コウメ太夫の毛穴の性別
ある朝のこと。コーヒーを飲んでいると、ふとある疑問が浮かんできた。
”コウメ太夫の毛穴はオスなんだろうか、それともメスなんだろうか?”
チッキショ――!!!
いくら考えてもわからない。
コウメ太夫本体はオスなんだから、毛穴もオスなんだろうか。でもコウメ太夫がオスだからといって毛穴までオスである必然性はないように思えてきた。そもそも、毛穴の性別という非成立な命題を思考している時点で常識的な語の結合、および論理性というものが使い物にならなくなっていることはあきらかなのだ。
そうかんがえると、コウメ太夫の毛穴はある意味詩的な何かがあるのかもしれない。というのも、詩は日常的な語の結合を破壊し、そのみずみずしい意味をはっと気づかせてくれるからだ。コウメ太夫の毛穴の性別という語の結合の仕方はエキセントリックで詩的な響きが…あるわけないか。
閑話休題。少し真面目に考えてみる。そもそも、「穴」という語が指示する対象も意外にあいまいではないだろうか。ひとくちに穴といっても、外壁によって縁どられた空間そのものを指すのか、あるいはその空間をかたどる外壁をもその外延とするのだろうか。もしも穴がその空間をかたどる外壁をもその意味範疇に含むのであるとしたら、コウメ太夫の毛穴はコウメ太夫と連続性を保っていることになる。その場合、コウメ太夫の毛穴の性別はコウメ太夫と同一である蓋然性がたかいということができる。なぜなら、動物は雌雄同体よりも、雌雄が別々の個体として生きていることのほうが多いからである。というか、毛穴とコウメ太夫が独立した別の生き物()であるとみなすことは難しくなると言った方がいい。
逆に、穴という語が空間のみを指示しているとしたらどうだろう。穴をほかの全ての空間と区別しうるためには何が必要なのだろうか。細かい定義を考えるのは別の機会にするとして、この場合、穴というのは空間が物性をもつなにものかに囲まれているという事実を表す語ということになる。はたしてこの事実に性別はあるのだろうか。普通の思考ならば答えは絶対的にノーである。しかし、私が思考しているのは有意味性の向こう側である。この事実に性別があるのかどうか、真剣に考えてみよう。
…ここまで考えてみると、有意味性の垣根を一つ飛び越えてしまったことによってすべての突飛な語の結合による無意味な命題が思考可能になってしまって収拾がつかなくなっている。しかし、コウメ太夫の毛穴の性別はどうしても気になるので、しばらくお付き合い願いたい。
そもそも、空間が物質によって特定の形に区切られているという事実を「穴」という言葉であらわすのだとしたら、その事実が性別を持つというのはまさにナンセンスである。非生物に性別などはないからである。そこで、性別という概念を非生物および命題という抽象概念にまで便宜的に拡張してみようと思う。オスとメスというのは、生殖上無視できない必要のために別たれているものであるが、命題における生殖とはなんであろうか。生物における生殖は自らの遺伝子を次の世代に継承することであるとするならば、命題の生殖というのも生物における生殖のアナロジーとして理解することができるであろう。
命題には真偽値がある。真なる命題と、偽である命題の2つが存在する。さらに、一つの命題は複数の語の結合からなる。ここで、2つの命題を用意し、それらの語の結合をランダムに入れ替えるとしよう。すると、もとの二つの命題から新たな一つの命題が生まれることになる。これを命題の生殖と呼ぶことにしよう。
例)命題1:机が壊れる
命題2:コウメ太夫が跳ねる
新たな命題:コウメ太夫が壊れる
上記に示した例では、主部と述部の交換によってギリギリ有意味な命題の生成を示したが、私の考えではもとの命題二つを語のの一つ一つまで分解し、全く新しい命題へと再構築することもまた命題の生殖であると定義できるのだ!この場合、どちらがオスかメスかという議論にも一つの方針を示さねばならない。そうでなければ、コウメ太夫の毛穴の性別は決定できないからである。
「うーん、どう考えても命題のオスメスなんて定義できる訳がない。頭がおかしいんじゃなかろうか?」
ーそれはそう。最初の一文目から常軌を逸していることはわかっているし見切り発車で書き始めて止まれなくなっているのもまた事実。こうなったら無限の想像力を働かせてさっさと切り上げるほかはない。ひとつ言えるのはここまで読んでいるあなたは相当のヒマ人か物好きだってことだ。
この記事はナンセンスが支配している。そのことは常に頭に入れておいてほしい。
ついに命題のオスメスを決定する時が来た。命題がどれだけめちゃくちゃでも、主部と述部のない命題はアプリオリに命題として非成立である(=真偽値をもたない)そこで、新たに生まれた命題の主部の語を共有している親命題を、母命題とすることにしよう。つまりメスってことだ。さっきの例でいえば、新たに生まれた命題の主部である「コウメ太夫」という語を共有している命題2がメスということになる。これは本当になんとなく決めた。思考じゃない。そう決めただけ。
で、結局コウメ太夫の毛穴の性別はどっちなのかというと、「コウメ太夫の皮膚が特定の広さを持った空間を囲っている」という命題がコウメ太夫の毛穴の性別の正体であるが、私のオスメスの定義によれば、配偶体となる命題を見つけるまではオスかメスかが決定しないことになってしまう。もう面倒臭いので勝手に適当な命題を見つけて子命題を作ってオスにするなり、メスにするなりして遊んであげてほしい。
ここまで読んでくれた方(いないと思うけど)、貴重な時間を無駄にしてごめんなさい。