「ウィーヴワールド」という傑作について
自分には幾つかインスピレーションの軸になる作品との出会いがある。
その一つがクライヴ・バーカーの「ウィーヴワールド」だ。
30年近く前だったろうか、かなり内容を忘れてしまったが、まず対立軸が変化するという不可解さをこれで味わった。
これは最近ようやくエンタメの定石になりつつある気がする。
魅力的な悪役が複数いて、それが絡み合う、反転する。
作劇の着地点はエヴァンゲリオンに何らかの形で影響を与えたように思う。
キャラクター達は非常に映像的で、これにも何度もショックを受けた。
そして物語は縦糸と横糸で組み上げられた絨毯の様に織り上げられる。
漫画家の富樫義博も「ジャクリーン・エス」というバーカーの短編の名称を引用している様で、おそらくバーカーに感化された気がする。
物語の構成が自由に変化する、予測をさせず、何が起こるか判らない。
テンプレの着地を許さないのだ。
この作品以降、日本の作家の何かが変わった様にすら思う。
もっと判り易くこの作家の持つイメージを理解したいなら、もう一つの傑作である「死都伝説」がおススメ。
これは文庫で出ていたので読んだ人も多いだろう。
「ミディアン」というタイトルで実写化もされているが、観てない方は小説の方をおススメしたい。
この作品でも善と悪だと思ったものが逆転し、主人公より恐るべき、おぞましい邪悪な悪役にどうしても惹かれてしまう。
おそらくこれはハンター×ハンターに於けるヒソカの原型なのでは?と感じる。
とにかく物語自体がフェチ、変態的でひたすらに倒錯してる。
にも拘らず、よくある素人作品の様なメチャクチャな言語の迷路、作者のオナニーにはなっていない。
バーカーなりのロジックがあり、難解なペテンにハメるんじゃなく筋が通っているワケだ。
これは彼の作品を読めば判ると思う。
個人的にもう一つ印象深かったのが、短編集「血の本」の中の一篇、
「豚の血のブルース」だった。
とにかくこの作家はひたすらにイレギュラーを追及して物語を作りたいんだろうというのが伝わってくる。
有名な「ミッドナイト・ミートトレイン」や「ジャクリーン・エス」は初心者向けもいいところ、イロハの「イ」だ。
ただこういう作品にほとんどの日本人はついていけないのも事実。
価値観の更新が進んでエンタメの多様化が進んだ今なら、そろそろバーカーの作品に触れてある種の原点を見つけてもいいように思う。
自分にとってそれ程のバイブルだったのが「ウィーヴワールド」という作品だった。
おしまい
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