コロッケとラブレター ~守護の熱 第二話
数日後、学校の帰りに、カメラ屋に寄ろうと、商店街に寄り道をした。今日も、羽奈賀がついてきた。最近、特に、よく一緒にいる。休み時間とか、登下校の時も、なんとなく、そんな風だ。
「フィルム、結局、あれが、最後の在庫でさ。結構、感度のいいのは高いけど、この店は、数を買うと、少し、安くしてくれるから、まあ、あってよかった」
「だから、わざわざ、遠回りしたんだ、・・・ねぇ、まぁや、お腹すかない?」
「ああ、隣だろ、肉屋の、いい匂いだな」
カメラ屋の隣に、精肉店があって、夕方には、惣菜用の揚げ物が並ぶ。
「その所為かあ、ああ、美味そうだなあ」
「ああ、坊ちゃんたち、いらっしゃい、コロッケ、揚がったとこだけど」「うーん、いいなあ」
「買ったことないのか?ここのやつ」
「うん、買い物は、皆、お手伝いの山下さんが、やってくれるからな。あんまり、ここにはこないから」
「そうだった。お前、金持ちのお坊ちゃんだったな」
「って、まぁやだって、大地主のお坊ちゃんだろ?」
「ただの小作農だったらしいぞ、何代か前は。・・・つうか、食ってくか」「わあ、いいの?」
羽奈賀は、小さい子みたいに喜んだ。
「いいよ、こんなの。・・・何?食ったことないのか?」
「うん」
そうだ。羽奈賀は、数年前に、この長箕沢に越してきた。それまでは、ランサムで育ったらしいから、こういう東国の普通の感じ、案外、知らないことが多いらしい。
「そうか。地元民なら、子どもの時から、食ってる筈だからな。コロッケ、二つください」
「はいはい、ああ、辻さんの坊ちゃん、今日は、ご家族の分はいいのかい?」
「ああ、じゃあ、うーん、そうだな・・・後七つ」
「じゃあ、あと一個で、十個だから、一個サービスするから」
「いいんですか?ありがとうございます」
「いいのよ、はい、じゃあ、二個は食べ歩き用ね、ソース、どうぞ」
「はい、頂きます。・・・ん、あー、美味い。ほくほくだ・・・あふ」
羽奈賀は、さも、嬉しそうに受け取り、コロッケを頬張った。
「こんばんわ、おばさん、肉じゃがコロッケある?」
その時、髪が長く、背の高い、細身の女性とすれ違った。何気なく、目が合った。何か、ハッとしたようなリアクションをしている。
「ああ、清乃ちゃん、できてるわよ」
「頼んどいて、良かった」
「はい、五個ね・・・忙しいの?」
「まあねえ」
何気に、振り返ってみると、彼女は、こちらを見ている。再度、目が合うと、ニッコリとしてみせた。・・・どこかで、会ったことがあるような・・・?
「人の出入りが多いから、最近ね、高級そうな車とか、山の方に向かって行くから」
「ああ、お客様、開発事業の関係だから、お役人も来てるみたいでね」
「大丈夫かなあ、と思ってさ。また、薹部開発が、ここに大きなショッピングセンター建てるって話、復活したって噂、聞いてるんだけど・・・もし、本当だったら、立ち退かなきゃならないのかと、心配になっちゃってね・・・」
「そういうの、あたし、解んないのよね。ごめんね」
「まあ、そうよねえ・・・ああ、坊ちゃんたち、終わったら、ここ、ソース置いといて」
「ああ、ご馳走様です」
「美味しかったです」
「はい、辻さん、お父さんによろしくね、また来てね」
ソースをカウンターに戻す。おばさんが手を振ってくれた。すると、その彼女も、また、何故か、一緒に、ニッコリと手を振ってくれた。
「知り合い?」
「え?」
俺はてっきり、羽奈賀の知り合いだと思ったのだが。
「ああ、あの女の人、こないだの明け方の自販機の前の人だよね」
「あ、ああ、そうだったのか?・・・へえ」
「解んなかったの?」
「ああ、いや、よく覚えてるなあ、お前」
なんとなく、惚けた。俺もそうかと認識はあったのだが。
「あの人、普通の人じゃないから」
「え?」
「・・・なんでもない」
その数日後、天体写真を撮影したものを、そのカメラ屋に現像に出しに来た。店を出た時、また、精肉店に入る、彼女と擦れ違った。
「あらあ、今日は一人なの?」
「・・・え、あ、はい」
「そう、じゃあねえ」
不思議と、商店街に行くと、擦れ違う。時に、八百屋にいたり、スーパーから出てくる姿だったり、なんとなく、見てると、必ず、あの精肉店に立ち寄るようだ。学校帰りで、いつも同じぐらいのタイミングだったから、恐らく、彼女の買い物の時間帯と重なっていたのだろう。
「また、会ったわね。よく来るのね」
現像した写真を引き取りに来た時は、また、羽奈賀が、一緒だった。どういうわけか、羽奈賀は、彼女と擦れ違うと、嫌な顔をした。まあ、要は、ヤクザの関係の女の人だから、こないだみたいに、奴らがいるかもしれないと思って、そんな感じなのだと、俺は感じていた。
「よく、擦れ違うの?あの女の人と?」
「なんか、写真屋に来ると、たまたまだと思うが、肉屋にいるんだ」
「ふーん・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「辻くん」
ある日、学校の校門を出た所で、背後から、声を掛けられた。振り向くと、近くの長箕女子高校の制服を来た女子だった。
「辻雅弥くん、だよね?」
「あ、そうだけど・・・?」
誰だっけ?・・・知らない子だよな。いや、会ったことあったか?
「お久しぶりです。私、荒木田実紅。覚えてますか?お兄ちゃんと、同級生だよね?辻くんって」
ああ、そうか。サッカー部の主将、荒木田の妹だ。しばらく、会ってなかったから、解らなかったが。
「あ、お兄さんなら、まだ、きっと、部活中じゃないかな?」
「ううん、いいの。これ、読んでください」
「え?何?」
「お返事ください。待ってます」
パッと、手早く、何か、こっちに、押し付けてきて、踵を返して、帰って行ってしまったが・・・。
「見たぞ、見た」
「雅弥、来たー、これ、あれじゃん、ラブレターじゃんか」
「なあ、実紅ちゃんって、今年のミス長箕女子だろ?」
クラスの奴らが、様子を見ていたのか、絡んできた。確かに、そんな体なのかもしれないが・・・、それにしても、あの子、目立つことをするな、・・・少し、そんな感じが、荒木田に似てるような気がした。
「雅弥が告白されたぞー」
「・・・その前に、荒木田の妹、っていうのがね、ちょっとなあ・・・」
ああ、大声で、学校の門前で、騒ぎ出した。面倒臭いことになってきた。そこに、羽奈賀がやってきた。
「おい、羽奈賀、雅弥がラブレターもらったぞ」
「え?・・・何、本当なの?まぁや」
「なんか、これ・・・」
「見たんだ。手渡ししてるの」
「付き合うの?付き合うよねえ、決まってるよねえ?」
「・・・いや、そういうのは・・・」
羽奈賀と、此処で目が合った。・・・?・・・なんか、変な顔つきだ。怒ってるのか?
「何、スカしてんだよ。長箕女子で、一番可愛い子だよ」
「でも、兄が、あの荒木田、」
「なんか、究極の悪条件じゃねえ?それって」
「まぁや、帰る?」
「ああ、帰るけど・・・」
羽奈賀の声かけで、帰ることにした。クラスメートは、いつまでも、揶揄ってきたが、帰り路の分岐で、一行と別れた。
「うるせえ奴らだ」
「まんざらでもないんじゃないの?そんなの、もらって」
「え?・・・ああ、これ、読まなきゃいけない、よな?」
「まあ、読んだら、大方、そんな感じでしょ。丁寧に断れば、いいんだよ」
「あ、そんな感じで、いいのか。こういうの、って」
「そうじゃないの?」
「そうなのか?」
「なーんか、知らないフリとか、してるよね?」
「何が?」
「こんなの、中学とかでも、もらってた筈だよ」
「え?ないよ、初めてだ」
「嘘だ」
「なんで?なんで、そんなこと、お前に嘘つかなきゃならないんだ?」
「・・・」
羽奈賀は、なんとなく、不機嫌になっていた。
「ん?・・・ひょっとして、お前も、あの子のことが」
「違う」
あ、少し語気が強かった。俺の言葉尻に被るように言って来た。
「ごめん、あいつらみたいになるな、このままだと・・・ああ、ちょっと、星見の丘、行きたいんだけど・・・」
羽奈賀は、うんと頷いた。
「悪い。こんなの、なんかな・・・」
「いいよ、読むの、付き合う」
「うん、なんか、・・・助かる」
~つづく~
みとぎやの小説・連載開始 「コロッケとラブレター」守護の熱 第二話
読んで頂いて、ありがとうございます。
少しだけ、お話の中の、独自の設定について。
国の名前、地名は、全てオリジナルとなっていて、
実は、どの物語でも、共通です。
そう思って、他の物語を覗いていただくと、
面白いかもしれません。
第一話はこちらです。未読の方は、是非、ご覧ください。
この続き、第三話はこちらです。引き続き、お楽しみください😊