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舞台ハリーポッター感想(辛口&若干ネタバレ)

※辛口感想なので、合わないと思った方は回れ右をお願い致します

赤坂ACTシアターで絶賛ロングラン公演中の舞台ハリーポッター。
原作ほぼ既読、映画は途中まで、舞台の粗筋はある程度下調べした状態で、先日知人と見に出かけました。
劇場の周りは、専用のカフェやらグッズ店やらダイアゴン横丁ような様相を呈していて、ハリーポッターの世界観が好きな私は大いに胸を高鳴らせながら現地に向かいました。

当日のキャストが魔法書の背表紙になっている凝りよう、メニュー(軽食のみ)も少しお高いけど雰囲気にあったものが揃っていて、否が応でも期待が高まります。

演者紹介がオシャレ✨️

ここでストーリーを軽く。
今回の主人公は、ハリーポッターの次男アルバス・セブルス・ポッターと、ハリーのライバルだったドラコ・マルフォイの息子スコーピウス・マルフォイ。
繊細かつ至って普通の少年でしかないのに、英雄である父のような優秀さを求められるアルバスと、ヴォルデモートの血を引いているのではと噂されるスコーピウスは、周囲を見返すために過去に戻るアイテム「タイムターナー」を使って、原作4部「炎のゴブレット」の時代に移動し、 悲劇の元となったセドリック・ディゴリーを救おうとするも、その軽率な行為には大きな代償が…という、いかにもハリーポッターらしいストーリーです。
周囲からの孤立に傷つきながらも信頼を深めていくアルバスとスコーピウスの友情と、親世代となったハリーやマルフォイ達の親子関係の二つが、物語の主軸と言えるでしょう。

まずは全体感想ですが、「4時間でよくこのボリュームをまとめたな!」というのが率直なところです。
4時間舞台を見たというより、4時間小説を読んだという感想の方がしっくり来る内容でした。
演者の演技も(個人的に、榊原郁恵のマクゴナガル先生は、映画そのままで好感度大)、演出、舞台装置も素晴らしく、舞台に現れるもの全てが「小説の世界に観客を引き込む」ことに全力が注がれていたと思います。

ハリーが相当な毒親になっていたのは、「でしょうね!」と深く頷くしかなく、J.K.ローリングが物語の登場人物たちを、ストーリーを動かすコマではなく、血の通った人間として描いているところも良かったと思います。
天涯孤独の身の上でダドリー家で虐め抜かれて育っていたところに、ティーンに突入した途端、魔法の才能も友情も金銭面も何もかも恵まれて、そりゃ敵との戦いで揉まれはしたものの、ヒーロー願望の現実化と充足という要素が非常に強かった点は否めず、そりゃ性格も歪むでしょう。
舞台のハリーは、人の親になったものの、精神的にはティーンのまま。
息子に24時間監視カメラ(意訳)、友人関係を操ろうとする、それに反対するマクゴナガル先生に解雇を仄めかす…ってどこのモンスターペアレント!?という状態です。
息子が虐めへの悩みを口にしているのに、自分がいかに学生時代良い友人に恵まれたかを悪気なく話し、自分の考えに反する息子の意見に耳を貸さず、それで息子との関係が悪くなると妻のジニーに「私が悪かったのか!?」と泣きつく。
「泣きつく時も、息子を傷つけてしまった気持ちより自分が辛い思いをしたことの方が優先なんだ…」と白い目で見ちゃいましたし、ジニーとの関係は夫婦じゃなくて親子ですねこれは。

原作既読者の中には「ハリーの自己中心性が苦手」という意見がたびたび見られます。
私も、ハリーの「英雄的な行動(と自分が思ったもの)のためならルールを破ってもいい」という幼いメンタルがいつまでも抜けない点が苦手です。
学生の頃はそれでも通用していましたが、親となったからには、それは最早通用しない(大人の世界でも通用しませんね)。
子育てにおいて、自分とは違う個性を持った他者である子供の気持ちに寄り添い、時に自身の意志を抑えて子供の意志を尊重することは必要不可欠です。
ハリーにはそれが出来ない。
この、「子離れが出来ない以前に、子供にも自分を丸ごと受けいれてもらいたいというアダルトチルドレン仕草」という弱点を大人になったハリーの課題として描くところに、シングルマザーとして逞しく子育てしてきた作者の厳しい視線と子育てに対する強い想いを感じました。

対照的に、学生時代はあれだけ悪役を演じてきたドラコの方が息子との関係が良好なのは面白いところ。
愛し方に問題はあれ、彼の親は間違いなく息子を愛していて、それはドラコの子育てとスコーピウスとの親子関係にも繋がっています。
息子への信頼、個性の尊重と対話、息子のためなら嫌いなハリーとの接触も辞さない腹の括りっぷり。
アルバスがスコーピウスにとある暴言を吐いた際、スコーピウスがそれを冷静に否定して尚且つアルバスとの対話に繋げるシーンがあるのですが、この心理的難易度の高い行動をやってのける人間力の高さよ。
ドラコの子育てが相当上手くいっているのをビシバシ感じました。


さて、ここからですがズバリ「この舞台は面白かったか?」。
私の感想は「小説として出して欲しかった」です。

彼らのこれまでを踏まえた上でのキャラクター造形やストーリー展開の面白さはもちろんありましたが、これをなんで舞台にする必要があったんだろう??

まずは単純に4時間という長さです。
超濃厚ストーリーを4時間にまとめたのはすごいですが、セリフがとにかく早くて聞き取りづらく、耳が慣れてきてもまくし立てられている感が強かった。
展開も早いので長時間の集中力も要求され、息抜き時間が幕間以外に無いのも単純にきつく感じました。
また、ハリーポッター特有の専門用語は解説があったりなかったり、早口で聞き取れない上にかなり端折られていましたので、少なくとも炎のゴブレット(この巻が舞台のメインなので)くらいは読むか見ておかないと、全くついていけずに終わることが普通にありうるレベルです。
少なくとも舞台の公式HPの情報量程度では、歯が立つとは思えません。

次に舞台演出…というか魔法。
素晴らしいものもありましたが、魔法と言うより手品に見えてしまうものが多く、そこは頑張って欲しかったなと思いました。
特に組み分け帽子は、なんで人間にしちゃったんだろう。
帽子をかぶせてくる黒いオッサンにしか見えず、しかも舞台の序盤で前述の早口に慣れないうちに入るので、ハリーポッター世界の象徴的なシーンなのによく分からないうちに終わってしまいました。

最後にこれはもう作者の癖だからしょうがないんですが、どんでん返しが多すぎる。
文章でも「ちょっとしつこいな」と思うくらい多いのだから、舞台なら尚のこと調整して欲しかったです。
ストーリー的に削れないのは分かりますが、息抜きシーンがないため、どんでん返しの直後にどんでん返しが続くという流れが4時間。
流石に食傷気味になってしまいました。
映画大ファンの知人も、「集中力が持たない。次見るなら、自宅じゃないと辛い」と零すほどでした。
(ロングランになった割に空席が目立ったのは、そういうことだったんだな…。多分リピーターが少ない)

というわけで、私としては、ハリーポッターファン+自発的に見に行こうと思うタイプに限りオススメという感想を持ちました。
友達に誘われたら要検討。
ある程度ハリポタを知っていても、ハリポタの「世界観が好きなのか」「ストーリーが好きなのか」、はたまた「演者に注目したいのか」等で、大きく感想が異なったり満足度にも大きく違いが出る可能性高くて、見終わった後に温度差が生じて気まずくなることもありそう。

とは言え、ハリポタ世界をもっと見たい、彼らのその後を知りたい!という場合は間違いなく楽しめると思うので、自分がどういうファン層かを把握した上での観劇をオススメします。

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