摘便録

[あらすじ] 酒を飲めば便がゆるむ。
毎朝、起床直後に便意が来る。
特にいきむことも無く排便できる。
このような私が、なんとしたことか。
気張っても気張っても便が出ないので、遂に摘便の覚悟を決めたのである。

便は硬いながらも、指でつまめば潰れる程度なものだ。
それに、水分が再吸収されていると言っても、粘りを持っている。

だからこそ、肛門に押し寄せた便が、形を変えたりくっ付き合ったりして、
詰まって出なくなってしまうのだろう。

硬い便というのは、コロコロの粒状になる手前の、
硬めの煮豆みたいなのの集合体といった感じだ。
これを、豆ごとに崩せば出るのではないだろうか。
繋がってスルスル出てくれりゃあ世話無いのだが、
それが叶わぬ今、崩すしか無いだろう。

肛門は、閉じている。
分かっている。
肛門は日頃、閉じているものだ。

だから、指は入らない。
無理に入れようとすれば、痛い。
そこを、排便しようとちょいといきむと、
反射的に肛門は緩み、開く。
そこに指を入れる。

中指を入れる。
豆を掻き出したい。
しかし、粘り気が強いので、なかなかうまくいかない。
そもそも、出口から指を入れて塞いじゃってんだから難しい。

大きな塊になっているのを、豆ごとに崩せないだろうか。
便塊を突くようにしてみる。

しかし、直腸という筒は柔軟だ。
壁が固ければ、便を突いたら崩れるかもしれない。けれど
その圧力を柔軟な直腸壁が吸収してしまう。
あまりうまく崩せている気がしない。

とは言え、便塊を突いていると、
そのうち、ガスがプスリと抜けたりもする。
すると、少しなんだか楽になる。

とにかく、寒い。
暖房も無いトイレに、もう1時間も籠っている。

いきむ度に、血圧がスッと下がるのが分かる。
フーーッと来て、かすかに吐き気がしそうになる。

これで決めるぞ!と思って力強くいきんでも、出ない。

先日、友人から「あんまりいきむと直腸が破裂するしね」
とだけ聞いた。
あの時、詳しく調べておけば良かった。
どれほどいきむと、この柔軟な直腸が破裂してしまうのだろう。

指先を曲げて、搔き出そうとする。
中指一本で掻き出そうとしても、うまくいかない。
肛門から少し出たところを、掴むような感じで取り出す。

こうするしかないのだが、こうすると
手袋の親指にも便が付く。
ふたたび中指を入れようとする時に、
親指に付いた便が肛門周囲に付いてしまう。
イヤだな。

私は何度も手袋を交換した。

便の付いた手袋を、裏返すようにして脱ぐ。
こうすると、表面に付いた便が内側に収まるからだ。
とは言え、手首の部分は丈夫に作ってあるので、広がりにくい。
指をすぼめても、付着物が手袋の手首の口部分に付かないように
裏返しに外すのは、なかなか難しい。

いきんでは摘便し、手袋を交換する。
10℃も無いトイレで、この繰り返し。
身体は冷え切る。
いっそのこと気絶してしまいたくなったりする。

居間のストーブに薪をくべるため、たまに部屋に戻る。
ケツ丸出しのまま。

薪ストーブの爆ぜる音を怖がる犬が、一人で室内に取り残されているので不安がる。
居間の扉もトイレの扉も開けっぱなしにしておく。

薪をくべて、ケツ丸出しでしばし暖を取る。
肛門には便が「コンニチハ」している感覚が有る。

充分に暖まることの無いままトイレに戻る。
私がトイレに籠ると、犬は不安がって鼻を鳴らしながら右往左往する。

落ち着いて気張れやしない。

しかしこれ、暑い夏だったらもっと気分が悪かったかもしれない。
とも思う。
においも強く感じるだろうし。

かくて格闘1時間半。
摘便を始めて1時間ほど。

やっと、いくらかの量を摘まみ出すことができて、
少し直腸が楽になった。

しかしまだ少し残っている感じがする。
この最後の少しを出そう。
そう考えて、いきんでみた。

肛門を便が通過する感触が有る。嗚呼。
ほんの一瞬だから、少しだけ出たな。

そう思って、便器の中を見た。
するとそこには、
今まで見たことも無い太さと長さの一本糞が横たわっていた。

うおおおお!うそだろ!!!

風呂場で尻を洗った。

肛門全体が腫れあがっているので、排便が済んだというのに
まだ何かソコにつっかえているような感覚がつきまとう。

風呂に入って冷え切った身体を温めたかったが、
傷付いた肛門がシミそうなので、やめた。
炎症が強まっても悲しい。

ストーブの近くに横になった。
冷えと疲労感がすごい。
眠気も襲ってきた。

排便困難って、こんなに体力を消耗するのか。
避けたい。
裂けたくないし。

翌日、身体の2ヶ所に軽い筋肉痛が起きた。
さてそれはどことどこでしょーう?

つづく

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