ジャニーズ問題 被害を防ぐために必要な法整備とは
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要約
・ジャニーズ問題について、児童虐待防止法の改正が提案されているが、どちらかというと児童虐待防止法の問題というよりは、労働問題の特殊なケースと考えた方が良いのでは
・まず考えられるのは男女雇用均等法等、セクハラ、パワハラの法律の適用
・しかし、通常の労働に比べて未成年の芸能活動は性加害が発生しやすい条件が整ってしまっているといえる。海外の事例を参考に、未成年の芸能活動の労働条件の規制という方向性で考えるのが妥当ではないか。
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1 児童虐待防止法の改正よりは労働関係の法律により対応するべきではないか
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_647d211ee4b02325c5e1718d
ジャニーズ問題を受けて、児童虐待防止法の改正を求める動きが活発になっています。昨日(5日)にも元Jr.らが改正を求める署名を提出し、各紙が報じました。
改正案の内容は
「経済的・社会的に強い立場にある第三者からの、地位を利用した子どもへの性暴力も「児童虐待」に当たると規定する」
というものです。
現在の児童虐待防止法における児童虐待の定義(2条)によると児童虐待とは「保護者」(又は監護者)がその監護する児童(18歳未満)に対してする行為を指し、ジャニーズ問題のような保護者以外の第三者による虐待は含まれないと文言上は解釈されます。
だから、虐待の定義に第三者による虐待を含めるような改正を求める声が上がっているわけです。
では、そのような改正をするべきなのか。自分は懐疑的です。
というのは、今回のような被害を防ぐための方法として、児童虐待防止法が機能するとは思えないからです。もっと別の方法の方があると思っているのでその点については後半で述べようと思います。
そもそも児童虐待防止法は、虐待事案に対応するためのさまざまな制度を設けていますが、それらは全て保護者による虐待を想定して作られています。
保護者による虐待もジャニー氏による虐待も虐待ということはできますが、なぜ虐待が起きてしまうのかという発生原因において性質が異なると私は思っています。
従来の法律で想定されている、保護者による虐待について。
子どもは保護者に育ててもらわなければ生きていけません。保護者と子どもという関係である限り、体力的、精神的、経済的に力関係は保護者が優越的立場にあり、子どもは家庭内において逃げ場はありません。
子どもは保護者に逆らうことが難しいですし、虐待を防ぐことの難しさにつながっています。
では今回、被害者がジャニー氏に逆らえなかったのはなぜか。
推測ですが、「気に入られなければ芸能界で活躍できない」という理由が大きいと思われます。
極端な話、逃げ場のない家庭内における児童虐待とは異なり、ジャニーズJr.は事務所を辞めることはできないわけではありません。しかし、芸能界で活躍したいという夢を追いかけるために我慢せざるを得なかったと見るのが実態に近いと思われます。
保護者による虐待、ジャニーズ問題における虐待、どちらも許されるものではないですが、性質に違いがあります。
ですからジャニーズ問題については、家庭での保護者による虐待と同列に語るよりは、むしろ雇用主と労働者という関係とみなした方が問題の本質に近いと思います。
そうだとすると、家族関係、家庭環境への対処を主な目的とする児童虐待防止法がジャニーズ問題のようなケースにうまく対応できるとは思えません。
児童虐待防止法を改正するよりは労働関係の法律を整備していく方が現実的に被害者を守れるのではないかというのが私見です。
例えば、児童相談所と労働基準監督署、どちらが今回の問題にうまく対応できるかということを考えると、この考え方にも少し説得力があるのではないでしょうか。
2 ジャニーズ問題の特殊性
ですから私がこの問題を見たときにまず考えたのは、セクハラやパワハラから労働者を守るための法律の適用です。
まず、今回の問題において、Jr.は事務所に所属して給与をもらって活動しているわけですから、ジャニー氏は雇用主、Jr.は労働者としてみることができます(法律的な細かい定義は違うかもしれませんが構造としてはそうでしょう)。
そして、法律上のセクハラ・パワハラの定義に照らすと雇用主としての優越的な地位を背景としている点で、セクハラ・パワハラに当てはまり、その中でもかなり悪質なケースと言えそうです。
セクハラ・パワハラを防ぐための法律は以前よりは充実してきていますし、「パワハラ防止法」など、セクハラ・パワハラを防ぐための体制づくりも義務付けられています。そうした法律が今回のようなケースでどこまで機能しているのか、ということは考える価値があります。
ただ、ジャニーズJr.の問題は通常の労働問題とは以下の2点で異なります。
①子どもであるが故の立場の弱さ
②芸能という仕事の特殊性
やはり子どもであると大人の言うことは絶対だと思ってしまい、被害に遭いやすいということは考えられます。
さらに、芸能という仕事は特殊で、誰が売れて誰が売れないかというところがかなりシビアです。売れるための生き残りをかけた戦いで、プロデューサーや監督に気に入られなければ生き残れないというプレッシャーは、通常の労働者が上司との関係で感じるプレッシャーとは比にならないでしょう。圧倒的力を持ったジャニー氏の存在に逆らうことはできなかったため、被害を避けることができなかったということが考えられます。
以上のように、被害のリスクが高まる要因2つが重なったことが今回の問題につながったと私は考えています。
3 どのような法整備が必要か
具体的にどのような法律が必要かということについては上の記事中の琉球大法科大学院の白木敦士准教授の指摘が参考になります。
白木准教授によると、アメリカの複数の州では「児童エンターテイメント法」というエンターテイメントに従事する子どもを保護する法律があり、日本でも包括的に芸能に従事する子どもを守る特別法を作ることも考えられる、と准教授は述べています。
私はまずは、労働者を守るための今の法律を基盤に、芸能に従事する子どもを守るための規定を追加していくという方法が良いのではないかと思っています。
例えば現状労働基準法は年少者の労働を制限しています。
15歳以上の未成年者は労働はできますが、親権者の同意が必要だったり深夜労働ができなかったり制限があります。また、中学生以下は基本労働ができませんが子役が必要などの理由から芸能関係のみ許されます。
これらの規定が子どもを守るために十分なのか。不十分ならどのような規制を加えていくべきなのかということは考えていくべきです。
また、前述したパワハラ防止法には内部通告の義務化などがあり、芸能事務所における適用状況なども見るべきです。
もちろん新たな特別法を作るということも考えていくべきですが、前提として今どのような制度があるのかということは大いに参考にするべきです。
さらに、この問題は子どもに限ったものではなく、エンターテイメントに従事する労働者は通常の労働者よりもハラスメントを受けやすい環境にあると考えられるので、芸能関係の労働者を守る法律を作り、子どもの場合はさらに保護を強めるという方法も考えられます。
今の自分に考えられることはとりあえず出してみました。
現実的な方策に向けた国民的な議論を期待したいです。
(追記)2023/6/7
やはりそうなりました。