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世界一かわいい部室の使い方

を今日見つけてしまったの。


なんだと思う?


それは“恋人たちがハグをするための場所”。


部室のはしっこでバレンタインにもらったチョコを貪り食いながら英単語覚えてたっていうめちゃくちゃな時に、チームメイトのとある女の子がひとこと。

「Sarah、申し訳ないんだけどさ、ちょっとあと5分でここ外せたりしない?」

(え?5分?まぁいいけど…  誰か呼ぶのかな?)

英単語帳からは目線を外さずに何も考えてない風に
「誰か呼んだりする感じ〜??」って言ってみた。

聞けば彼氏と部室で会うそうなのだ。
人目を憚らず2人きりになれる場所が部室ここらしい。人前でできないからここでハグをして一緒に帰るのだそう。頬に林檎を宿して照れながらそう言った彼女がもう既にかわいかった。

その彼氏は同級生で同じくチームメイト。一昨年の秋くらいから付き合っている。しかもずっとラブラブらしいのだ。なんともほほえましい、有名カップルがその2人。

いやいやそれにしても世界一かわいい待ち合わせなんじゃない、これ?彼氏呼んで、ハグするためだけの場所なんでしょ?

もちろんもちろん、どきますよどきますよ。
それはそれは、よろこんでよろこんで。

2人がハグしてる時にわたしが端っこでチョコに齧り付いているだなんて、異端過ぎるからね。

周りを見渡せば女子部室とは思えないほど物が散乱してるし、汚部屋以外に似合う言葉が見つからないくらいメチャクチャなこの部屋が、2人だけを包み込む場所になるだなんて…
当然の如くわたしはいちゃいけない気がした。

チョコと一緒にお暇しよう。

無理矢理口に押し込んで、退散する。

前、部室でファーストキスをしたとその子は言っていたけれど、キスよりハグのための空間の方が、この汚ねぇ部室にあっている気がした。

わたしが帰った後の部室で彼女は、彼氏を待ってそわそわするんだろう。歩き回っちゃったりするのだろう。“なんちゃって掃除”をするのだろう。リップを塗ってかわいくするんだろう。

ああ、かわいいな。

ボロい部室も、汚ねぇ部室も、なんか臭う部室も。
いつものこんな部室も、2人が映画のセットにしてくれるなら、よかったなって言ってやりたい。
ただの物置じゃなくて2人のためのシェルターになれるんだよって言ってやりたい。

そう思いながら部室から遠ざかる。
校門に行く途中に、あの彼氏の方とすれ違った。

これから何が起こるのか、わたしは知ってるけど。

「おうおつかれ!」
っていつも通りに声をかける。

彼もまたいつも通りに返事をした。

これから何が起こるのか、わたしは知ってるけど。

部室をもう、ただのボロだと思わないだろう。

なんたってあれは、
世界一かわいい使い方をされているのだから。

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