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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #38.0
「高い…ね」
「うん」
「どうやっても、無理だよね」
「きっと何か方法があるよ、考えよう」
「うん」
そうは言ったもの、今の時点では何も良い案は浮かばなかった。イギーに直接伝える?どうやって?そもそも信じてもらえるだろうか。動画や画像を送ったところで信じてもらえる確証がない、世界中からそんなのが送られてきているかもしれない(実際僕らは一度軽くしくじっている)。警察に相談する?荒唐無稽すぎて信じてもらえないだろう。そもそも事情をうまく説明する自信がない。
「ここは、いったん退こう。よく考えてから、また来よう」
「うん、でも売れちゃったりしないかな?」
「可能性はなくはないけど、42万円のキバタンの買い手がすぐに見つかるとは思えないし、もし売れちゃったらミキモト君に頼んで、買った人を調べてもらおう」
そんなことができるのかはわからなかったけれど、ドレラを安心させたい一心で、そう言うしかなかった。
「念のため動画に撮っておこうか」
「そうだね、でも、無断ではダメだよね?」
そのとき、丁度良いタイミングでミキモト君が戻ってきた。
「いやぁ、お待たせしました。店長の話が長くて長くて。困ったもんです。ん、どうしたんです、二人とも神妙な顔して」
「あ、あのさ、このオウムなんだけど、ちょっと動画や写真撮っても平気かな?」
「気に入ったんですか、そのオウム。お目が高いですね、この店で現在最高価格の一羽ですよ。それを撮りたいわけですね。撮影に関しては良く聞かれるんですよね、SNSに上げたいからとか。なので店の答えも決まってるんですよ、私的利用に関してはオーケーです、って。ほら帰ってからじっくり考えて買うかどうか決めたいって人もいるんで、その参考にもしたいだろうしってことで」
一を聞いて十を知る、まではいかないが、一を聞くと二倍三倍になって返してくるのはミキモト君の特性なのかもしれない。ミキモト君の話が終わらないうちに僕たちはスマホをかざして、ビギー(ほぼ実物)を撮影した。画像にも動画にもおとなしく収まってくれた。
他を見るどころではなくなってしまったので、僕らは取り敢えず店の外に出た、事情を飲み込めないミキモト君も一緒に。
「取り敢えず、ビギーを確保するための方法を考えないといけない」
「うん」
真剣に話し込む僕たちの横で、ミキモト君がなんだか不満げな表情を浮かべた。いや、もちろんそれで終わる彼ではない、早速口を出してきた。
「二人とも急にどうしたんですか。何かこの店に問題でも?もしあるなら言ってください、僕から店長に言っておきますので」
謎の責任感が彼の中に芽生えているようだ。バイトのミキモト君にそんな力があるとは到底思えなかったが、話をややこしくしたくはない。
「いや、何の問題もないよミキモト君。とても良い店だと思うよ、動物たちも可愛いし。ただ…」
「ただ、どうしたんですか?少しでも気が付いたことがあったら言ってください、善処しますんで」
「いやだからないって。困ってるのは僕ら自身の問題なんだ」
「どうしたんです、一体…?」
僕らの話を黙って聞いていたドレラが、やさしく語りかけた。
「詳しい話はできないんだけど、ものすごく簡単に言うとね、私があのオウムを買いたいっていうことなんだ」
「あの、オウムをですか?」
「うん。それもかなり急いで、そしてもっと言うと、どうしてもって感じで」
「そんなにあのオウムを気に入っているんですか?」
「うん。かなり気に入ってる」
ドレラは嘘は言っていない。おそらくこの街に限って言えば、一番と言っていいはずだ。
「何か事情がありそうですねぇ」
この男、勘が良いのか鈍いのか本当にわからない。
「わかりました。ちょっと待っていて下さい。あのキバタンに問い合わせがあったとか、予約が入りそうとか、調べてきますよ」
「それはありがたい。ぜひお願いするよ」
人の役に立てるのが嬉しいのか、ミキモト君は颯爽と店の中へ消えていった。実際、彼が言ったことを確認してもらえるのは有り難い。僕らに少しばかりの猶予が与えてもらえるかもしれない。
「大丈夫だよ、ドレラ。キバタンを今すぐ買おうなんて人は、この街にはいないはずだよ」
「うん、ありがと」
そう言った後、ドレラが何かに気づき、ちょっと意地悪そうな顔で僕の顔を覗き込んできた。
「な、何?どうしたの?」
「今、キネン君、何て言いましたか?」
「え、買う人いないって・・」
「いや、その前ですぅ。私のこと、何て呼びました?」
「え、え?あ、ド、ドレラって・・」
「ふふ。初めてドレラって呼び捨てにされた気がする」
そうだったかな?自分でも覚えていない。
「え、あ、ごめんなさい。励まそうと思って、夢中で、つい」
「なんで謝るの?嬉しいよ。うん、じゃあ、これからはドレラって呼んで」
「え、いや、どうかな」
「ダメ、決まり」
普段のドレラに戻ってくれて嬉しかったが、おかしな約束を交わすことになった。でも、もちろん嫌ではない。
「わ、わかりました、ド、ドレラ」
あまりのぎこちなさに、ドレラが吹き出した。僕は大いに照れ、恥ずかしさでクスクス笑う彼女の顔を直視できなくなってしまった。
(続く)
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