一時保護をめぐる近年の児童福祉法改正の動き
1 児童福祉法改正の概要
ことし(令和6年)4月、改正児童福祉法が一部施行されました。
児童福祉法改正法案は令和4年に成立していて、ことしから準備の整った項目から順番に施行されています。近年児童福祉法は改正が相次いでいますが今回の改正のポイントは以下の7点です(一部要約)。
①子育て世帯に対する支援の強化
②児童への処遇や支援、妊産婦等への支援の質の向上
③社会的養育経験者・障害児入所施設の入所児童等に対する自立支援の強化
④児童の意見聴取等の仕組みの整備
⑤一時保護開始時の判断に関する司法審査の導入
⑥こども家庭福祉の実務者の専門性の向上
⑦児童をわいせつ行為から守る環境整備
どの項目も重要ですが特に今回の記事は⑤の「一時保護開始時の判断に関する司法審査の導入」について考えていきます。
(⑦については最近議論になった日本版DBSが絡んでくるのでまた別で書きます)
2 近年の一時保護における司法審査の導入
一時保護は児童相談所(以下児相)が虐待の疑いがある場合等、必要な時に親から子どもを隔離する措置で(児福33条1項)、児童虐待防止の場面において重要な制度です。
虐待防止のために必要である一方、子どもを強制的に親から引き離すわけですから、事実誤認だった場合は相当なリスクがあります。しかもそれが児相の判断で行えるため、児相にはかなり強力な権限が与えられているといえます。
近年は一時保護の判断を児相の独断に任せるのでなく、裁判所の関与を徐々に強めていく傾向にあります。
平成29年の法改正では一時保護が2ヶ月の期間を超える度に家庭裁判所による司法審査を経ることになりました。
そして今回の法改正により一時保護をする際には保護する前か、保護してから7日以内に裁判所の許可が必要となりました。
実際に施行されるのは来年(令和7年)からで、それまでに実務家や専門家がマニュアルの作成などの作業を進めるようです。
3 一時保護と刑事司法制度における令状主義との比較
この節は法律論として自分が今後考えていきたいことを書きます。思いついたことのメモ書きです。
一時保護は行政による一種の身柄拘束です。
我が国には他にも行政による身柄拘束が可能な例があり、その超代表的な例が刑事訴訟法における逮捕や勾留です。
刑事訴訟法では現行犯などを除いて被疑者の逮捕には事前に裁判所の令状が必要で(令状主義)、身柄の拘束にも厳格な時間制限があります。それと比較すると一時保護がいかに児相の強力な権限のもと行われているかということがわかります。
上記の司法審査を導入する近年の法改正を踏まえても、一時保護における司法審査は刑事訴訟における司法審査よりはるかに緩いです。
このように児相の権限が強くされているのは、一時保護が極めて緊急を要する場合が多いこと、一時保護が短期的なものであることが理由となっています。
また、制度の目的も異なります。
一時保護は児童の安全の確保が最大の目的ですが、刑事訴訟における逮捕の目的は被疑者による証拠隠滅や逃亡を防ぐことにあります。
ただ、両者の制度目的の違いが、司法審査の厳しさにここまで大きな差があることの理由の説明として十分かということは一考の価値があります。
さらに、日本における人権問題において「令状なき身柄拘束」は他にもあります。
パッと思いつくだけでも、入管法違反の外国人に対する強制収容、精神福祉法における措置入院が挙げられます。
これらの「令状なき身柄拘束」の制度を比較するのもありかもしれません。
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