ファシズムの完成シンボルとしての医療放射線

 近代国家社会の真意は、都合のよい労働力だけを欲している。そうでない人間は直接・間接問わず死に追いやるのが社会にとっての上策である。胸部レントゲン蓄積や、壮年からの胃透視やマンモグラフィー。これは表向きは健康政策と称されているが、実際は年金受給のタイミングでガン死を強いる方策にも見える。
 また、国民健康保険は世界に冠する福祉システムなどと自称されているが、実際は社会保険加入を必要としない、また企業健診すら受けられない、「思い通りにならない」労働力の健康不安に乗じて、医療放射線を随時的に叩き込む機能でもある。たとえば、定期健診を受けていない国保加入者が突発した不定愁訴とともに総合病院に行くと、下手をすればCTスキャンをとられる可能性がある。
 仮に例外的な早発ガンが生じても、権力機構にとっては痛くも痒くもない。財産家が「上質」な人間ドックで早期ガン死させられても、生活保護者がその特権を駆使して病院通いして早期ガン死させられれば、労働システムとしてはそれで「帳消し」である。医療放射線は、富者だろうが貧者だろうが平等に早期ガン死させるのだ。
 ともあれ、寿命削減システムとしての医療放射線包囲網は、奇遇なことに近代労働社会と歩を揃えており、この一体化は、政治的な非人道性としての側面を持つ。その特質は、放射線の健康被害の不明性や、その非特異性を利用して、権力機構が不完全であったり、用なしになった労働力を極秘裏に抹消していくという予定調和的な構造である。
 医療放射線はいまやそのための最も簡便な道具であり、その無秩序は、総合病院や健診施設が政治的な人体処理場として最後には結実したことを示している。時間が経つにつれ、それらの施設の「実績」は、殺人が救命を上回るようになる。なぜなら、放射線はそのような物質だからだ。 
 この殺人兵器を巧妙に使えば、権力機構は最も好適な形で、稼ぎすぎている労働力存在や、生産能力を持たない社会的存在を抹殺できる。そうすれば、死者から徴税できるだろうし、死者に扶助を与える必要はなくなるだろう。緩和病棟にいる患者たちや、放射線治療を受けている患者たちが、労働システムの最終工程として早発ガン死を強制されている状況を見ると、我々は自分たちが生まれたこの民主的福祉国家の恐ろしさに覚知できる。
 さて、長寿とは本来、自然寿命のことを意味する。医療放射線は自然寿命の絶対的な障害物であることは、医学的には否定されるべきだが、科学的には疑いないことである。今日の日本の国民存在は生まれながらにして、自然寿命を剥奪されている運命にあり、これは明確な「殺戮」なのだ。その証拠に、医療放射線が発ガン物質である事実は、悪質な狂信によって常に隠蔽され続けてきた。どこの、この国の医師が、患者に対して「この検査を受けると発ガンするかもしれません」と断りを入れたりするだろうか。しかし、その言葉がなかったからこそ、無数の人たちがこれまで医療放射線によって寿命を奪われていったのである。
 民主主義社会におけるこのような合法的な寿命削減システムが、我が国特有であるか否かはまた別問題であるが、しかしナチズムを彷彿とさせる福祉国家による人体管理は、人間社会というものがそれ自体でファシズムの求心力を持つことを示唆している。その表現形は、人間が人間を物のように扱い支配するという世界である。
 しかも、その表現形は時代を重ねるにつれ、ますます悪質になっている。万里の長城でムチを振るう官吏や、ナチスのゲシュタポのような「透明性」をもたないのが、現代の医療放射線ファシストたちである。「人を救うために」。この名目があれば、マイノリティーを含めた全国民に合法的殺人を納得させられる。ベネフィットリスク、という医療概念には、未必の殺意が隠されているのが真実なのである。しかし、言葉は大変危険なもので、このような概念の真義を、カタカナや文飾で隠すことに成功する。ファシズムは、言葉の額面によって語義を隠す、という人間社会の基礎に忠実である。  
 どの時代よりも恐るべき人体管理体制が我々の現前にある。少数の覚醒者、たとえば自らが患者に打ち込んでいたものが銃弾であることに気づく医療従事者や、逆に打ち込まれたものが銃弾であることに気づいた患者に何ができるのか。出来ることがあるとすれば、自分が病院で死なないことくらいであるが、それは至難である。そして病院で死ぬことは、アウシュヴィッツで死ぬことよりも、完全犯罪の助力となる。アウシュヴィッツには犯罪の痕跡はあったが、病院にはない。放射線は見えない物質だからだ。
 ファシズムは放射線を手にいれ、また放射線はファシズムを手にいれた。合法的殺人から逃れられる領域は、いずれどこにもなくなるだろう。民主主義がファシズムのためだけに存在したことを、医療放射線が歴史に対して証明しようとしているのだ。

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