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夕霧綴理は人形ではなかったという話
「ラブライブ!とは人生の一端である」
最初に誰に聞いたか、誰に言われたかも覚えていないけれど、今でも僕がラブライブ!と向き合う際の指針。
だから、僕はラブライブ!で描かれる群像劇を、画面通して消化するだけのコンテンツではないと信じています。
僕にとっては、少女たちの人生の一端に、ラブライブ!の力を借りることで同行しているようなもの。
ただ、僕は他人の目線を気にする人間なので、伝わりやすさを重視して「物語」と呼んでいたりするが、本心は別にあるって知ってくれたら嬉しい。
そして、人生と向き合ってるからこそ、ラブライブ!が、スクールアイドルが、少女達の全てではないと僕は思っている。
むしろ、限られた青春の先にある人生に、彼女達の経験がどう生きてくるのか、いつも目が離せない。
そんな、「これは人生の1ページに過ぎない」と感じさせてくれる瞬間と出会った時、僕は心から「ラブライブ!好きでよかった」と思えるんです。
Link!Like!ラブライブ!活動記録8話は、僕にとってまさしくそんなお話。
卒業がやってくる現実を目の当たりにし、不安を抱える綴理先輩。
そんな不安から、進路希望調査は白紙のままだった。
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当然、卒業が近づいているのに、進むべき道も分からないと悩んでいる人を側から見れば、誰だって不安になる。
そして、綴理先輩はみんなが斡旋してくれた職業体験を経て、自身の「できないこと、できること」「やりたいこと」に気づく。
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3年間で夕霧綴理は、確かに「未来へ進むための力」を身につけたのだ。
この希望を見つけられたのは、一生ものの財産で、スクールアイドル活動の"意味"そのものでしょう。
非常に綺麗な前半パートだった。しかし、同時に僕はこうも思った。
「綴理先輩の不安は拭えてなくない?」と。
だって、「未来に希望がある」からと言って、今が終わってしまう不安が消えるわけではないでしょう?
むしろ、不安が希望を上回ってしまえば、進むこともままならない。
そして、綴理先輩は人より感性が強い。
むしろ、過敏すぎるかもしれない。
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だから、1人で過ごす時間の中で、今後「独り」になってしまう可能性に直面してしまった。
ずっと独りで踊るのが苦しくて、スクールアイドルになって、ようやく独りじゃなくなったのに。
卒業したら、また独りになってしまうかもしれないと。
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例え、この先1人でやっていけるとしても、「みんなと別れる」ことに変わりない。
そして、それは至極当然のことだと思う。
どれほど劇的な青春を過ごした仲間とも、卒業すれば、手を離して別々の道を行く。
これが物語なら、卒業と共に劇的なハッピーエンドを迎え、ステージは暗転し、舞台を彩った人形達は役目を終えるのだろう。
だが、現実は物語ではないし、夕霧綴理は人形ではない。
「今が最高」でも、その今は必ず終わる。
物語のように、同じストーリーを、同じキャスティングで回し続けることなんてできない。ステージは暗転しないし、幕も降りない。
今が過ぎ去っても、自分の人生から降りることはできず、何事もなかったかのように明日がくるだろう。
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仮に、村野さやかのような、大切な人が死んでも、それは同じだ。
誰が死のうと、都合よく自分の命は止まったりしない。消えたりはできない。
これは、別に特別なことではないはず。
生きている限り、誰にでも起こる普通のこと。
僕も、楽しかった高校時代の終わりや、大切な人の死に直面した時、「自分を終わらせてしまいたい」って思った。
幸せな時間が過ぎれば、大切な人がいなくなってしまう現実が耐えられなくて。
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この幸せが続いてほしい、続かないのならいっそ自分を終わりにしたい。
けど、できない。僕らも、夕霧綴理も、人形じゃないから。
同じ物語の中で永遠に生きられない、エンドロールを流して終わりにもできない、僕たちは普通の人間だ。
「幸せだ」と思えた今日より、良くなる保証もない明日を、何とか生きていかなければいけない。
けれど、きらめきを求め続けている限り、「明日はきっと良くなるはずだ」と信じて進んでいける。
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その姿を、人は「スクールアイドル」と呼ぶ。
らしい。
スクールアイドルとは肩書きだけの代物ではない。
生き方なのだ。
そして、夕霧綴理は、それを1年の頃から実践してきた。
例え、恩人が引退し、友人が踊れなくなり、気持ちを裏切られても、きらめきたくて明日へ進み続けてきた。
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もっと言えば、スクールアイドルクラブの戸を叩いた時から。
夕霧綴理は誰に認められるまでもなく、最初からそうだったのだ。
きらめきを求め続けてきた彼女はスクールアイドルで、普通のことで苦しむ普通の少女で、限りある命で生きる"ただの夕霧綴理"だった。
だから、彼女が抱えた呪いの言葉は、半分正解で、半分間違いだったのだろう。
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最初から彼女は、ただの夕霧綴理で、スクールアイドルだったのだから。
ただ、ひとつ違うのは、"ひとり"にはなるかもしれないけど、決して綴理先輩は"独り"にはならないってこと。
だって、側にいなくても、夕霧綴理が積み重ねてきた思い出は、なにひとつなくなっていないから。
"ひとり"であることに寂しくなっても、いつだって仲間と笑い合った過去は消えないはず。
1人と孤独は違う。
どれほど寂しくなっても、過去が独りにさせないから、ひとりでも生きていけるのだ。
"つながり"とはそういうものではないだろうか?
そして、きっと綴理先輩の選ぶ先の未来には、綴理先輩を独りにさせない誰かがいるだろう。
綴理先輩にはそんな暖かさと、「誰かのきらめく瞬間を見る」って夢があるのだから。
そして、それを誰よりも信じているのは村野さやかだと思う。
だから、劇中で意図的にさやかちゃんと、綴理先輩で「ひとり」の表記を変えているのではないだろうか?と、僕は勝手に考えた。
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それに、「自分がいなくなっても幸せでいてほしい」なんて願う人がいるなら、独りになんてなるはずがないでしょう?
これから先、ひとりになった、ただの夕霧綴理が、どんな人生を歩んでいくのか、不安であり、楽しみだ。
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けれど、「夕霧綴理の将来がどうなるか」を見る資格は、僕らには与えられていない。
なぜなら、ラブライブ!は「スクールアイドルのお話」であり、ここから先は"ただの夕霧綴理"の人生だから。
でも、ただの夕霧綴理の友人である彼女達には、それを明かす日がきっとくるはず。
そう願っています。