるため、たまに部屋に戻る。
ケツ丸出しのまま。
薪ストーブの爆ぜる音を怖がる犬が、一人で室内に取り残されているので不安がる。
居間の扉もトイレの扉も開けっぱなしにしておく。
薪をくべて、ケツ丸出しでしばし暖を取る。
肛門には便が「コンニチハ」している感覚が有る。
充分に暖まることの無いままトイレに戻る。
私がトイレに籠ると、犬は不安がって鼻を鳴らしながら右往左往する。
落ち着いて気張れやしない。
※
しかしこれ、暑い夏だったらもっと気分が悪かったかもしれない。
とも思う。
においも強く感じるだろうし。
※
かくて格闘1時間半。
摘便を始めて1時間ほど。
やっと、いくらかの量を摘まみ出すことができて、
少し直腸が楽になった。
しかしまだ少し残っている感じがする。
この最後の少しを出そう。
そう考えて、いきんでみた。
肛門を便が通過する感触が有る。嗚呼。
ほんの一瞬だから、少しだけ出たな。
そう思って、便器の中を見た。
するとそこには、
今まで見たことも無い太さと長さの一本糞が横たわっていた。
うおおおお!うそだろ!!!
※
風呂場で尻を洗った。
肛門全体が腫れあがっているので、排便が済んだというのに
まだ何かソコにつっかえているような感覚がつきまとう。
風呂に入って冷え切った身体を温めたかったが、
傷付いた肛門がシミそうなので、やめた。
炎症が強まっても悲しい。
ストーブの近くに横になった。
冷えと疲労感がすごい。
眠気も襲ってきた。
※
排便困難って、こんなに体力を消耗するのか。
避けたい。
裂けたくないし。
※
翌日、身体の2ヶ所に軽い筋肉痛が起きた。
さてそれはどことどこでしょーう?
つづく
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