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小言のこごと、その8

あなたにとっての146.7mmの小言は、私にとって3日間の今夏の悲劇かも。



GENERATIONS from EXILETRIBEの小森隼さんがTOKYOHEADLINEで連載中のコラム、「小森の小言」。

https://www.tokyoheadline.com/520045/

第60弾のテーマは「携帯」でした。


私は彼の事を何にも知らないし、エスパーや魔法使いみたいに心を読んだりとか、そういうのも出来ない。

それでも「ああ、きっとiPhoneの事だろうな」と今回のテーマが提示された時点で大方想像出来てしまうから、彼の好きに素直な生き方ったら堪らなく良いな、と思うのである。


さぁさぁ読者諸君
小言読者ならばタイトルだけでピンと来たのではないでしょうか?
はたまた、前回のテーマを発表した時から
勘のいいあなたは気付いていたのではないでしょうか?


しかしまあ、こちらが察する云々というよりも、実は私達はどこまでも彼の手の中で楽しく転がされてるのかも。
なんて狡い、願わくばいつまでも翻弄して「悔しい!」なんて、本当は嬉しい癖に喚きながらときめかせて欲しいものです。何卒宜しくお願い致します。



これだけ愛し愛され、まるで初恋のあの子に再会するかの様に胸を躍らせながら彼を待たせたiPhone12は、今頃彼のお洋服のポケットの中に居る。或いは大きな掌の中なのかな?


13日の金曜日にやってきた彼は(どちらかというと彼女な気がしちゃうけど)、果たしてどんな風に彼の心を掴んでるのだろう。
在りし日のはじめて彼と共に生きたiPhone4を彷彿とさせるその風貌、アップデートされゆくその機能達...未だにiPhone7という、随分と前の時代を遅れて歩む私には分からないけれど。

ああ、恐らく世界で1番幸せな彼の下のiPhone12さんよ。どうか末長く彼の傍で幸せで居て。



信じたくない、信じたくなかった。



枕元に転がるいつものiPhone7の画面は真っ白に染まって、真ん中には見慣れた黒い林檎のロゴ。変わらぬ画面、少しだって動かぬ愛しのiPhone。
そしてなにも手付かずの自分への無力感。

私はあの真夏の3日間の悲劇を、きっと忘れない。



事は今年の8月、茹だる様な暑さが続いた夏の朝に起こったのである。

そもそも数日前から小さな予兆は感じていた。「iPhoneのストレージが不足しています」、
いつだって携帯を変える時は少なめのストレージのものを選んでしまう私だから、大体使い始めて1年足らずで毎日の様に届き始めるお知らせ。バックアップは取っていても画像や動画を消しちゃう事に何故か抵抗があって、尽く「うるさいなあ」なんて無視する事が常だった。
この時の私は、まさかこれが悲劇の発端となるなんて少しも思いやしていなかった。馬鹿だな、と今思う。


ある平日の朝目覚めると、私のiPhoneはもう動こうとはしなかったのだ。


その日何故か何かを察したのかいつものアラームより早く目が覚めて、(ただ偶々目が覚めただけだけど)状況が何やら分からず呆然としながら何度も電源ボタンを長押ししたり、はたまた充電ケーブルに繋いだりしたけれど、もうそれはうんともすんとも言ってくれやしなかった。
煌々と照らされた真っ白な画面に、ちょっと忌々しさすら感じ始めた林檎のシルエット。私の目の前に映るのは、ただそれのみだった。


平日の朝の時間の限られ具合は、誰でも彼でも容易に想像出来るものかと思う。
洗顔に歯磨き、身支度を整えてる間にヘアアイロンを温めて、お弁当を詰めながら朝ごはんの準備をする。所要時間は約50分。

それらの全過程が待ってる私にとって、息絶え絶えとしたiPhoneのお世話に全ての時間を明け渡すなんて事は到底出来なかった。


なんなの、どうしてこうなるの、
まだ火曜日とけど!

そんな事考えながら玄関を飛び出す直前に「命綱」ことiPadで取り急ぎ調べたところによると、私のiPhoneを襲ったこの謎現象は通称「リンゴループ」と呼ばれているらしい。 

原因は様々。電源を入れ直したりあれやこれやの方法で元に戻る場合があるらしいけれど、私が1番に心当たりがある「iPhoneのストレージ不足」はというと、どうやらもう為す術は無いらしい。
いわば容量が無いから元に戻る為に頑張る余力が無い状態、最早絶対絶命。というかもう絶命してる様なものだけど。


「でもまあ、携帯屋さんに行ったらどうにかなるでしょう」
そんな事軽々しく考えながら通勤路を走った私は、これからかなり痛い目を見るのである。


まず「時間が分からないこと」。
社会人1年目、毎日付けていたら腕時計の形に見事にくっきり日焼けをして以来、私はすっかり時間の把握をiPhoneに任せっきりだった。
地下鉄に乗って、降り次第慌ててバスに乗り換え、その後20分程の徒歩。延遅だとかの可能性も大いにあるから時間の把握は絶対条件。
なのに当然時間が分からないものだから最早勘で動くしかない。もしいつものバス停を寝過ごして通り過ぎてしまったら、私は多分職場には辿り着けない。その状況に怯えっぱなしだった。
(その割に気に入ったものに出会えなくて未だに腕時計を手に入れてないから、私は強情だなと思う)


ふたつめは「連絡が取れないこと」。
誰しもが1番に困る事象だろうか、携帯電話として最も大切なところなんだけれど。
例えばひとつめと関連付けると、通勤路で万が一の時に誰にも報告が出来ない。仕事中も然り、職場じゃまだまだ1番年下の私にとって頼るべき・仰ぐべき人達と疎通を図れないってかなりの痛手。外部に出る仕事中も何か起こりやしないか気が気じゃなかったなあ。


そして最後は、「隼くんの声が聴けないこと」。



「いや、何を言ってるんだ」と呆れられそうところではあるけれど、私にとって1番の痛手だと大声で叫びたい。辛い、困った、聴かせておくれよあなたの声を!

というのも社会人になって約1年半、出勤初日から実は彼のラジオ番組の過去のある約1分を必ず聴いているのだ。
職場に向かう徒歩の最中、職場前の最後の曲がり角から再生。気が付けば時間を重ねて6つに彼の声は増えていて、それを仕事前に聴く事が私のある種のルーティン。頑張る彼の頑張る声に、魔法を掛けて貰うのが私の毎朝のお決まり。

なのに、それが為せないという事実。玄関を出る前に慌ててiPadで聴きはしたけれど、それでも彼の声が無いいつもの道は寂しい。
ただでさえ真夏の暑さにしょぼくれてるのに、彼の声無しにアスファルトの照り返しを浴びながら歩くだなんて!


想像してたよりずっと困る事に気が付いて、帰り道慌てて飛び込んだ携帯屋さんで私は更に絶望する事になる。
平日の夕方も更けた頃にも関わらず数十名の待ち、「本日はもう予約は出来ません」との店員さんの声。
そう思うとこんなにも遅い時間まで、きっと故障に動揺して無理難題を問うひとや、私みたいにちんぷんかんが故にちっとも説明を理解しない人だって居るでしょうに勤め上げるって、それは凄い事だよなとしみじみ思う。あなた方はとっても大変なお仕事をされてるのね、毎日本当に、本当にお疲れ様です。

「代わりにこちらにお電話ください」と差し出されたオペレーターさんの番号にて懇々と話を進めたところ、結果として「新しい機器をお送りします、2日後に」ということで話がまとまった。


そう、あと2日。
通算3日間、まだまだ困った生活が続くのである。


昨夜までの自分への恨みつらみがむくむくと湧き出たり、腕時計を買うべきかと一瞬だけ悩んだり...そういう内々の感情をよいしょと抱えながら家路についた。




気が付けばあれから3ヶ月が過ぎて、今はあの3日間を過ぎてやって来た新しいiPhoneが私の手元で頑張ってる。この文章だってこうしてこの子でぽちぽちと打ち続けてるのである。
今思い返してもあの3日間のことを思い出したら溜息が出るばかり。きっとこの子とはあと半年程度の付き合いになるだろうけれど、それでも大切にするからね..とひっそりちょっと誓ってみたりするのだ。


私の生活を、好きをいつも支えてくれて有難う。
もう私、あなた無しじゃ生きれない。

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