最初の言葉って大事
人に寄りそうって必要だけど難しい。
たとえ相手が何も言わなくても、
どんな希望があるのか?
どういう状態が幸せなのか?
を思わないといけない。
それができる人や会社に色々お願いしたくなるんだなぁ、と当たり前だけど改めて思った話。
大学4年の次男。
別地域の大学院に4月から通うことになった。現在ひとり暮らしだが、大学院も実家からは通える距離にないので、ひとり暮らしをする予定。
新居を探すため、その近辺の不動産会社に同行した日のこと。
新しく住む地域は大都会だ。大学近くの駅は巨大なターミナル駅で、エスカレーターを降りただけで途方に暮れた。山ほどの乗り換え案内、ショッピングモールへの入り口に惑わされる。
「南口から出る」
という息子にうなずくが、南西口と南東口という表記に笑う。どっち?
新居に対して次男の希望はひとつ。
愛車250ccのバイクが駐輪できること。
事前に調べたら自転車、原付バイクならともかく、中型バイクを駐輪できる住まいは非常に少ないらしい。都会だから当然か。
午前本人が予約した不動産会社Aに行った。事情や希望を説明すると、困った顔でやはりバイク駐輪場が厳しいと言われる。予算が潤沢なら色々あるかもしれないが、正直予算も少ない。
そんな中でもいくつかの物件を紹介、2件内見させてもらった。どちらも築年数は長いが陽当たりがよく学校が近い。予算ギリギリでバイク駐輪場ありの物件だ。
悩んだがそこでは決められなかった。
ごめんなさい。
不動産会社Aで感じたのは、
『予算が低いのにバイク停めたい?なら他の何を我慢する?』
という、消去法での選択を強く迫られる雰囲気だ。以前住んでた地域は、バイクを自由に停められたようなので、その差に本人は戸惑っていた。
とりあえず昼食を摂ってから、別の不動産会社Bに行った。飛び込みだったせいか諸々説明してから少し待たされた。待つ時間が長いと悲観的になる。やはりそういう物件は少ないのかと。
やがてB社の担当の方が、多くの資料を持って現れた。笑顔で最初にこう聞かれた。
「バイク駐輪場は、やっぱり屋根ほしいよね?」
虚をつかれて一瞬黙った息子が、嬉しそうに応える。
「あ。はい」
「だよね。びしょ濡れになっちゃうもんね」
「はい」
A社で内見した住宅2件の駐輪場は、スペース自体が狭かった。バイクが置けたとしても出し入れに苦労しそうな場所で、もちろん屋根はなかった。
だが屋根という考えはすっかり忘れてた。
私も、多分息子も。
B社から提案されたのは、学生より社会人が多い地域だ。学校最寄駅からは大分離れるが、バス停が目の前だ。そして屋根付きの広い駐輪場がある。予算は上限ギリギリくらい。
「学校まで距離があるから、徒歩では登校できないけど、バイクで通うでしょ?もし天気悪かったらバス使えるし」
「はい」
他にも物件を紹介され、2件内見させてもらった。もう1件の駐輪場に屋根はなかったが、ものすごく広かった。結局最初に紹介された『屋根付きの広い駐輪場がある住宅』に決めた。
やはり最初、笑顔での
「屋根付きがいいよね?」
で掴まれたかなと思う。実際B社の方が希望に合う物件が多かったかもしれないが、そこまでA社とB社の物件や値段には差がなかった。だが本人すらバイクに対してネガティブになっていたときに、濡れるバイクを気遣ってもらった事は嬉しかったのだろう。
バイク駐輪場の代わりに我慢したことは、駅や学校に近いという利便性か。だが本人にとっては我慢でなく、むしろ望んだことらしい。だってその分バイクで走れるのだから。バイクに乗ってない人からすれば不便な地域は、息子にとっては願ったり叶ったりの地域だったのだ。
あのとき、私の気持ちも何だかフワッと軽くなった。そんな言葉を人にかけられたらなぁと思う。
日常でもだが、仕事の初対面ならなお良い。
20才過ぎた息子への同行は、何も意見をしなくとも何だか居心地が悪かった。
だからそんな体験をより嬉しく感じたのだった。