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【連載小説】アナザー・ガール アナザー・プラネット #9.0
「やっぱりイギーって名前だけあるわね。きっと猟犬みたいにカッコいいんでしょう?」
僕は黙ってスマホに映し出したイギーの画像を見せる。ここで選択を誤ってはいけないと思い、できるだけ勇敢な姿のイギーを選んだ。
「うん、凛々しい」
この流れに乗らないわけにはいかない。次にディフォルメされて可愛くなったイギーも見せる。
「うわ、可愛い」
嬉々としている彼女を見ると、どこにでもいる、そしてかなり可愛い女子高生だと確信する。もし目の前に座って、彼女を見たら健全な男子高校生のほとんどがそう思うだろうし、その中の結構な人数が恋に落ちるかもしれない。僕はといえば、かなりそのゾーンに入っていると言ってしまって差し支えない。もっと言うと、彼女が姿勢を正してからというもの(さっきのこともあって)、真っすぐ彼女の目を見ることができなくなっていた。
「イギーはボストン・テリアかなぁ?」
僕の思いなど知る由もなく、無邪気の塊が問いかけてくる。
「どうだろう?ちょっと待って」
即座にスマホで調べる健気な僕。「ジョジョ イギー 犬種」とスマホに入力する。たくさんの記事のどれもが「ボストン・テリア」だろうと伝えてくれた。オウムと犬について詳しくなってどうするんだ。そういえばイギー・ポップかストゥージズの曲に「I Wanna Be Your Dog」って曲なかったかな?英語が苦手な僕にでもわかる怪しさ満点の歌だ。イギー(犬のほう)になって彼女と戯れている、そんな姿を想像してみる。いや、僕は何を考えているんだ?自分の感情が理解できなくなり始めていた。平静を装い、彼女に伝える。
「どうやらボストン・テリアで間違いなさそうだよ。だいぶディフォルメされてるみたいだけど。あ、浅野さんは、なにか動物飼ってるの?」
突然の質問に驚いたのか、彼女は一瞬僕を見て、その後吹き出した。
「何かおこしなこと言った?」
さっきの妄想で顔が赤くでもなっていたのだろうか、僕は焦る。
「いや、ごめん。急に浅野さん、とかいうから、可笑しくて。ドレラでいいよ」
心の乱れが原因でなく安心はしたけど、また別の問題が浮上した。そういえば彼女の名前を呼んだのは初めてだ。名字だろうが名前だろうが女の子の名前を呼ぶのはなんとなく緊張する。いや、そもそも下の名前で女の子のことを呼ぶなんて(妹を除いては)小学生以来かもしれない。
「いや、じゃあ、ドレラさんは何か飼ってるの、犬とか猫とか?」
「うん、ドレラさんは、犬も猫も飼っていない。でもブラックゴーストを飼ってる」
完全にからかわれている。でもここでめげるわけにはいかない。
「ブラックゴースト?なんか怖そうな名前だね」
「いや全然怖くないよ、むしろ可愛いから」
「いや、ごめん、知らないんだけど、鳥とか?」
「違うよ、ブラックゴーストは熱帯魚」
鳥、犬ときて次は魚か。自分は生き物を飼ったことはないし、好きってわけでもない。熱帯魚に関して言えば正直興味を持ったことはない、いや僕の人生に登場してきたことすらなかった。ぎりぎり『ファインディング・ニモ』の主人公くらいか。だからある意味今回が初登場のシロモノだった。女子高生が熱帯魚を飼育するのがどれくらいポピュラーなことかはわからなかったが、男子高校生だったとしても少数なんじゃないだろうか。
「ちょっと調べていい?」
彼女は頷く。画像検索してみると、黒いかばんの取っ手みたいな魚が現れた。夜行性で、泳ぎながら微弱の電流を発し、エサや障害物を探知するのが特徴の熱帯魚で古代魚の仲間だそう。初見だけれど、どこをかわいいと思えばいいのか見当もつかない。やっぱり彼女のセンスは理解し難い。
「かわいい・・の、これ?」
「遊ぶし、寝るし、懐くし、最高」
「懐くの、これが?」
「ちょっと、さっきから怪しんでるし、コレとか言うし、なんかイヤなんですけど」
「ち、違う、ごめん、ちょっとびっくりして。えっと、ドレラさんはブラックゴーストさんを何匹飼ってるの?」
彼女がまたクスクスと笑い出した。
「ブラックゴーストにも私にも「さん」付けしなくていいわよ。今は二匹飼ってる。名前はウェンディとレミー。でもオスかメスかよくわかんないんだけどね」
「ウェンディとレミーって名前は何から?やっぱりイギーと関係があるの?」
彼女は急に顔を赤らめ、前髪を手で抑え、自分の目を隠した。
「教えない。秘密。そ、それよりイギーに会う方法考えましょうよ。そのためにここにいるのよ、私たち」
ますます不思議でならない。二匹のブラックゴーストを飼い、その熱帯魚の名前の由来を訊ねたら顔を赤らめる女の子。そんな女の子が僕の目の前に座っていた。
(続く)
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