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父親の夢

むかし、父が退職後は喫茶店を経営したい、と言っていたのを聞いたことがある。
九州の小さな島の出身の父は若い頃、大阪に仕事を求めて出てきたようだ。
世界遺産に登録されたその島は、草木も海も手が加えられていない自然そのものの姿で、時に荒々しく、時にゆるやかで、幼い頃に数回しか訪れたことのない私の記憶にしっかりと刻まれている。

さて、ある意味本土から隔絶された島出身の父は街で就職し、計り知れない苦労をしたことだと思う。
永くサラリーマンとして勤務し、定年後も新しい職に就いて真面目に働いた。私はそんな父が大好きだ。
勤務態度は真面目だが実際は面白い人で、子供の頃から父の話を聞くことが楽しくて仕方がなかった。
書くことが得意だったかどうかはわからないがあの経験や思考を本にしたら今頃ベストセラー作家になっていたに違いないと思う。遠藤周作や北杜夫作品を好んだ父は、そういう夢は持たなかったのだろうか。

真面目にサラリーマンとして生活していた父が定年後は喫茶店を開きたいと、一つの夢として語った時には意外過ぎて驚きだった。でも話の面白い父が喫茶店のマスターになっていたらそこそこ流行ったかもしれないとも思う。そういう世界ものぞいてみたかった。

戦争を経験している父は夢を語るなんていうことはしてこなかったのかもしれない。
私が子供の頃は父が夜中にうなされて大声を出すことがあった。怖がりさんだなーとその頃は思っていたが、高校生ぐらいの時にそれが戦争の体験から来るものだと理解した。
頻繁には語らなかったが、幼い頃に聞いた戦争の話を、当時しっかりと聞けていたらよかった。

苦労した父にそれを超えるほどのいい思いを味わってほしく私は色々試みる。
父の「その日」のことを考えると私は平静ではいられない。なんども空想で涙した。

そんな父は90歳を越して経つがまだまだ元気だ。
週末は父に会いに行って珈琲を飲もうかな。

#夢 #戦争経験者 #父親

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