見出し画像

15「MとRの物語」第一章 11節 「リバティー・リーブス」

(目次はこちら)


「MとRの物語」第一章 11節 「リバティー・リーブス」


タイトル:「リバティー・リーブス」

 秋風にゆられ、今にも、一枚の葉っぱが落ちそうです。

 葉っぱは考えました。この木を落ちて風に運ばれる葉っぱたちは、みんな森の奥の方に飛んでいく。まるでそれが当然、定められた運命であるかのように。でも、僕は違う。僕は飛びたいんだ、あの、カモメのように。

 葉っぱは空を見上げました。1羽のカモメが、風に揺られながら、気持ちよさそうに飛んでいます。カモメが見つめる方向にはきっと、潮の香りのする、「海」があるのでしょう。葉っぱも海を目指して、飛んで行きたかったのです。

 その時、風が動いて、葉っぱはふわっと、空に舞い上がりました。

「よし、少しずつ、少しずつ、海の方へ。そしてもっと高くへ」

 葉っぱにとってカモメは、そして海は、「自由」の象徴でした。自由は自分で、勝ち取るもの。勝ち取らなければならないもの。葉っぱは向かってくる風に逆らいながら、じり、じり、と、海に近づいていきました。

「いいぞ。この調子なら、いつかは海にたどり着ける。でも少し疲れてきたな。少し休もうかな。いや、駄目だ。ここで休んだら、これまでの苦労がすべて、この風に吹き飛ばされてしまう」

 葉っぱは、冷たい潮風に、精一杯逆らいました。そのうち葉は痛み、ぽろぽろと、剥がれ落ちていきました。その時やっと、葉っぱは気づきました。海にたどり着く前に、自分の身体が壊れ、地面に落ち、土に帰ることになるのだろうと。身体がぼろぼろになり、軸だけとなってしまた葉っぱは、心も折れて、地面へと落ちていきました。そこは乾いた、アスファルトの上でした。葉っぱは絶望しました。

「結局僕は、海に行けなかった。それどころか、ほかの葉っぱたちのいる、森の奥の吹き溜まりまでも、行けやしない。僕は、間違えていたんだろうか。いつから、間違えていたんだろうか」

 カサ……、カサカサ……

葉っぱの近くで、乾いた音がしました。それはまだ真新しい、ちっとも痛んではいない、もう一枚の葉っぱでした。

「だいじょうぶよ。私につかまって。一緒に森の奥に行きましょう。さあ、はやく。風がきちゃう」

「うん、ありがとう!」

軸だけになった葉っぱは、よろよろと真新しい葉っぱに這いより、つかまりました。その瞬間、風がふいて、ふたりは舞い上がり、森の奥に運ばれていきました。やがて暗い森の中に、金色の木漏れ日のあたる、大量の落ち葉が見えてきました。それは少し湿気を帯びて、キラキラと輝いていました。

「きれいだ……」
「ええ、ほんとに!」

二枚は、ちょうどいい居場所を見つけて、寝そべりました。

「疲れたわ、少し休みましょう」
「うん」

 僕たちはここで、動かなくなる。バラバラになって、虫たちや、菌類たちの餌になって、分解され、地面と、森に吸収される。僕はそんな、誰かに決められた運命が嫌だったんだけど、こうやって来てみると、それはそれで、よかったのかもしれない。そう、葉っぱは思いました。

二枚の葉っぱは、どちらからともなく、手を伸ばしあい、相手の手を握りました。

「ありがとう」
「いいえ、こちらこそ」

葉っぱは目を閉じ、動かなくなりました。

<つづく>

いいなと思ったら応援しよう!