見出し画像

『エス』@シアターセブン

同じ言語を話しているはずなのにどこか少しずつずれていて、いつの間にか、目の前にいるのが別の惑星から来た人に見えてくるという恐怖。
言葉によるコミュニケーションが怖くなった。映画館を出てから誰かときちんと話をすることができるだろうかと不安になった。

その不安をまた増長するように登場人物たちの視線がかみ合わない。
全員が映っている引いた画面もあるので、あの人はあそこ、この人はここ、位置関係は把握できているはずなのに、誰もいないところを見ているような宙をさまよう視線に、さっき確認したのは見間違いだったではないかと、自分の短期記憶まで疑いたくなってくる。

そんな仕掛けがたくさんちりばめられている本作に対峙して気持ちが不安定になりながらも、最後まで観てくると、結局、人と話をすることでしか得られないものが確かにあるという気がしてくる。不思議だけれど、対話の可能性の豊かさに気づかされる。

ラストシーン。前向きになることばかりが人生ではないとは思うが、今の場所から少しだけ別のところへ動いたり、今見ている風景を少しだけ変化させたり。対話にしかできないことが確かにあると感じさせてくれた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?