「DJがミックスして化ける曲」は確実にある
「Dig(ディグ)」
beatportで曲を探していく。お気に入りのレーベル、以前クラブでプレイしてウケがよかったアーティストなどから、ニューリリース、または旧譜を探していく。
試聴のストリーム再生は利便性に富んでおり、盛り上がる部分、静かになる部分がわかりやすく波形で表示されている。
そんなチェックをしながら、一曲でも多く効率よく試聴を進めていく。
限られた時間の中で、大量の楽曲に埋もれた「自分だけの1曲」を探す。「DJ」と名乗る者がもっとも時間を費やし、魂を燃やす作業である。
「Dig(ディグ)」と呼ばれる。
便利になったことの弊害
Digという言葉は、立てて収納されているレコード盤を一枚ずつめくる仕草と、モグラが穴を掘る動きが似ていることからそう呼ばれたらしい。
「深掘りしていく」という意味では、PCから楽曲を探すデジタルな作業でも同様の言葉で通用するため、現在でも違和感なく使われている。
クラブミュージックはレコードからデジタルに移行してから供給過多状態にある。技術の進歩により、だれでも曲を作ってリリースできる環境にあることから、様々な趣向、クオリティと楽曲に幅があり、全体を把握することが難しくなった。
前述した状況だと、以前より楽曲の良し悪しの判断が鈍ることが多々ある。
特に派手さを欠いた曲は無意識に飛ばしてしまう癖がついた。
全ての元凶とは言い難いが、局所的な試聴が増えたことが招いた事態であることは間違いない。
「流行を創る」
レコードからデジタル音源への移行が完全に済んでしまう直前、「Gammer & Whizzkid - Could Be Real」という楽曲がリリースされた。
UK HARDCOREシーン屈指のボーカルアンセムである。国内のクラブパーティや配信でよく耳にする「DJ Noriken - REMEMBER BLUE」もこのトラックのオマージュ(公式な情報は無いが)であろう。Hardcore Heaven Summer Madnessというアンセムづくしのアルバムがリリースされ話題になっていた頃と同時期のリリースで、当時はリリース量も多く追いつくのがやっとであった。
ハードコアDJ目線だと、当時はTrack It Down(楽曲販売webページ)が主流であった。リリースは漏れがなく、価格も他サイトよりも安かった記憶がある。
忘れもしない、そのTrack It Downで試聴を続け、「Gammer & Whizzkid - Could Be Real」を買い物かごに入れて、それと同じシングルに収録されていた曲を試聴して、食指が動かなかったため買わなかった曲がある。
このJumpは、当時はまだレコードも販売されていたので、Could Be RealのB面扱いで収録されていた。
クラブシーン全体で大ヒットしていた「Major Lazer - Pon De Floor」のイントロをサンプリングしていたため、いわゆる「変態系(バウンスコアとかその類のハードコアは当時全部そう呼ばれていた)」か、と判断して見逃してしまった。
この「Gammer & Whizzkid - Jump」は、今までに類を見ないほど、何度も何度も、そして長い期間クラブでプレイされた。一晩に一回、100%必ずプレイされると言っていいほどの人気曲になった(メロディの構成がない楽曲がここまで流行ったのはおそらくJumpが初めてだったため意外だった)。
スタートダッシュを逃すと、最初にプレイしはじめた「あのDJの曲」のような認識がついてしまい、こちら側としては二番煎じに感じてしまいやる気も削がれるものである。
音楽とは「連続」である
私がGammer & Whizzkid - Jumpをなぜ買わなかったのか、詳しくは覚えていないが、魅力を感じなかったのは確かである。
それはなぜかというと、試聴の形態にも原因があった。
Gammer & Whizzkid - Jumpは、ドロップが2種類あり(上記動画0:39-と1:24-)、片方のドロップしか試聴していなかったことはよく覚えている。
部分的に聴くと飛び道具すぎる印象があるが、点ではなく線として、ここまで流れで聞けばメリハリのついたハードコアでありミックスの用途も想像できた。私がこの部分に気づいたのはクラブで他人がプレイしているところを見たときである。
完全に自分が悪く、他人のせいにするようで忍びないが、もしも波形が表示されず飛ばしづらい仕様だったら、たまたま欲しいセクションの音が耳に入ったら、もしも必要な場面で必要とされるプレイをしていたら、運命が変わっていた可能性もあるかな、とぼんやり思う。
DJには楽曲の用途を想像する能力も必要だ
いい感じの曲だから、好きな曲だから、ではなく、適所を埋めるような感覚で購入することが多くなった。試聴する際も、クラブのフロアで鳴らすことを想定して、人に聞かせて良いサウンドが鳴るかの判断後は全体を通して確認し、あの場面で使える・あの曲と合いそうだな、と考えることがほとんどである。
そして、ミックスして初めて威力を発揮する曲は必ずある。
DJの醍醐味は、作曲者以外が作曲者以上に魅力を引き立てることであると思う。そして楽曲の魅力を血眼で探すこともまた、DJにしかできない醍醐味の1つである。
楽曲を探すことだけに気を取られず、悩むことと失敗を恐れないで、レコードボックスの内側で新しいミックスもDigすることを続けていきたい。
新作ミックスのお知らせ
YOU HARDCORE YOU LOSE (2020 SPRING)
MIX : DJGEN
RELEASE : 2021/4/4
TIME : 32:25
「踊ったら負け」をコンセプトに、2021年1〜3月にリリースされたUK HARDCORE楽曲のみで構成しました。
自信作です!ぜひ我慢してみてください。不可能だと思います。
8曲目の「The Boom feat. Killer MC (Original Mix)」なんかは、流しで聞いて初めて良いなと思ってゲトりました。殺風景で人をバカにしたようなイントロ(最近こういうのがウケる)からパワフルでフューチャーチックなリフに移行するギャップが良く、Killer MCの勢いが良いのでビルドの流れのまま次の曲のノーティーセクションにカットしました。もっとメチャクチャやっても違和感なくミックスできるっス!
聞いてみてね〜