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19「MとRの物語(Aルート)」第一章 15節 「動き出す歯車」
だめだ……。どのルートを選べばいいのか。決まらない。決められない……。
と、ここで悩むとまたストップしちゃう。だったら両方書けばいい。
純文をAルート、エンタメをBルートとしよう。
(目次はこちら)
「MとRの物語(Aルート)」第一章 15節 「動き出す歯車」
電話が鳴り続けている。
以前母が、「悪い事、いそがしい事は連続する」と言っていた。そういうことって、あると私は思う。ここ数日も、そういうことが次々と、私の近くに起こった。だとしたら、この電話もその一つを、私に知らせるためのものかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。疑心は暗鬼を生む。だめだ、それは私の悪い癖だ。
私はいつものように、何も考えないことにした。
「もしもし?」
「あ、Rちゃん? よかったー、バイト行っちゃかと思った。あのね、お母さん今日、残業頼まれちゃってね、ちょっと遅くなっちゃうから。お肉とお魚買ってかえるけど、どうしても我慢できなかったら、先に食べておいてね」
「えーーー? うーーーん、お肉か、じゃあ、我慢する。待ってるよ」
「うん、突然ごめんね、あとでまたゆっくり、お話させて。9時半には帰るから。じゃあ、切るね」
「うん、じゃあね」
母が残業するなんて、あまりないことだ。しかもこんな風に、突然電話を入れてきたことなんて、なかった。やっぱりこれは、何かの悪いフラグ? 不安な気持ちになる私に、Mさんが話しかけた。
いや、たぶんそうじゃないな。
確信はないけどね。俺にはわかる。
そう?
うん、少なくとも不安に思うことはないな。
これは正常な時の流れ、運命の歯車の進み。
運命……。
あ、そうだ、Mさん。お母さんが遅くなるなら、時間はたっぷりあるよね。
私は、椅子から立ち上がってMさんにゆっくりと近づいて、抱きつこうとした。
待て!! 危険だ。ストップ!!
Mさんが恐怖に顔を凍りつかせて、後ずさった。
なんで? 私と抱き合うのが嫌なの? Mさんも、私が怖いの?
そうじゃない!
何度も言うが、この感覚は異常なんだ。
俺や、神ですらも知らない何かが、起こっているのかもしれない。
だとしたら、その結果何が起こるかもわからないんだ。
最悪、この宇宙が消滅するかもしれない。
いいの!
Mさんと一緒に消えられるなら、私はそれでいいの!
Mさん、じっとして。
Mさんの顔は、恐怖と驚きが混ざり合ったものに変わった。その目が悲しそうに、私を見ていた。
R……。
駄目だ……、これは俺の感情ではない。俺の記憶ではない。
お前の脳が、俺の思考を……。
Mさんが、膝を床についた。身体から力が抜けて、立っていられないみたいだ。
大丈夫、大丈夫よ。
私にまかせて。私は、何も怖くないよ。
私はMさんに近づいて、その頭を、Mさんの顔を、私の胸の中に抱きしめた。
ものすごい快感が、私の胸から全身に、流れてゆく。
Mさんが苦しそうに、私にしがみついて、あえいだ。
Mさん、気持ちいいよ。この感覚……。
もっと私を触って、もっと私を抱きしめて。