見出し画像

非効率な仕事の価値

効率重視の姿勢が加速する現状

こういった話をすると、古い考えだと思われそうですが、最近、特にコロナ禍以降で強く感じているのは、「効率」に対する捉え方が変わってきている点です。日本人の生産性が低いという話題がニュースなどで取り上げられたり、以前はほとんど存在しなかった在宅勤務が一般化していることなど、この数年間で働く環境が大きく変化したことが影響しているのではないでしょうか。

たとえば、「タイムパフォーマンス」を略して「タイパ」と言い、若い世代が日常的に使っていることは、その象徴的な例だと思います。

私自身は、仕事の時間以外はあまり予定を詰め込まず、ダラダラと過ごすのが好きな性格なので、私生活において「タイパ」などはほとんど気にしませんし、自分の生活が特に忙しいとも感じたことはありません。正直、皆さんはなぜそんなに効率を気にするのか、と不思議に思うことが多いです。(もしかすると、私が子育てをしていないからかもしれませんが。)

とはいえ、私の個人的な怠惰な生活スタイルはさておき、仕事に関して言えば、最近の効率重視の風潮には一抹の問題を感じています。ただ、これも私が経験してきた職場が楽天のように1万人規模の企業に限られ、真に巨大な企業で働いたことがないためかもしれません。あるいは、前述したようなオーナー系企業のスピーディーな意思決定スタイルが自分に合っているからかもしれません。結果的に、複雑な社内調整が求められるような職場を深く経験していないことも、こう感じる原因かもしれません。

効率重視の問題点とは?

効率を重視することの何が問題なのか?という声が聞こえてきそうですが、私が感じているのは次のような点です。

社内手続きの存在意義を考える

まず、「効率」を主張する人々の中には、会社組織で働く上で必要な各種の「手続き」を無駄だと考え、やりたがらない姿勢が目立つように思います。しかし、こうした人々にはしばしば、企業という組織がどう意思決定を行い、どのように経営資源を管理しているかの理解が不足していると感じます。

企業というのは、ヒト、モノ、カネを投資して付加価値を生み出す組織体です。その中で、ヒトやモノ、カネがどのように活用され、どのような結果を生むのかを正確に把握し、適切に意思決定を行う必要があります。これをガバナンスと呼ぶこともできますが、難しい言葉を使わなくても、会社の運営が秩序を保っているためには、しっかりとした管理が必要だということは誰にでも理解できるはずです。

そのため、社内の手続きは無駄に感じられることがあるかもしれませんが、組織が円滑に運営され、意思決定が正しく行われるためには欠かせないものです。もちろん、長い歴史の中で意味を失ったルールも存在するでしょうし、IPOに立ち会った際にはガバナンスに関する要求の厳しさを感じたこともありました。現実的でない手続きもあると感じたことも事実です。しかし、会社という組織において、最低限の手続きは必要であるという理解は持つべきだと思います。

「今」の効率と「未来」の効率のバランス

次に感じるのは、「効率」を求める人々が往々にして「今」の効率にのみ焦点を当てすぎていることです。特に在宅勤務が一般化して以降、目の前の作業の効率に過度に注目しているように思えます。

在宅勤務を取り入れた働き方は、オペレーション業務において効率的かもしれません。しかし、戦略を練るための議論や、チームの共同作業、何気ない会話から生まれる新たなアイデアや学びといった創造的なプロセスは、効率だけを追求する働き方では成り立たない部分もあると感じています。これが特に明らかになったのが、コロナ禍が落ち着き始めた頃に、シリコンバレーの先進企業が社員をオフィスに戻そうとしていたことです。

企業の真の強さは、単なるオペレーションの効率性ではなく、新しい価値を生み出すイノベーションにあります。確かに日々の業務の効率は重要ですが、企業が最も重視すべきはイノベーションの促進です。イノベーションを最大化するためには、多少の非効率を許容しなければならないという企業の姿勢は、理にかなっていると私は思います。

「答え」を探すよりも「考える」ことの重要性

さらに最近、特にChatGPTのようなAI技術の普及により、効率的に答えを求める傾向が加速しているように感じます。確かにAIは便利で、すぐに答えを得られるのは魅力的ですが、その一方で、自ら深く考える機会が失われつつあるのではないかと危惧しています。

インターネットで簡単に情報を手に入れられる時代ですが、得た情報が必ずしも正しいとは限りません。ChatGPTも、時には誤った情報を提供することがあります。しかし、自分で考えることを放棄してしまうと、情報の正確さを判断する力を養うことができなくなります。効率が良いからといって、すぐに答えを求めてしまうと、自分で考えるプロセスを見失いがちです。少なくとも、私は自分の仕事に責任を持つためにも、多少非効率であっても自分で判断を下したいと思っています。AIにすべて任せてしまうと、失敗の際に「AIがそう教えてくれたから」とはまさか言えないですし。

AIが進化する中での人間の役割

AI技術が進化し続ける未来では、人間が担うべき役割も変わってくるでしょう。AIができる仕事はAIに任せれば良いかもしれませんが、イノベーションやクリエーションといった創造的な部分は人間が担うべきだと思います。例えば将棋の藤井聡太さんがAIを活用していると言われますが、それは新しいアイデアの参考にしているだけであり、実際にどのように使うかは自ら考えているはずです。このプロセスを経なければ、実際のスキルとして身につかないでしょう。

PDCAのプロセスでも同様に、新しいアイデアや知識は試行錯誤の中で生まれるものです。この試行錯誤には必然的に失敗が伴いますが、失敗を恐れて効率だけを追い求めるのは、良いマーケターになるためにはかえって逆効果だと思います。

このように、効率を追求することには利点がある一方で、過度に重視することのリスクも見逃してはいけないと感じています。長期的な視点や創造的なプロセスを大切にし、効率だけにとらわれない働き方が、これからのビジネスにおいてますます重要になるでしょう。


【この文章は以下の文章のライトバージョンです。より詳細な議論はこちらでご確認ください】


いいなと思ったら応援しよう!