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勝手に本人スピンオフ『宮本浩次VS玉置浩二 歌化け物とスーパーボーカリスト達の宴(2)』

(前回までの話↓)

泉谷は首を傾げながらゆっくりと宮本と玉置の元に歩いてきた。

「あ、しげるさーん、久しぶりー!元気してましたかー?」

 玉置が満面の笑みで泉谷の背中をバシバシと叩いた。

「聞いてよ、ひどいんだよ。宮本君が僕とのライブのスケジュールを   なかなか出してくれないんだよー。参っちゃうよー。会場、早くおさえたいのにさ」

 まるで被害者のように玉置は泉谷に告げ口をする。もちろん冗談混じりではあったが、何も悪いことをしていないのに、その言い草はないじゃないかと宮本は心中ムッとなる。

「聞いてたよ。ここに座ってお前らのやり取りを一部始終な。      いいか?玉置。宮本は一度もお前とライブをやるとは言ってなかったぞ? 相手がお前だからはっきり断れないんだよ。あまり宮本をあまりいじめないでやってくれよ。こいつ不器用ではあんまり建前を言えないんだから。な?」

「それは僕もだよ!お互い、本音で勝負してるね!」

 玉置は宮本にウィンクをして同意を求める。

 男からのウィンクにたじろぐ宮本。

「いや、だから本音でもこいつはお前とライブをやるのが嫌…というかだなあ…(流石に言葉を選ぶ)」

「え?ピロジは僕とライブをやるのは嫌なの?」

 ピ、ピロジ…!?

 宮本はそんな風に呼ばれたのは還暦近くまで生きてきて初めての事   だった。

「お前なあ、前の嫁さんをピロコって呼んでたからって宮本を馴れ馴れしくピロジなんて呼ぶんじゃないよ」

「ダメ?可愛いじゃない。ね?ピロジ!」

 玉置さん、薬師丸ひろ子さんの事、ピロコって呼んでたんだ…。    思わぬ情報に宮本は一瞬錯乱する。

「だからやめろって言ってるんだよ。エレカシはバンカラ売りなんだから、ピロジなんて広まったらイメージダウンだろ?それにな、宮本は今は忙しいんだよ。めちゃくちゃ忙しいんだよ。数十年コツコツ頑張ってきて、歌手人生でのピークが今、やっときたんだよ。数十年だぞ?今が大事な時期なんだよ。それに宮本はやると決めたら命かけてやっちゃって適当に手を抜いたりできねえんだよ。お前とのライブをやるとなったらそっちに全力で行っちゃって、宮本自身の事がおろそかになっちゃうだろ?邪魔しちゃ悪いじゃねえかよ」

泉谷は玉置に穏やかにそして諭すように言った。

その口調はステージで観客を挑発するアジテーターでもテロリストでもない。父性と慈愛に満ちていた。

「忙しいのは僕も一緒だよ!ピロジも忙しいし僕も忙しい。       みんな忙しいよ!元気でよかった!元気があれば何でもできる、ダー!」

 玉置は笑顔全開で右手を高らかにあげて猪木のモノマネをした。

  ダメだ、全く通じない。泉谷は頭を抱えた。

「ピロジ、元気なのにやらないの?それって不戦勝で僕が勝ちって事だよね?」

 玉置は宮本を見つめて言った。

   え?

なんか知らねえがいつの間にか俺が負けた事になっている。       勝負してもないのに…。

宮本の内なる闘志に火がついた。

「ちょっとその言葉は聞き捨てなりませんね!大先輩の玉置さんと言えど」

 玉置は手を叩いて喜んだ。

「おお!来たねえ!じゃあ、やるのね!歌化け物達の宴!」

宮本、馬鹿野郎!」

 泉谷は声を押し殺して宮本の腕を引っ張り、休憩所の隅にまで連れて行く。

「お前ね、玉置の挑発にまんまとのっかってどうするんだよ?俺がせっかく助け舟を出したのによ」

「だって、勝手に不戦勝とか玉置さんが言うから」

 宮本は口を尖らせる。

「いいんだよ、言わせておけばよお。負けて勝つって吉田茂も言ってるじゃねえかよ?な?」

「戦ってもないのに負けたって言われるのが俺はどうも気持ち悪くて。」

「お前のそういう所は俺は好きだけど、無駄な戦いをする必要ねえだろ? 負けて恥を晒すのはお前だぞ?」

「そんなの、やってみなきゃ分からないじゃないですか!」

「いい加減にしろ!宮本!」

 泉谷は鋭い口調で宮本を叱りつけた。

「相手を誰だと思ってるんだ?玉置浩二だぞ?あいつは人間じゃねえ!  人間の姿をした歌なんだよ。歌そのものなんだよ!あいつの『君が代』を聴いただろ?君が代ってのは国歌だよ?国のものなんだよ。それをだなあ、 自分のものに、さも自分が作り出したかのように歌ってしまっても不敬罪に問われないで全国民を納得させてしまう、そんな男なんだよ。勝てる訳ねえだろ?」

「泉谷さんは俺が負けると思ってるんですか?」

 泉谷は決定的な言葉を飲み込み、小さくため息をついた。       そして優しく宮本を見つめる。

「宮本、俺はお前が好きなんだよ。お前の事もお前の歌も大好きなんだよ。いつまでも元気に歌い続けて欲しいんだよ。ずっとずっとお前の事、息子みたいに思ってる。だから、お前が傷ついたり悲しんでるところを見たくないんだよ。そういうの俺は耐えられねんだよ。分かるな?宮本?な?」

い、泉谷さん…ここまで俺の事を思ってくれるなんて…。宮本は胸をつかれた

 その時だった。

「それ、宮本君が出ないなら、俺が代わりに出るんじゃダメですかー?」

 宮本と泉谷が振り返ると、背の高い男がいつの間に二人の後ろに立っていた。

髪をかきあげ、妖艶なオーラを漂わせている。

 イエローモンキーの吉井和哉であった。

 よ、吉井君!

(続く!まだまだ続く!)

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