見出し画像

セカンドクラッシュ

休日の朝は寝ぼけ眼で窓枠の形に切り取られた空を寝たまま眺める。
白い雲が少なめ…晴天のようだ。私は原田家の長女『聡美』として生を受け、あっという間に二十年が経過した。
現在は地元の中小企業のOLに納まっている。恋人は…高校生の頃付き合った男の子が居たが、二股の事実を知り失意で破局。それから『トラウマ』というやつで後向き人生が始まった…そんな気怠い思考を蹴散らすかの様に枕元の携帯が着信を知らせた。
発信者『川野ゆり』。
彼女は小・中学生時代の友人で、先月の成人式に出席した際、久々の再会で友情が復活!それ以降、ほぼ毎日何かしら連絡を取り合っている。大学生のゆりからのその殆どは『合コンの誘いと恋の悩み』。
「ゆりには会いたいけど、合コンは無理」
「やっぱダメ?あ、そういえばね…」ゆりは楽しげに会話を続ける。
私は恋愛話が苦手なのを悟られまいと努めて聞き役に徹し、大袈裟な相槌をうつ。『キツイな…』それは私の中に黒くて嫌な感覚を思い出させ、海底にゆっくり沈む砂の如く、蓄積されていく…。不安、憎悪、慟哭、嫌悪…あぁ恋愛、面倒くさ…良いか悪いか、こんなタイミングで親戚の伯母さんがお見合い話を持ってきた。『ダメもとで写真見てよ』と。人助けの為に見た写真の『彼』は、優しく誠実そう。きっとジェントルマンだろう。でも…好みじゃない…かな。それから一ヵ月後の休日、私はそんな何でもない彼とホテルのラウンジで向かい合ってお茶をしている。
~あれから数日間写真を見つめ考えた。この人なら確実な恋愛できるのかな…なんて。好奇心と低めのリスクに安心してお見合いをOKしたのだった~そんな心得が悪い私は、目の前の『沖田博人』さんに懺悔したい気持ちで一杯だ。出会いに真摯で清々しい雰囲気の彼。俯く私に彼は背筋を伸ばし真剣な面持ちで「聡美さん、海外赴任には…一緒に行ってくれますか?」
―はっ?今何と?
生活圏が市内限定の私は軽いパニック状態。「ゆ、夢があって素敵ですね」などと支離滅裂な会話の後『第一回お見合い』はあっけなく終了した。
けれど翌日、当然破談と落胆の私に、まさかのミラクルが!
『聡美にまた会いたいってさ~』にやけ顔の母からの伝言。
何て言うか…素直に嬉しかった…
ある日、ゆりにお見合いの事を突っ込まれてあれこれと白状してしまった。するとゆりは『独身の記念。一生のお願い』と殺し文句と共に意中の彼とその友達とのWデートに私を誘った。早速の秘密…次回彼の瞳を見る事が出来るかな…どうか何も気が付かないで…卑怯な願い事を夜空にした。
数日後、とうとう後ろめたい気分のままWデートの日がやってきて…偶然にも待ち合わせ場所は沖田さんの会社近くで…深い溜息。
約束の時間にゆりと二人の男性が一緒に現れた。
「聡美おまたせ~」可愛く意中の彼とその『友達』を紹介され、固まった。正に悪夢!『友達』はあの時の二股男だ!彼も私に気が付いて無言で意地悪く微笑んだ。ゆり達は幸い知らない様だ。ならばゆりの幸せが大切!必死に初対面のいい人を取り繕った。数時間後ゆりの『気を利かせて』の合図で解散し私は急いで帰路につく。すると最初の集合場所付近で二股男に追いつかれ「またやり直そう」と抱きすくめられた。「嫌だ!放して!」カップルの痴話喧嘩か、と通り過ぎる人々の中、一人の男性が足を止めた。
「聡美さん?」「嘘…」沖田さんと目が合った。
「―助けて!」刹那、こんな醜態を晒すなんて…後悔の涙…ギロリ視線を移した沖田さんは男に詰め寄る。「僕の大事な婚約者に何カ?」その殺気にひるんだ男はあっけなく退散。彼は震えて佇む私の肩を優しく抱き寄せた。
その温もりで落ち着きを取り戻し彼に全てを話した。
「目が放せない人だ…もう僕の傍に居て?」私の心臓を撃ち抜く笑顔がずるい。二度目の恋が始まった。―さて『いつかどこかで』お人好しの花嫁に遭遇したなら、それは聡美かも知れません。

【了】

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

いいなと思ったら応援しよう!