今生至上主義への批判

 人生は一度きり。これは老人たちの妄言だろう。生まれてすぐ死ぬ赤子や、犯罪者に殺された人、また事故死した人の人生を一度きりなどと断言できる感性は、成功者の思想に根差す。
 こういった人間たちがいる限り、この世界を支配する法則は倫理ではなく、運になる。
 しかし、人倫の歴史における価値は、運と自然を切り離すところにある。幸運にも生き残る人間とて、人倫による偶然に対する戦いの恩恵をこうむっている。
 
 来世を否定する者は、現世に対する科学的な創造に失敗するだろう。なぜなら、科学に価値を与えられるのは人倫だけだからだ。
 来世に対する態度は、現世に対する態度そのものである。

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