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根比べ~その手を取って 第五話

 寝室に先導して入る。暖房をつける。彼女は、自分の荷物を纏めて、ベッドの設えの乱れを見つけ、直し始めた。

「ああ、いいですよ」
「すみません」
「・・・でも、やっぱり、ここ、使ってください」
「さっき、寒かったのは、暖房が切れたから、だったのかしらね?」
「あ・・・そうか、すみません」

 タイマーだったのか・・・本当に、気が利かないな、俺は・・・。だったら、

「この部屋の方が断然、あったかいですから、リビングより気密性高いんで」
「でも・・・」
「じゃあ、俺、この脇にクッション持ってきますから、暖房であったかいし」

 妥協案・・・っつうか。これで、空間は共有になるから、かなりの可能性が・・・どうかな?

「床は冷たいですよ。それでも」
「いやあ、クッション集めてくるんで、ソファとそこのやつと・・・」

 返事を聞かずに、強引に行動に出る。リビングから、クッションを抱えて戻ると、申し訳なさそうにしてる。

「・・・朝、早く、失礼するので、後、何時間かですよね?」

 何かな?この感じは・・・まさか。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「こっち側で大丈夫ですか?・・・ああ、すみません。やっぱ、狭いですね」
「申し訳ないです」
「ああ、いいんですよ。僕は・・・まあ」
「すみません」
「そんな、謝らないで。これで、お互いに寒くなくて、という妥協案で・・・」

 言葉、間違ってるぞ。妥協案じゃない。俺は。目的の70%ぐらいは達成してるじゃないか。嫌でも、お互いの体温感じて。セミダブルにしておいて、良かったな。シングルでもないし、無駄に広いダブルでもないし・・・。

「いいえ、ごめんなさい」
「いいですよ。貴女に寒い思いをさせなくて済んで、良かったですから、謝らないでください」
「若いお嬢さんでなくて・・・」
「え?」
「妥協案ですから・・・おやすみなさい」
「あ、そんなこと、ないですから、そんなの、謝らないでください」

 彼女は、後ろ向きに寝ている。小さく頷いたように見えた。え?どういう意味?妥協案、そこ?

「あ、あの、そっち側、寒くないですか?余り、寄ると、落ちるかもしれないから」

 もう少し、こっちへ・・・って、暗に。

「大丈夫ですから」
「眠れますか?」
「あったかいんで、身体を横にしてるだけで、休めます。いつか、寝ちゃうと思います」

 俺は、無理かな。

「これは内緒で」
「あああ、はい、勿論」

 そうだよなあ。一緒のベッドで寝る、なんて、誰も何もなかったとは思わないだろうから。噂になる怖さを知っているのだから、こんなこと、人に知られるなんて、お互いに困ることだし・・・。

『後は、頑張れ』

 うわあ、こんな時に、渡会の言葉が浮かんできた。って、こんな時で、こんな場合だろうが。確かにそうだ。逆転勝ちって、段取りに違いないんだけど。

「あったかい・・・」
「え・・・あ、よかった」
「譲っていて、穂村さんこそ、寒くないですか、そっち側」
「ああ、大丈夫です。もう、充分、あったかいですよ」

 そう。暑いぐらいだ。

「この枕、新品なんですね。てっきり、彼女さんのものだと思いました」
「え?あああ」

 ヤバい。準備していたみたいだ・・・って、そうだけど。

「ごめんなさいね。本当に」
「あああ、いません。彼女なんて、だから、謝ることもないですから」

 クスクス、と笑ってる声が聞こえてきた。・・・身体を伝わって、その振動が来る。

「嘘」
「嘘じゃないですよ、だから、今夜のこと、咎める人なんて、俺には、いやしないんです」
「・・・ごめんなさい。聞く心算もないのに、すみません」
「あああ、いいですよ」

 いいや。話してるのも。眠っちゃうのが、勿体ない。

「今、こっち、向かれてるの?」

 あああ、そうだけど。って、だめ、な感じだよな、それって?

「こっち向きが楽な人なの?」
「そ、そうです・・・ああ、なんか・・・」
「同じなんですね。違ったら、逆が良かったのに」

 もう、そんなことないです。違わなくても、何でも、寝返りがありますから。

「気、使わないで、寝返りしてください。嫌じゃなければ」
「眠ったら、無意識にしてしまうと思います」

 じゃあ、先にお休みください。あ、じゃなくて、意識がある方が、いずれにしたって、いいじゃないですか。コミュニケーション取るには・・・なんて・・・あっ。

「じゃ、すみません。引っ張らないように、上掛けを」
「ああ、はい、大丈夫、このまま、どうぞ」

 来た。嘘みたい。ちょっと、笑ってるのかな。うふふって、聞こえてるんだけど。協力して、動きやすくしてあげて・・・距離は、いい感じだ。遠くないし、近すぎな・・・くもない。顔、やっぱり、近いな。わあ・・・

「はあ、私ね、お布団で寝てるから、こんなの、あんまりなくて」

 んーと、それは、どういう意味かな・・・。普段から、布団だから、一人で寝てるから、とにかく、環境が違うってこと・・・かな?

「場所、変わんなくて、本当にいいですか?」
「とんでもない、これで・・・」
「うふふ」
「あああ」
「ダメでしょ。もう、こんなの、やっぱり、ごめんなさい」

 これは、何の「ごめんなさい」かな。

「いずれにいても、お嬢さんの方がいいよねえ」

 わざと、声、そんな風にして、いいのに、しないで。

「そんなこと、ないですよ。・・・いいに決まってるじゃないですか」
「穂村さん、上手ね、うふふ」

 名前、至近距離で。いちいち、響く。あちこちに。多分、これは根競べの領域に入ったのではないか?・・・つまりは、いいってこと?・・・いやあ・・・でも、これで、何も、っていうのは、大人なのに、定石から外れるんじゃあないのか。

                             ~つづく~


みとぎやの小説・プチラベイユ連載 「根比べ」~その手を取って 第五話

お読み頂きまして、ありがとうございます。
まだ、なんですよね💦まだ。何やってんの💦まだなんです。
というわけで、次回、お楽しみになさってくださいね。

こんな感じのじれったいお話を含んだ、恋愛小説風のお話は、こちらから、御覧になれます。宜しかったら、お立ち寄りください。


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