女の子らしい格好をした越谷夏海(なっつん)はなぜ写真を撮られるのを拒んだか
越谷夏海(なっつん)とは
のんのんびよりに登場する登場人物のうちのひとり。旭丘分校に通う中学1年生で、越谷小鞠と越谷卓の妹である。
快活な性格のムードメーカー兼トラブルメーカー。宮内れんげの姉である宮内ひかげ(ひか姉)とはパンとバターの関係で、彼女が帰省した際によくトラブルに巻き込んでいる。遊んでいる。
愛称は「なっつん」だが、そう呼ぶのは宮内れんげのみである。小毬からは夏海、一条蛍からは夏海先輩と呼ばれる。(文中では以降「なっつん」で統一)
女の子らしい格好をする回
普段のなっつんはラフな格好を好み、髪も基本ボサボサだ。お洒落には無頓着で、ファッションには興味がない。そんな彼女が一瞬だけ女の子っぽい格好をするエピソードがある。
隣に住んでいる富士宮このみ(このみ姉)が、自分が中学のときに着ていた服をなっつんに着せる回だ。髪を梳かし、このみの持ってきた服を身に纏ったなっつんはまるで別人(注1)のように変身した。眼鏡をかけると知的に見える(注2)ように、外見の変数をいじると印象ががらっと変わる例は多いが、ここまで極端なケースは稀だ。
自分の姿に戸惑いつつも、彼女は、小毬の悔しがっているようすを見て気をよくしていたが、せっかくだから写真を撮ろうという話になり、急にうろたえる。
そして、れんげにかわいいポーズをするように要求されたところで赤面しながら逃げ出し、再度登場したときには以下のような格好になっていた。
ここでひとつの疑問が浮かぶ。なぜ彼女は、写真撮影の段階になって唐突に羞恥を覚えたのか。
写真を撮られるまでの彼女は、面倒くさがりつつノッている部分もあり、恥ずかしさを覚えているわけではない。それが写真を撮られる状況になって、突然恥じらいを感じたのは変ではないだろうか。
だが、彼女の一連の感情の起伏は、「今の自分の姿が記録媒体に残る事態を恐れたから」という理由で説明できる。
写真の撮影を回避したのは、過去の学習の結果だ
なぜ記録媒体に残ることを恐れたかを説明するために、もうひとつ、なっつんに関するエピソードを紹介したい。
なっつんはある日、小毬、このみと共に部屋を掃除していた。そのとき偶然ビデオテープが出てきたので、3人はリビングでそれを再生する。
画面に映ったのは幼少期のなっつんと兄の卓だった。彼女は卓に抱きつき、「ウチ大きくなったら、兄ちゃんのお嫁さんになる〜〜〜!!」と高らかに宣言していた。
慌ててビデオを止めるなっつん。
その後、小毬とこのみはテレビゲームを始めたが、なっつんはその横で顔を覆いながら悶えつづけたのだった。
なっつんが可愛らしい姿のままの写真撮影を避けたのは、上記の出来事があったからではないか。
撮影時に突然恥ずかしがったのは、ビデオの一件が頭をかすめたからだ。今の姿を写真に残されると、のちの黒歴史になるかもしれないと憂慮した彼女は、一度逃走し、普段の自分らしいと思っている格好で再びカメラの前に姿を現したのだ。
時系列の問題
一方で、この説には疑義が呈されている。日本在住の会社員であるsuperneko氏は、かわいい格好をした日付と幼少期のビデオテープを観た日付が逆である可能性を指摘した。
アニメの場合、なっつんが可愛らしい格好をしたエピソードは2期9話で放送されており、ビデオ羞恥回は1期9話だ。原作では、可愛らしい格好は7巻52話で描かれ、ビデオの羞恥エピソードは6巻42話に該当する。原作、アニメ両方とも我々の生きている現実の時間と照らし合わせれば時系列の問題はない。
だが、これだけでは説得力としては乏しい。のんのんびよりが、「ドラえもん」や「サザエさん」と同じタイプの作品だからだ。要するに、季節が我々の生きる現実と同様に春→夏→秋→冬→春と変化しているにもかかわらず、キャラクタの年齢は変化せず、登場人物たちの学年は3月から4月になっても上がらない無限ループ型の構造になっている。そのため、時系列を特定するのが非常に困難なのだ。現実の時間を参考に比較するのは賢明ではない。
問題のシーンでは、すべてのキャラクタが、どちらの回も似たような服装だったため、衣服から正確な日付を割り出す手法は通用しなかった。2つのシーンを放射性炭素年代測定法(注3)で調べるアプローチも、経年劣化しないデジタルの長所に阻まれ失敗に終わった。
結び
以上の点を整理すると、次のようになる。
①なっつんがかわいい格好で写真撮影を拒んだ理由は、自分自身の黒歴史が幼少期と同じように記録媒体に残ることを嫌ったため
②この仮説は、時系列の問題を考えると根拠が薄い
なっつんは作品にてイベントを起こすトリガー役として機能しており、ほかにも夏休みの宿題ボイコット事件、月見団子事件(注4)といった興味深い事例が多く転がっている。折に触れて研究し、筆を執りたい。
注釈
1.実際、別室にいた宮内れんげがかわいらしい服に着替えた夏海を初めて見た際には、「知らない人がいるん!」と口にしている。この事実から、彼らの世界でも変身した夏海が別人のように見えたと理解できる
2.Helmut Leder, Michael Forster, and Gernot Gerger. The glasses stereotype revisited. (Swiss Journal of Psychology, 2011)
3.放射性同位体が放射壊変によって減少することを利用し、年代を測定する手法。ウラン、トリウム、ベリリウムなどを用いた放射年代測定法が存在するが、多くの学者が頻繁に利用するのが放射性炭素(14C)を利用した放射性炭素年代測定だ。その理由は、人間や動物の骨、地層に含まれた植物の花粉、火をおこすために使った木炭、建築物の壁や柱など、多くの物質に炭素が含まれているためである
4.筆者が命名しただけで、作中このような名前が出るわけではない
参考
のんのんびより(アニメ1期)
のんのんびより りぴーと(アニメ2期)
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