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転校してよかったか Ⅰ #55

   街のイルミネーションが綺麗な時期になりました。今年の年にお別れを言い、そしてだれもが来る年に期待を寄せるそんな時期になりました。
   だれもが楽しみにしている時期。しかし16年前、夏前に起こったいじめの事案からこのクリスマスの時期まで学校が大きく苦悩した話があります。

 夏休みの終わるある週でした。夕方過ぎに市教委学事課から学校(H小学校の時)に一本の電話がありました。(
 「校長先生にお願いです。一人の子の転校を是非認めてほしいのです。」
 「学事課からの直接の転校の話ですので、まず要件を聞かせて下さい。」
 「隣の学校の件です。6年生の女児ですが、いじめの案件から学校長以下 学校ではもう解決が困難になっています。ぜひ〇〇校長先生の方で、この子の転校を認めてもらえませんか?……」
 「□□校長先生(相手校)も、もう無理な事案ですね?」
 「はい。」
 「分かりました。学校で検討させて頂きますのでお返事は明日でよろしいですか?」

 それから私はすぐにまだ帰宅していなかった6年担任を校長室に呼びました。
 「市教委から転校の話がありました。」
 「校長先生は、受け入れをもう決めているんでしょう?校長先生がいいのでしたら、私達もokです。」
 「いや、そうじゃないけど(笑)……じゃあ、明日返事をします。H小学校は、その子を守るために努力しましょう。
 「はい。」

 話のやりとりはこのようにごく簡単なものでしたが、話の本当の中身は壮絶なものでした。

 隣の学校の6年生のクラスでいじめがあった。
 もともと学級が落ち着いていなかったせいで、数人の子へのいじめがおよそ一年続いていた。子どもへの直接指導、保護者への指導、そして学級、学年全体への指導。担任だけでは足らず学年主任、そして教務主任、教頭。最後は校長も参加して指導を繰り返したが、それでも解決できなかった。最後はその子の安全を危惧して12月から親は子どもの登校をさせなくなった事案でした。

 私は次の日の朝、市教委に電話をして、転校の承諾と次のことをお願いしました。
 「その子の転校を認めます。そしてお願いしたいのは、本日すぐに相手の保護者に会いたいので本校に来てもらうように伝えて下さい。」と

 それからしばらくした昼前に、その子とお母さんが校長室を訪ねて来られました。
 お子さんがご一緒でしたので、二人には次のような話をしたことを覚えています。
 「今まで辛かったね。H小学校では、学校の職員全員で△△ちゃんあなたを守りますよ。もう安心して下さい。」
 「ただ、お母さんに一つだけ約束して欲しいことがあります。前の□□小学校のことは話題にせず、このH小学校のことを信用して下さい。何かあったら、担任または私に話をして下さい。本校を卒業できてよかったと思えるように私達は全力であなたを守ります。」
 「分かりました。……」

 これが転校の一部始終です。
 12月の今頃、一人の女の子が転校してきた。
 そして3月には、その子は無事卒業することができました。
 3月の卒業式の朝、式の前に二人が校長室に笑顔で挨拶に来てくれたことを、私は今でも覚えています。同時に「転校してよかった?」という命題は確信に変わりました。

 実はこの話には後日談がありました。
 女の子が転校してきた前の学校からもう一人の転校受け入れの要請が、その数日後市教委からありました。今度は、別のクラスで起こったいじめの加害者のお子さんの件でした。私は、その件は丁重にお断りをしました。

 いじめによる転校。
 いじめの該当校は、学校全体が崩壊の機にあり、根本的な改革を校長がすべき大きな場面でした。逆に受け入れ校の教師は、全力で受け入れるべき事案です。(受け入れ側の立場は優位ですが)
 そのためには、私はいつも
 ① 学校はいつも心も体も健康であること
 ② 担任の行う学級経営を信頼すること、また学校全体で見守ること
 ③ 職員自身が教科経営について自信をもつこと(そのための努力をすること)

を思っていました。

 年の瀬。
 夏からのこの時期まで苦悩した思い出。これも一つの思い出です。(R6.12.14)

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