「怨嗟は巡る」
人でごった返す休日のショッピングモールの中、すぐ近くから悲鳴が上がった。声の主は妻だ。
理由は至ってシンプル。僕が刃物で刺されたからだ。腹部から今まで感じたことのない激痛と見たこともない程の大量の血が溢れ出ていた。
傷口の焼けるような痛みとじっとりと額から流れる冷や汗。突然の出来事と未知の連続で精神がパニックになっていた。
ショッピングモールの白く美しいタイルに真っ赤な血が流れている。
僕は犯人の顔を恐る恐る確認した。
「君は、まさか」
男の顔に見覚えがあった。高校時代の同級生だった。
「おう。覚えていたのか? 昔やられた事の報復だ。ずっと待ってたんだよ。お前が幸せになるタイミングをな。結婚式のタイミングでも良かったけど、警備員や諸々がめんどくさくさー」
元同級生が早口で語り出した。目は今だに血走っていて、僕に対する殺意が治っていない事を示していた。
「あなた!」
「逃げてくれ」
僕は元同級生は妻に逃げるように急かした。妻だけは。妻だけは何とか逃げて欲しい。
意識が飛びそうになった時、発砲音が聞こえた。それと同時に男が元同級生が真横に倒れた。
「早く早く! 担架にのせろ!」
「出血が酷い」
「あなた!」
朦朧する意識の中、様々な声が流れ込んでくる。それから遠ざかるように僕は目を閉じた。
目を覚ますとそこは病院だった。隣では妻が居眠りしながら、座っていた。彼女は無事だった。良かった。
数分後、飛び起きた妻と目があって、泣き疲れた。
医者から診察を受けて、警察からは事情聴取を受けさせられた。
僕は犯人とも関係性を話した。高校時代の元同級生で在学中に喧嘩して相手が負けて、退学した事。おそらくそれで恨まれた事。
十年以上前の因縁がまさか、こんな形が実現するとは思わなかった。
「良かった。本当に良かった」
妻が泣きながら、僕の胸に顔を埋める。妻に愛おしさに覚えながら、彼女の頭を優しく撫でた。