勝手に本人スピンオフ『宮本浩次VS玉置浩二 歌化け物とスーパーボーカリスト達の宴(4)』
(前回までのお話↓)
「なんだなんだ、おめーら大の大人が四人も集まってぐちゃぐちゃぐちゃぐちゃ。ここは休憩スペースでな、おめーらが喧嘩する土俵じゃねえんだよ。喧嘩したきゃ国技館か武道館にでもいけよ。おめーらがうるせえから俺の
コーラの炭酸が抜けちゃったじゃねえかよ、どうしてくれるんだあ?おい」
のっけから畳み掛けるような調子で4人に突っ込ませる隙を与えない千春のマシンガントーク。
ここで言い合いしている事と、コーラの炭酸が抜ける事とどう関連性があるのかと引っかかる宮本であったが、そんな疑問の言葉など口に出すのも憚れる松山の威圧感である。また着ている衣服が紫とオレンジ色の浮かれた柄の派手なサマーセーターなのが「反社の休日」といった独特の恐ろしさを醸し出していた。
「うるさくしてすいませーん。宮本君が玉置さんのライブに出演しない理由に納得できなくてー言い合いになってしまいましたー」
吉井が棒読みで小学生のような反省の弁を述べる。
「そうなんだよ、千春ちゃん。ピロジがなかなかOK出してくれなくて、
つれないんだよなあ。千春ちゃんから言ってやってよ」
すかさず玉置が吉井に便乗した。
「なんでやらねえんだよ、宮本。玉置はお前の大先輩だろ?」
松山がまっすぐ宮本を見て聞いてくる。
「なんでって言われても、昨日今日言われて「はい」って返事できる話じゃないですよ。俺にも心の準備があるし…」
「心の準備ってお前なあ、(失笑)やりたいならやる、やりたくないならやらない、それだけの話じゃねえかよ」
玉置と対決する理由も、吉井と松山に責められる理由も宮本にはさっぱり分からなかった。これは事故のようなものなのか。
「じゃあ、だったら松山さんがやればいいじゃないですか」
子供のようにむくれて宮本は言ってみる。
「そんなね、俺がやるわきゃねえだろ〜よ〜!お前な、バカも休み休み言えよ?」
艶のある声で松山は宮本を叱りつける。
「俺はいいんだよ、俺は。別にやってもさ。でも俺は日本一どころか、世界一、いや宇宙一歌の上手い男だよ?そんな俺が玉置と一緒にステージ立ったら、玉置の顔を潰しちゃうだろうよ。そんなの玉置に失礼だし玉置のファンを悲しませちゃうだろ?俺のファンも俺が単独主役じゃなくて、ダブル主演みたいなね、そんな扱いに心を痛めるだろ?俺はお客様の為にだよ、泣く泣く辞退してやってんだよ。分かってねえなあ、俺のこの自己犠牲精神をよ」
己の歌に一ミリの疑問を持たず立て板に水が如くまくし立てる松山に圧倒される宮本。密かに自分だって世界一の歌い手だと思っているが、宇宙一とまでは言い切れないでいた。
「ようし、分かった!宮本、お前の好きな食べ物はなんだ?」
唐突に話が飛躍する。一体、何が分かったのか。
「…虎屋のようかんです…」
「よし!あんこが好きって事だな?じゃあライブの日になあ、俺がとって おきの今川焼きを差し入れしてやるよ。俺の知り合いが十勝平野でな、わざわざ無農薬で手間暇かけて小豆栽培をしていてなあ、それに和三盆で甘みをつけた上品なあんこ。それがびっしり詰まってるうまい今川焼きを差し入れしてやるよ。しかも粒あんとこしあん、両バージョンよ」
「へえ、美味しそう。楽しみだなあ。ね?ピロジ」
玉置が笑顔で同意を求める。
「今川焼きだってさ、宮本君。良かったね」
吉井が半笑いで宮本を見下ろす。
確かに甘党の宮本にとってその今川焼きはちょっと気になる。いや、かなり気になる。
しかしそれとこれとは別の話だ。
「いや、そんな差し入れされるって言われても俺はやりませんよ。だったらその今川焼きを買いに行くんで店を教えて下さい」
「そういう事を言ってるんじゃないんだよ。なんだよ、宮本、何で嫌なんだよ。あ、分かったぞ。さてはお前、俺や玉置みたいな道民をバカにしてんのか?北海道をバカにしてんだな。地域差別だな」
突然、地域ネタに結びつけて被害者を装って優位に立つ鮮やかなトーンポリシング的な言いがかりに呆気にとられる宮本。さすがはオーロラ色の声色を持つ反社、松山千春である。
「あ、そうだそうだ!ひどいな、ピロジ。北海道をバカにして。北海道はでっかいどうなのに!」
玉置はここぞとばかりにニコニコと松山の言葉にのっかった。
「北海道をバカにするなんて、俺はそんな事、一言も言っていない!」
「言ってなくても言ってるようなもんだろ?今、お前は北海道のすべての人間を敵に回したぞ、許せねえなあ、悔しくて悲しくて涙が出てくるぜ」
「ほんとほんと」
困り果てる宮本に助け舟を出すのはまたしても泉谷だった。
「いや、本当にこの通りだ。宮本を責めないでやってくれよ。解放してやってくれよ」
泉谷が松山と玉置に深く頭を下げる。
「おい、泉谷。なんでお前が頭を下げるんだよ。なんかこの男に弱みでも握られてんのか?」
「違う違う。宮本は俺にとって息子みたいなもんなんだよ。俺の息子をいじめないでくれよ」
「息子だと?おい、宮本、お前は幾つだ?」
「57歳です」
「57?お前、バカ言ってんじゃねえよ。あと3年で還暦じゃねえかよ?下手すりゃ孫いてもおかしくない年齢だろ?それなのに自分のいざこざの後始末を親にさせて、恥ずかしくねえのかよ」
「だから、宮本を責めないでやってくれよ」
泉谷が松山を制しようとしたその瞬間、フラッとよろめいた。
「い、泉谷さん!大丈夫ですか?」
「大丈夫、大丈夫」
「ほら、宮本、どうすんだ?お前のせいだぞ?こんな老いぼれ爺いを盾にして恥ずかしくないのか?」
「老いぼれ爺いだとお?松山、てめえ、いい加減にしろよ、バカやろう…」
泉谷の声は急に怒気を孕み始める。
その場のみんなが、ハッと息を飲む。
「お前ら、さっきから事を穏便に済まそうと人が腰低くしてお願いしてるのに、いい加減にしろよ、このハ○野郎があ!」
泉谷が唐突に松山にギターで殴りかかった。
「や、やめて下さい!泉谷さん!」
宮本は泉谷の背中を引っ張る。
「止めるんじゃねえ!宮本!」
泉谷は往年のジャックナイフ的な鋭い迫力を取り戻している。
「おい、なんだよこの馬鹿親子はよお、上等だよお!運動不足解消にまとめてやってやるよお」
松山は泉谷のギターを蹴り倒して二人はもみ合いとなった。
「やめて下さいよ。よ、吉井君!手伝って!」
宮本は吉井に応戦してもらおうとするが、吉井の目は爛々と輝かせながら「はっけよい!はっけよい!」と半笑いで煽っている。玉置にライブを断られてショックだったが、レジェント二人の喧嘩を間近で見られるとは車3時間ぶっとまして来た甲斐があったと興奮しているのだ。
「あはは!元気元気!やっちゃえやっちゃえ!喧嘩も元気なうちしかできないよ!」玉置も喜んで見ている。仕方なく今度は宮本が泉谷と松山の間に入ってもみ合っているその時であった。
一人の男がものすごい勢いで激しく上半身を上下に揺らす奇怪な動きをしながら宮本達に向かって突進してきた!
「おい、何だ?てめえは?」
「近寄ってくんな!関係者以外立ち入り禁止だぞ!」
たじろぐ松山と泉谷を制して吉井が言った。
「いや、待って下さい。あの危ない奴は…」
そう、その不審者こそ、ストラディバリウスが作りし声帯を持つ長野の山猿こと、KingGnuの井口理であった。
(続く。続きは年をまたいでしまうのか?)
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