天官賜福 外伝 鬼王生辰3

天官賜福 晋江文学城版の外伝 鬼王生辰3の翻訳です。
ネタバレされたくない人は去れ!





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銅炉山の藪の中にとある小屋があった。謝怜が中に入ると、国師が空殻人3人と席につき、重苦しい雰囲気でカード遊びに興じているのが見えた。謝怜は何も言わずにすぐ踵を返して出て行こうとした。しかし国師は彼を見るや否や、眼光鋭く「止まれ!」と吠えた。

謝怜は国師がカード遊びに興じているとき、どういう状況なら彼を呼び止めるかをよく分かっている。思った通り、次の瞬間国師は机をひっくり返し、「やめだ。用事があるので先に失礼する、太子殿下戻ってきなさい。私に何の用か」と言った。

謝怜が振り返ると、ふらふらしている空殻人が見えた。国師は間違いなくもうすぐで負けるところだったと悟った。謝怜は不本意そうに「本当は大したことではないのですが・・」と言った。

国師は「いやいや、どうもかなり困っているようだ。何か大事が起きたのではないか。カード遊びは放っといていい。まずは師が貴殿の手助けをしよう」と言った。
謝怜がことのあらましを説明すると、国師はまた顔色を変えた。2人は粗末な長椅子に座り、謝怜は国師からのお説教を聞く羽目になった。「本当に全く大事ではないな。たかが誕生日でここまで長く考えるほどのことかね。さらには東西奔走して、自ら取りに赴くとは。」

「・・・」

謝怜は他人には説明しようがなく、説明してみたところで、他人には理解できないことだということはわかっていた。自分の眉間を自分で赤くなるほど揉みながら「いずれにしろ、私は既に材料を取ってきています。ただあまり覚えていないのです。子供の頃に配合したことがある、あの仙楽式長命鎖はどのように作ったのかを。それでやはり国師に手順をご教示頂こうかと。お手は煩わせません、自分で鋳造しますから」と言った。

国師はやはりいまいちピンときていないようだった、「そなたはそもそも何の贈り物もする必要がないではないか、自分すら送ってしまったのだ。これ以上彼は何を欲しがるというのか」と言った。

つまり「自分が最高の贈り物」と?
謝怜はこのように言われることが最も苦痛だった。到底そんな風に考えることはできない。額に手を当て、「私はそこまで自惚れていない」と思っていた。

国師は彼を見ると、頭を振り、思っていることをついそのまま口に出してしまった。「貴殿はそこまでうだつが上がらない、ということはない。なにしろ貴殿は唯一の3回飛翔した天官であり、花冠武神であり、仙楽太子である。17歳にして自分は蒼生を救いたい、と天下人の目の前で言ってのけ、18歳で・・・」

謝怜はすぐさま「国師!やめて!国師!言わないで!言わないで!」と反応した。

こんな黒歴史の一体どこに自慢できるところがあるというのか。

国師は複雑そうな顔付きで彼を見た。心の内に思うところがありそうな様子で「太子殿下、自分をそんなに低いところへ置いたってなんの役にも立たないぞ」と言った。

謝怜は「自分を低く見ているわけではないのです。ただ・・」

ただ、心から想う人に向き合えば、自然と世界で一番良いものをあげたくなる。しかし、自分ではまだまだそこまで良いものではない、と考えてしまいがちだ。

国師は彼のこんな様子を見ると、ため息をつき、両手を袖の中へと入れ込んで、しばらく思案してこう述べた「長命鎖だな?ちょっと待ってくれ。よく考えさせてくれ。なにしろ随分昔のことだから、私もあれの技法と開光儀式をはっきりと覚えている、とは言いづらいんだ」
謝怜は「そこはご心配いただかなくとも結構です。もし覚えていないなら、何とか記憶を頼りに作ってみます。自分の心の声を信じますよ」と答えた。

すると国師は彼を一眼見ると、「あいつに聞いてみるか?」と言った。

「・・・」

名前は言わなかったが、謝怜にも「あいつ」が誰を指しているのかはわかった。

君吾は銅炉の地底深くに鎮められている。

しばらく黙っていたが、謝怜はやはり首を振った。

銅炉山でほぼ1日を過ごしてから、謝怜は鬼市へと戻った。

この時、花城の誕生日まであと数時間というところまで迫っていた。鬼たちと謝怜は既に相談を済ませ、表面上はいつも通り何事もないかのように振る舞い、実際は鬼たちがあちこちで秘密裏に準備を済ませていた。謝怜は小さな屋台へ素早く入った。すぐに鬼たちがやってきて囲み、それぞれ口々に忙しなく「どうですか?どうですか」と聞いてきた。

謝怜はまるで賊になったようだ、と思いながら「あなた方の城主殿はどのようなご様子かな?何かおかしなことはなかったかい?」と尋ねた。

鬼たちは「ありません。城主様は一日中千灯観にこもっていました」と答えた。
謝怜は少々驚いて「一日中いたの?」と聞いた。
「はい。今日の城主様はご機嫌がよろしかったようで。大・・・謝道長さん、城主様への誕生日の贈り物の準備は出来ましたか?」

謝怜はようやく安心して、着物の袖から心を込めて作った長命鎖を取り出し、笑って「準備出来たよ」と言った。

鬼たちはとても喜び、明日の祝賀会の段取りについて再び話し合ってから、やっと千灯観に戻った。入ると、花城が習字をしているところだった。

急かされなくても、花城が自分から習字をしているのは本当に稀なことだ。どうやら今日は本当に機嫌が良いらしい。謝怜はあの可哀想な貴重な八荒筆を用いて花城が曲がりくねった字を書いているのをみると、妙に可笑しいと感じてしまい、頭を少し振った。謝怜が帰ってきたことに気づくと、花城は筆を下ろし、やっとそれを苦行から解放した。微笑をたたえ、「哥哥,帰ってきたの?おかえり。俺の今日の成果を見てほしい」と言った。

謝怜は微笑みを返し、「いいよ。」と前に進もうとした。まさかこの時、彼の表情がこわばり、足を止めて眉根を寄せるとは誰も想像していなかった。

花城は即座におかしいと思い、すぐさま謝怜のところへ寄ると「どうしたの?」と聞いた。

謝怜はすぐにいつも通りの表情に戻り「何でもない」と答えたが
何でもなかったわけではなく、つい先ほど心臓が少し痛んでいた。
花城はうやむやにすることを許さず、腕を掴むと「どこに行っていた?また怪我をしたのか?」と尋ねた。

謝怜は「していないよ」と答えた。

これは事実だった。確かにしていない。ここ数日、あちこち奔走はしたが順調で、途中で危険な目に遭うことはなかった。花城はしばらく黙っていたが、特に何も異常を感知しなかったようで、手を離した。謝怜は何事もなくてよかった、と一息つき、心の中では気のせいだろう、と思っていた。笑って「多分、どこかの筋を捻ったんだろう、さあ、今日の成果はどうだったか見せてくれるかな?」と言った。

花城は弾けるような笑顔を見せると、謝怜の手を取り「こっちに来て」と言った。謝怜がまだ反応を返さないうちに、またもや突然心臓が痛んだ。

今回は気のせいではなかった!彼ははっきりとまるで針で刺されるような痛みを最初に感じ、2回目は鋭い爪を引っ掻かれたかのようだった。ちょうどその時、花城があっちを向いていなかったら、謝怜はもう二度と「大丈夫」とごまかすことはできなかっただろう。

しかし今は時が悪い。謝怜はしばらくは花城を心配させたくなかった。2人はしばらく千灯観で遊び、謝怜は適当な理由を見つけて出て行くと、もう一度自分の腕を掴んでみた。しばらく調べてみたところで怪訝な顔をした。

結果は当然何の問題もない。そうでなければ、花城が先ほど腕を掴んだ時に見つけているはずだ。
それなのに、なぜ何もないのに心臓が痛むのか?

しばらく考えて、謝怜はおそらく何か邪なものが侵入してきたか、毒にやられたのかも、という考えに至った。しかしそれほど焦ってはいなかった。少なくとも今はその必要はない。もうしばらくすると、花城の誕生日当日だ。もし今何か起こしたら、花城は誕生日を過ごすどころではなく、謝怜を手当のために引っ張っていってしまうだろう。

謝怜は痛みに慣れていた上、このような奇妙なことを経験したことがないわけではない。そのため、そこまで気にはせず、まずは1日やり過ごして、後から自分でひっそり解決することにした。

夜になった。誕生日はもう間も無くだ。謝怜が千灯観に戻ると、花城はつまらなさそうな顔でいかにももっともらしく落書きをして、紙屑を作っていた。謝怜は笑いを堪えきれなかったが、笑い出す前にまた心臓が痛んだ。心臓のあたりを強く揉みながら、「どうやら今回はちょっとひどいようだ・・・もう少し耐えよう」と心の中で唱えた。

息を一息吸って吐き出すと、優しげな声で「三郎?少し手伝ってほしいことがあるんだけど、良いかな?」と呼びかけた。

花城は筆を下ろし「どんなこと?」と聞いた。
謝怜は「まず、目を瞑ってくれるかな?」と言った。
花城は眉を吊り上げたが、多くは聞かず、言われた通りに目を閉じた。謝怜は花城の両手をひき、笑って「一緒に来てくれるかい?」と言った。

与君山でのあの一夜とはちょうど逆だ。花城は笑いながら「いいよ」と答えた。
謝怜は彼の両手を引きながら、ゆっくりと門の前まで歩いてくると「敷居に気を付けて」と言った。

花城は一体どのくらい千灯観の中を歩き回ったことだろう。もちろん、彼が言わずともどこをどう歩けばいいのかわかっている。それでも言われるがままに足をあげた。靴のチェーンがシャラシャラと音をたて、二人は大門をくぐると、長街へと出た。

しばらく歩いたところで、謝怜は「よし。眼を開けていいよ」と言った。
花城が言われるままに目を開けたその瞬間、黒々とした瞳はまるで灯が灯ったかのようにキラキラと輝き出した。

長街はたくさんの提灯で彩られ、普段の散らかった街の面影はなく、綺麗に整えられていた。誰もが頑張って片付けて掃除をし、ボロボロに朽ちかけていた看板も新しい物に変えられ、明るく照らされた街並みは様相を一新していた。

いつの間にやら鬼たちが集まってきて取り囲み、少々おとなしくしていたが、花城が眼を丸くしたのを見ると、あっちこっちから好き勝手に騒ぎ出した。「城主様、ご生誕おめでとうございます」「百年好合(百年仲良し)」だの、「早く御子に恵まれますように!」だの、とにかくとんでもなくうるさかった。

このひどい有様を見た謝怜は額に手を当てた。ちょっと前に練習して、やっと声を揃えて言うことができたと言うのに、なぜ今になってこんなにもめちゃくちゃなんだろうか。

花城の心には全く刺さらなかったらしく、無表情のまま眉だけ吊り上げると「お前らは何をしている?煩くて死にそうだ」と言った。

鬼たちは練習の成果を発揮することを諦め、それぞれ面の皮厚く「死ぬなら死ぬまでです!ここにはそもそも人間なんておりませんからな!」と答えた。
花城は嘲笑うと、後ろを振り返った。すると、謝怜が両手を後ろに隠したまま「三郎、今日は・・・誕生日だって聞いたんだけど?」と言った。

花城はまるで長いこと待っていたかのように腕を組むと頭を傾げ、にこにこと笑い「うん。そうだよ。」と答えた。

謝怜は咳払いをすると、突然体を伸ばし、彼の首のところへと長命鎖をかけ、「その、慌てて作ったんだ。気に入ってくれると良いんだけど」と言った。

長命鎖には花城の護腕に彫られているかのような、楓、蝶、猛獣などの紋様が施され、とても緻密で精巧な作りだった。また、極めて強い霊力が込められ、一眼で特別な物だとわかるような逸品だった。鬼たちは口々に「こりゃすごい!なんてステキなのか!こりゃ一体どんな宝物か!」と色めきだった。

「こんな素晴らしいお宝を身につけられのは城主様しかいない!城主様に似合うのはこういう宝物しかない!」

あまりにも鬼たちが誉めそやしてお世辞を声高に叫ぶので、謝怜は笑うことも泣くこともできず、むしろ緊張してきてしまった。花城にどうかな、と聞くべきかどうかわからなかった。花城も何も言えないまま、眼をそれはそれはキラキラと明るく輝かせ、唇には笑みを浮かべていた。

しばらくして、彼がその銀鎖を持ち上げて、口を開こうとしたまさにその時、異変が起きるとは誰も予想していなかった。

謝怜は突然膝から力が抜け、地面へと崩れ落ちた。

あまりに突然のことだったため、周りで楽しそうにしていた鬼達は驚きのあまり叫び声をあげた。花城の笑みはその瞬間に消え失せ、すぐさま彼を受け止めると、「哥哥、どうした?」と言った。

謝怜は顔色蒼白のまま無理やり笑いながら「何でもな・・・」と答えようとしたところで、また喉を詰まらせた。

まずい。まただ。

あの謎の心臓の痛みがまたやってきた。今回は今までに感じたことがないくらいに強烈な痛みで、まるで心臓が破裂するかのような痛みだった。

謝怜は心の中で、まずい!ここまできついものが来るとは思っても見なかった。しかも段々と発作の痛みが強くなってきている、と叫んだ。

何とか落ち着かせようと目論んだものの、激痛は続き、まるで桃の木の楔を打ち込まれているかのようだった。楔が徐々に心臓に打ち込まれてくるかのような痛みで謝怜は息ができず、頭を上げていることもできなくなり、額からは冷や汗がだらだらと流れた。花城は顔色を大きく変え「殿下!」と叫び、謝怜の腕をしっかりと掴んだ。
しかし何も検知することができず「殿下!昨日どこへ行っていたんだ?!」と言った。
周囲は慌てふためく声でいっぱいだった。謝怜は何か話そうとしたが、何かが喉に刺さっているような状態になってしまい、もはや言葉を発することもできなくなっていた。


3はここまで。