【 建築の設計方法 】
▼ 00. あらすじ
初めて建築の設計課題をした時にエスキスの先生に鼻で笑われて「お前、そんな作品で満足できる?」の指摘されてそれがすごく悔しくて建築の理論書をたくさん読み漁り、今になってやっと建築について少しわかり始めてきたけど、その当時思ったことが一つある。"何故、建築の設計方法という本が世の中には一冊もないのだろうか?"という疑問である。今ならそれは当然そうだよねと思えるけど、その時はわからなくがむしゃらに建築を学び始めた。今考えるとそういう『建築の設計方法』という本が世の中に一冊はあってもいい気がする。ただ、そんな本を世に出したら建築界隈に干されるのて、隠れてコッソリ自分が見出した設計方法について、纏めてみる。
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▼ 01. エスキスの基本
基本的に設計課題は『批判されたことを一つ一つ改善(=指摘されたことを直すこと)する』という過程を通して精度が向上することが多い。ただ、それには注意点があってアイロニーとユーモアというモノが存在するが、指摘されたことを改善すると言っても建築家の指摘が常に正しいわけではないからその指摘に対してよく吟味して取り入れた方がいい。即ち、ただ批判を全て改善するのではなく、指摘された意見を自分なりに咀嚼して取捨選択して選ぶことである。時としてはそのエスキスの先生が間違ってると思えたら議論した方がいいこともある。
※ 「批判を改善する」のはアイロニー。一方で「自分を貫いていく」のはユーモア。
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▼ 02. 設計課題をするための準備
建築の設計課題をするまでにした方がいいことをリスト化すると、以下の通りになる。
▪️空間体験→実際に建築を空間体験してどういう建築がいいかを考えるきっかけを作る。
▪️スキル→CAD, Adobe, 3DCADなどスキルがあった方がいい(もちろん、今ならAIや手書きのドローイングの人もいるが、自分の作品を提案することに必要なスキルを身につけると良し)。YouTubeでスキルを教えてくれるチャンネルはいくつかあるので、それを見て学ぶのもいいだろう。
▪️専門用語に慣れる→基本的にジャーゴン(専門用語)はググって一つ一つ覚えていくことが必須。わからない単語は調べる習慣を作るといい。
▪️模型を綺麗に作れる→模型の作り方は、卒業設計の手伝いなどで磨くといい。
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▼ 03. 学年ごとの設計課題と卒制の違い
一般的な大学は一年生で製図やCAD(場合によっては3DCAD)の基本を教わり、二年生から設計課題が始まる。二年生では小規模のアートギャラリー、住宅、集合住宅、公共施設(図書館や美術館)、三年生では主に集合住宅や公共建築が多くなり、規模が大きいモノになっていく。それで四年生は卒制(卒業設計)をやっていくことが大半である。最初は住宅や小規模のアートギャラリーから徐々に学年が上がるにつれ、集合住宅や公共施設のように個人を対象にすることから複数人を対象にした設計をすることが多くなる。
ここで気をつけなければならない留意点が『最適化と例外化』である。建築はある立場の視点に特化した方が最適化されて特殊解(造形力がある作品)にしやすいという現象がある。
例えば、安藤忠雄の「住吉の長屋」というのがある。
住吉の長屋は、中庭という通路を通り抜けて部屋に行き来するというモノである。当然、中庭には屋根がないので雨や風も入る。常識的に考えれば住みづらいと思う。でも、これも一つの最適化で、安藤忠雄さんは芸術家気取りと言われている一面もあるけど、例えどんな作品でもクライアントが満足すればそれが通ったりする。その現象を最適化と呼ぶ。
図1の最適化と例外化の話に戻すと、いくつかの視点で物事を考えた時に最適化されたモノをデザイン、例外化したモノをアート(視点の数はその建築に拠る)の傾向が強くなり、建築は誰かに最適化された中で特殊解を作るため、例外化された部分が造形力になる。当然、最適化された領域が拡張し過ぎると造形力も同時に失う。
これが意味するのは、二年生から三年生に掛けて設計課題を取り組む中で最初は遊び心があり、造形力がある作風の人が二年生後期から三年生に上がるにつれて、設計課題を難しく感じるのは、設計課題の内容によって最適化が難しくなるからだと憶測される。つまり、ここで重要になってくるのは、如何にして設計の課題文から最適化が可能なテーマを見つけることが重要になってくる。
そして、四年生に上がり卒制(卒業設計)をすることになるが、設計課題は純粋な設計が多いが、卒業設計になると設計に加えて計画の一面が増えてくる。
これについて補足すると、設計というのは、与えられた設計課題の概要から形をつくることに対して計画というのは、設計課題の概要をつくるところから始まる。これが意味するのは、設計は問いから答えを出すことに対して、計画は問いをつくることから始まる。そのため、卒業設計をする際には、常に問題意識を持ってまちや建築を見て行かなければならない。
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▼ 04. デザインとアートの関係性
「建築はデザインorアートのどちらなのか?」というテーマをよく聞いたことがあるが、正確には建築にはデザイン的な要素もあるし、アート的な要素もある。これは先ほどの図1の"最適化と例外化"で説明したが、建築は必要最低限でその視点に最適化された方が造形力がある特殊解を作りやすい。つまり、アーティスティックな作品(アート風な作品)が作りやすくなり、一方で最低化された領域を拡張し過ぎると造形力も同時に失い、デザイン気質な作品になりやすくなる。
そのため、デザインの特性としては課題解決的で客観的になりやすく、アートの特性としては自己表現的で主観的になりやすいと云われる。因みに、デザインとアートは時代によって移り変わったりする。
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▼ 05. 設計の手法論
ここからは重要に話になります。
「03. 学年ごとの設計課題と卒制の違い」で話した内容で、設計というのは問いから答えを形にして提案するという話を触れたが、それについて具体的な手法論をここから記載します。
(卒業設計は別として)設計課題で重要になってくるのは、問いを探すことである。その上で、ヒントになるのが設計課題の内容と敷地という条件である。設計課題や敷地から問いを見つける場合、5W1Hを意識するといいだろう。例えば、そもそも誰のための建築を作るのか?(Who)、何処で作るのか?(Where)、何故作るのか?(Why)、いつ作るのか?(When)、そして、何を作るのか?(What)、どのように作るのか?(How)。
特に誰に(Who)、何処で(Where)は設計をする上て重要な要素になってくる。建築というのは、施主(クライアント)なしには作ることができない。その作る対象自体が条件として割り出すことができる問いがそもそも存在する。そして、その上で何処に作るのか(?)ということを想定して提案する。その上でリサーチ(敷地調査)をすることが多い。
そうすることで課題文や敷地調査から問いが見えてきてそこから提案をしやすくなる。但し、もちろん、例外もあって問いを拾いづらい設計課題も存在する。それについて後々説明していきます。
前提としては、問いを見つけて提案することになるがもちろん、問いを発見しづらいケースもあるが、そこから次の手順がコンセプト模型を作ることになる。コンセプト模型を作る上で重要になるのは、問いから見つけたテーマ(トピックセンテンス)からカタチに入ることである。ただ、気をつけなければならない点がコンセプト模型というのは抽象的であり、それをどれくらい具体的にできるか(?)に尽きるところがある。当然、コンセプト模型で終わらせるのではなくそこからどれくらい詳細的な図面まで落とし込めるのかも大事になってくる。例えば、床や天井やガラスの厚さや高さなど寸法にどれくらいにするかを考えていく。その際にネットなどで調べたりして寸法を参考にして提案したりする(ただ、ミリ単位までの精度まて提案するのは実務からだと思う)。
トピックセンテンス(問いからテーマを見つける)→コンセプト模型(抽象的なカタチ)→図面化(具体的なカタチ)ではあるが、すぐコンセプト模型から図面化するよりここで遊びを効かせるのは割と大事。コンセプト模型の良さは自由な発想ができたり、発見的なテーマを見つける良さがあって、これを省く場合はコンセプト模型ではなく3DCADの方が速かったりする。もしここで遊びを効かせかい場合、トピックセンテンス→3DCAD→2Dの図面化の手っ取り早いと思う。
では、具体的にコンセプト模型の良さについて説明する。クドクドしいがコンセプト模型の良さはカタチ遊びがてきるところである。これについて具体的に説明すると、拡散思考と収束思考の話になる。
拡散思考とは可能性を広げて収束思考とは可能性は狭めていく。よく云われているのは、拡散思考から収束思考に持っていくと面白いモノが出来やすいという話があるが、コンセプト模型というカタチ遊びがここで云われる拡散思考である。ハッキリ言うと、コンセプト模型は仮説検証とセットでやるとすごく面白いモノが出来やすい。つまり、問いというテーマを見つけてから図面化するまでの間にいろいろ試行錯誤して検証する上で、コンセプト模型を多用してエスキスする人が設計で強い。問いから始めるのが難しい設計課題もここから始めるとよかったりする。何故ならコンセプト模型は仮説検証とセットですると強いから手を動かしながら問いを考える要素がコンセプト模型にはある。
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▼ 06. 図面
ここで『余白と計算』という話をする。計算とは図面の補助線を利用したモノである。
建築の設計課題をする前の製図課題で一点鎖線を引いて図面を描いたことがある人が多いと思うが、これを私は計算と読んでいる。
一方で、余白というのは、空間にボイドやデッドスペースを生む。例えば、妹島和世さんの「すみだ北斎美術館」がある。
妹島和世さんのこの作品の良さは、余白が機能しているところで、空間に良くも悪くもボイドやデッドスペースを作り、賛否両論ある。そのため、批判として"動線が悪い"というのがある。
正しさは、良くも悪くも物事にベクトルを作る性質があって、新しさは、既存の枠からはみ出そうとする。つまり、この場合の正しさとは計算であり、新しさとは余白である。
何故、コンセプト模型から入った方が面白いカタチが出来やすいのか(?)というとこの余白が機能するから既存の枠からはみ出た面白いカタチ(≒新しいカタチ)が出来やすいからである。
話を戻すと図面をする上で重要なのは補助線の引き方と寸法感覚である。寸法感覚というのは、厚さや太さや高さなどそれぞれ具体的に詰めていくことである。ここまでが設計課題の基本的な内容である。
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(※ 因みに、ポートフォリオのレイアウトの仕方や表現力、そして、卒制(卒業設計)の問いの立て方などは今回の『建築の設計方法』とはまた話が異なると思うので、今回は省略させて頂きます。)
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