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39「MとRの物語(Aルート)」第三章 2節 執着と負のエネルギー

幽霊とは、この世の超常現象のうちの、レアカード。
それがもし本当だとすれば、怖くもありわくわくもするね。

(目次はこちら)

「MとRの物語(Aルート)」第三章 2節 執着と負のエネルギー

Rは「幽霊」で、検索してみた。
出てきた説明を眺めていたRは、やがてMに言った。

 Mさん、幽霊は、昔は何かを教えたり、要求するために、
 現れたそうだけど、段々、怨念や復讐のために、
 出現するようになったみたいだよ。
 そういう風に、幽霊が目的を変えることってあるの?

 それは、生きている人間の解釈、幽霊を見る目が
 変わったんだな。
 さっき言ったように、幽霊には2種類ある。
 脳内で生じる、幽霊を見せるノイズは、その人の
 知識や体調で、変わることがある。
 対して、実際の幽霊という存在が、現れる目的は一つだ。
 自分の死を受け入れられず、誰かに自分を見てもらいたい。
 ただそれだけだ。しかし、幽霊の持つ負のエネルギーが、
 生きている者にマイナスの効果を与える。
 それが霊障だったり、呪いだったりするんだ。

 ふうん……。
 Mさんは、幽霊になったことはあるの?

 いや、残念ながら俺にはない。
 俺は死を自ら望み、死んだ瞬間それを受け入れ、
 あの世へ行き、神に即、次の転生を要求するような性格だからな。
 この世に未練たらしく、じめじめと居座ろうとしたことはないな。

 そうなんだ。幽霊って、そんなじめじめした存在なんだ。
 なんだか悲しいね。

 まあね。人とは誰もが、弱いものだからね。
 その中でも特に、負のエネルギーの強い魂は、
 集合意識との融合を拒み、そのエネルギーを大量に消耗しながら、
 可能な限り、「個」でありつづけようとする。
 その「個」は次第に、ボロボロになっていく。
 1年、2年、10年と、そのエネルギーを保ち続けるのは、
 そうとう辛いことだと思う。
 もしかしたら逆に、その辛さが負のエネルギーを維持するための、
 原動力になっている事例も、あるかもしれない。

 
幽霊には、2種類ある。脳に生じたノイズと、実際の幽霊。
後者は負のエネルギーを消費しながら、この世に居続けようとする。
そして呪いとか、霊障とか言うものは、その霊の「負のエネルギー」が、
生きている人間に与える影響によって、生じるものだそうだ。

 霊障とか呪いはね、
 どんな事象をも起こし得るものなんだ。それが最も恐ろしい所だ。
 例えばね、死の瞬間に、腕を骨折したピアニストがいたとする。
 その骨折に、囚われてしまったそのピアニストが、
 強い負のエネルギーを体内に生み出し、霊化したとする。
 するとその、完全なる手への執着が、他者の健康な手に向けられ、
 骨折を生んだり、手の疾患を生んだりする。
 もっと悪い場合だと、その手から負のエネルギーから全身に回り、
 予想もできない自体が起こり得る。
 この図書館の霊の場合も、その霊の負のエネルギーが、
 自殺や、失踪を生じさせている、ということだろう。

 なるほどーーー。わかりやすいね。
 わかりやすすぎるくらい。
 じゃあ、その霊が何に執着しているかを調べれば、
 呪いを解く方法が、わかるんだね。

 まあ……、そう単純にいくかどうかはわからないが、
 それがもっとも近道だろうなあ。

 どうすれば、図書館の霊の執着しているものが、
 わかるかな?

 うーん……。色々方法は考えられるが、
 一番安全なのは、後ろの男子に聞いてみることかな?

 なるほど、そうだね。

Rは、椅子を後ろに回転させ、男子に話しかけた。

「ねえ……」

その時、午後の授業開始の予鈴が鳴った。すぐに教室に、向かわねばならない。

「ん? どうしたの?」
「さっきの幽霊のこと、もっと詳しく知りたいの。
 今日の夕方、学校が終わってから、少し聞かせてもらってもいい?」

「うん……、問題ないよ。早く帰っても、宿題とゲームするくらいだし」

「ありがとう! じゃあ、授業が終わったら、
 下駄箱の近くのトイレの前で、待ってるね」

「わかった。じゃあ!」

小走りに去る男子。その後ろ姿をちら、と眺めながらも、
Mは図書館すべての位置に、意識を集中させていた。
今は何も感じない。いや、かすかな霊の気配はあるが、
呪いや霊障とは無関係なほどの、微量なもので、
この世界ではごくまれに、自然発生する程度のものだ。

今のMには、この図書館の霊の、強い負のエネルギーは
感じられない。その原因は、なんなのか。それは俺とRに
関係あるのかないのか。そして、俺と神のゲームに関係ある
のかないのか。

 まあ、今考えてもしょうがないな。

Mは闇の中で目を閉じ、心を無にし、「正のエネルギー」の充電に、
集中することにした。

<つづく>

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