インターンシップの光と闇~ブラックインターンを避けるために~
はじめに
令和4年の制度改正によって、インターンシップの内容が再定義されました。改正以前から就活を行う学生にとって、インターンシップは貴重な機会です。その種類や内容は様々ですが、私が独自に行ったアンケートによれば、「早大生の2人に1人が長期インターンでの勤務経験があった」と判明しました。このように、就活市場において必須となりつつあるインターンシップですが、中には「ブラックインターン」と呼ばれるインターンシップも存在します。インターンシップの内容をよく見極め、ブラックインターンを呼ばれる企業を避けることでかけがえのない学生生活を無駄にしないようにしましょう。
本記事では学生がインターンシップについて理解し、ブラックインターンを避けるために必要な情報をまとめました。
インターンシップについて
インターンシップとは
インターンシップとは、本来は企業が提供する就業体験機会を指します。インターンシップは今現在多くの学生が就職活動として参加しています。インターンでは、企業の実際の仕事や雰囲気を掴むことができるため、就活生がキャリア選択をする助けになっています。
インターンシップに関する制度改正
令和4年以前のインターンは、文部科学省、厚生労働省及び経済産業省によって合意された「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」において「学生が在学中に自らの選考、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」と定義されていました。そして、学生の就職活動の長期化と早期化を防ぐために、企業がインターンで取得した学生情報を採用活動に利用することは禁止されていました。
そんな中、令和4年、インターンシップに関する新たな定義が発表されました。
「採用と大学教育の未来に関する座学協議会」は、令和4年4月に公表した報告書において、インターンシップにおいて新たな定義を定めることと、一定の基準を満たすインターンシップで得られた学生情報については採用活動開始後に活用可能とすることで合意に至り、「インターンシップの推進に当たっての基本的考え方」の早急な見直しを政府に要望していました。
上記の要望があった背景から、令和4年6月13日に経済産業省、文部科学省、厚生労働省の3省は上記のインターンに関するルールを改正しました。この改正により、「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」によると、インターンシップは「学生がその仕事に就く能力が自らに備わっているかどうかを見極めることを目的に、自らの選考を含む関心分野や将来のキャリアに関連した就業体験(企業の実務を体験すること)を行う活動(但し、学生の学修段階に応じて具体的内容は異なる)」と新しく定義されました。また、25卒より一定の要件を満たすとインターンで取得した学生情報が広報活動、採用活動で利用可能になりました。
つまり、企業は25卒以降の学生(現大学3年生)の採用に関して、インターンシップで得た情報を活用できるようになったのです。このような政府の推進もあり、企業がより一層インターン制度を積極的に導入すると予想されています。そのため、より多くの学生がインターンに参加することが見込まれます。
キャリア形成支援の4要件とインターンシップ
産学をきっかけとした改正によって、学生のキャリア形成支援が改めて定義されました。新たに定義された学生のキャリア形成支援は、以下の4要件に分かれています。
① オープンカンパニー
② キャリア教育
③ 汎用型能力・専門活用型インターンシップ
④ 高度専門型インターンシップ
以上の4要件のうち、タイプ3とタイプ4がインターンシップに当たります。
以下ではキャリア形成支援の違いについて説明します。それぞれの4要件の違いの概略を表したものが次の図になります。
※図中の文言は、採用と大学教育の未来に関する座学協議会「座学で変えるこれからのインターンシップ」(https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/039_leaflet2.pdf 2023/06/04閲覧)より一部抜粋しました。
上記の図にあるように、タイプ1・2のキャリア形成支援においては、改正以前と同様に、学生の個人情報の取得や個人情報を活用した広報・採用選考活動は禁止されています。タイプ1のオープンカンパニーは業界や企業に関する情報提供・PRのために行われます。就活サイトやキャリアセンターが主催するイベントが例として挙げられます。参加期間は1日で終わるものが多く、就業体験はありません。タイプ2のキャリア教育は働くことの理解を深めるための教育として行われます。大学が主催する授業/産学協同プログラムが例としてあげられます。参加期間は授業・プログラムによって異なり、就業体験は任意となっています。
一方で、タイプ3・4のキャリア形成支援はインターンシップに該当し、企業はこの支援で得た25卒以降の学生の情報を活用することができます。タイプ3の汎用型能力・専門活用型インターンシップは就業体験を通して、自らの能力を見極めることを目的として行われます。タイプ4の高度専門型インターンシップは修士課程やジョブ型などの高度な専門性を重視したインターンとして行われる予定であり、未だ検討中です。それぞれ実施期間は学部3年以上の長期休暇期間(夏休み、冬休み等)に行われます。
先述の通り、タイプ3・4のキャリア形成支援では、企業は学生情報を広告・採用活動に利用することができます。その活用に関しては、「一定の基準」が設けられていることにも注意が必要です。企業が学生情報を利用可能にするために必要な「一定の基準」として、インターン参加日数の半分以上の職場での就業体験要件が求められます。また、職場社員による指導、終了後のフィードバックも求められます。加えて、タイプ3の汎用的能力活用型では5日間、専門活用型では2週間以上の実施期間要件を行うことが必要となっています。タイプ4の高度専門型インターンシップでは、ジョブ型の場合2ヶ月以上、高度の場合は検討中となっています。
ブラックインターンについて
ブラックインターンとは
法改正以前、「インターンシップ」の名のもとに、企業によって様々な「インターンシップ」が行われていました。例えば、長期インターン、短期インターン、1dayインターン等、様々なイベントが行われてきました。今回の記事で取り上げる「ブラックインターン」は、従来の長期インターンでのトラブル例です。そのため、ブラックインターンの体験例は実施されたのが法改正前であり、キャリア形成支援の4要件に全て該当しておらず、令和4年現在の定義におけるインターンシップではありません。
主にベンチャー企業、スタートアップ企業で、「長期インターン」が実施されていました。実施期限は1ヶ月以上のケースから半年ほどのケース、2~3年にわたって行われるものまで企業によって様々で、全学年が対象となります。そのため、募集要項には1,2年生限定と書かれているものが多いです。長期インターンでは実際に職場で企業の一員として社員と同様の業務を行います。仕事に応じて給与も発生することが一般的です。時給は企業によって様々で、歩合制の企業もあります。長期インターンを探す場合は、長期インターン募集サイトや、SNS、逆求人サイトを使われる場合が多いです。
長期インターンのメリットは、正社員といっしょに働くことでアルバイトでは体験できない実務的な経験・スキルを積むことが出来るところでした。学生は参加によって必要最低限のビジネスマナーやスキルを身につける事が出来ます。また、長期間働くことで会社の雰囲気を肌で感じる事ができ、企業側からの信頼を得る事が出来れば早期に内定を獲得することができます。
一方で、長期インターンのデメリットは長期にわたって働かないといけないため、学業やサークル、アルバイトとの両立が難しくなることです。
以上のような長期インターンの中でも、賃金支払いや時間拘束によるトラブルが多発するインターンは、「ブラックインターン」と呼ばれています。
ブラックインターンの特徴
以下では、「ブラックインターン」と呼ばれてしまう長期インターンの5つの特徴を挙げます。
① 過度な長時間労働
長期インターンはシフト制であることが多く、勤務の頻度も週2、3など希望のシフトの出すことができます。しかし中には週5で入ってくれと出勤を強要する企業もあり、学校の成績が著しく低下する学生もいます。単位よりも仕事を優先させるようなインターン先では働かないほうがよいでしょう。
② 釣り合わない給料
「ブラックインターン」を行う企業は賃金コストを低く抑えることができるというメリットのために、成長やガクチカを餌にして学生を雇っています。しかし、中にはそれが行き過ぎていることもあります。これはエンジニアのインターンに多いです。スキルや資格、成果に見合わない報酬を出すところでなく、適正な評価や昇給をする企業で働きましょう。
③ 業務内容の不透明さ
インターンの募集には具体的な業務内容が書かれていて面接のときにさらに細かく内容を伝えることが一般的です。しかし具体的な業務内容を乗せずに「成長できる」「本気の学生向け」など抽象的なことしか書かずにいざ企業で働いてみたらブラックだった、ということがあります。
体験例として営業のインターンであれば、営業力が身につき商談もやってもらいますと募集要項に書いてあったので入社。しかし、実際やることは勤務時間ずっと新規開拓のテレアポをかけ続け、お客さんが興味を示すとあとは社員が商談をするということがありました。スキルが付くことを売りにして単なる単純労働をさせるという学生搾取が横行しています。
④ 不十分な研修・教育
インターン生を社員がろくな研修をせずに業務だけ任せてほったらかしにするというケースがあります。近年はリモートワークなことも多く、業務のサポートを十分に受けられずに業務の進め方がわからないまま使えないとクビになるという事例があります。
具体的な業務やお手本を示してないのに学生が働けるわけがありません。
⑤ マルチ商法
インターンの中にはマルチのような悪質な業務もあります。主に営業のインターンに多く、インターン生の友達に勧誘させる友達商法と呼ばれるものが存在します。これは就活でガクチカになるどころか悪い印象を与え、さらに友達も失うことになり兼ねないので絶対に避けるべきです。
以上5つの特徴に当てはまる長期インターンは「ブラックインターン」だと言えるでしょう。
ブラックインターンの募集要項・面接の特徴
以下はブラックインターンに多い募集要項や面接時の特徴です。
・面接が適当
長期インターンでもバイトとは違い、正統な志望動機や経歴さらに興味のある業界など根掘り葉掘り聞かれます。これは動機が不明瞭な学生を雇ってもすぐにやめてしまうことを防ぐためです。
しっかりと人事が機能しているならば面接時の質問内容はマニュアル化されていて、かつ仕事に直結するような質問内容をされるはずです。どうでもよい、適当な質問をしてくるということは雇いたい学生はだれでもよいということです。つまり良くないインターンである可能性が高いです。
・募集にガクチカや熱意の押し売り
インターンの募集に頻繁に出てくる募集要項として「圧倒的に成長したい」「ぶっちぎりのガクチカ」などがあります。しかし、この一本張りで業務内容が不明瞭である場合は危険なインターン先である可能性が高いです。
実際に上記の体験談で語られたインターンの募集要項にはこの謳い文句が共通して全面的に書かれていました。特に営業系にインターンによくみられる文言であり、注意が必要です。
・常に募集を出しているインターン
これはインターンに限らず正社員、アルバイトの募集でも同じですが“やばい職場は離職率が高い”ということです。インターンにも採用枠に限りがあるため、年がら年中学生を採用しようとしません。しかし、ブラックインターンであれば離れていく学生が多いため常に募集を出しています。
・昇給の幅がないインターン
エンジニアであれば自分のプログラミングスキルや該当する資格によって給与が上がります。あるいは営業であれば顧客獲得に応じて昇給しますが、ブラックインターンでは低賃金で雇うためそういった昇給システムがないところもあります。面接時に昇給システムを聞く、また実際に働いているインターン生に聞くなどして調べるべきです。
以上がブラックインターンの特徴でした。募集要項をよくチェックするようにしましょう。
ブラックインターンの体験談①モバイルプランナー
近年流行っているスマートフォンの契約の営業インターンですが、これは“友達商法”と呼ばれる悪質な業務内容でありとてもマルチ商法と似ています。
業務内容の一例としてはインターン生自身の友達を店頭に呼びつけて携帯の機種変更の勧誘、営業をして実際に契約まで自身で行います。報酬は契約につきインセンティブで支払われることがメインです。
裁量度合いも高く、営業から商談のスキルまで身に着けることができるのでガクチカとしては大変強力です。さらにインセンティブなので力量次第では学生バイトでは考えられないほど稼ぐことができます。だから優良なインターンであるかのように一見見えますが、この“友達商法”で勧誘するところに問題があります。
「新しい機種変更ができます」と主にインスタグラムなどのSNSでこういった投稿が友達から回ってくることがあります。これはまさにそのインターンであり、勧誘方法は自分の知り合いから知り合いへと数珠つなぎ的にこの投稿が回っていきます。
契約してくれた友達にインターン生は「この投稿を回してくれ」と投稿を半ば強制的に促します。さらにその契約した人の友達に勧誘の電話をさせたりするのです。これはマルチ商法と似ているので勧誘された人は怪しんで勧誘してきた友達を信用しなくなります。
実際契約自体全く問題はなく無駄なデータプランであったり保証であったりをつけられないので価格も適正です。このビジネスとして違法なところは今のところありません。
しかし、インターン生はコミュニティから信用を失い孤立してしまいます。このことからこの悪徳ビジネスを規制する法律がないことが問題視されています。
ブラックインターンの体験談②ウォーターサーバー
長期インターンで実際の営業を体験し、積み重ねていくことで、就職活動のエントリーシートや、面接の時の学生時代に1番頑張ったこととして、実際に消費者に営業していたという体験談と成績を細かく伝えることが出来るという謳い文句で大学1年生から大学3年生を対象に広告がでていました。
〈このインターンの恐ろしいところ〉
1つ目は給料システムです。
完全歩合制という給料形態で成績を上げていくと役職が少しずつ上がっていき、契約1本につき10000円から昇給していく形でした。
そして、長期インターン参加1日目の時に学生でありながら上司は年収1000万以上稼いでいて、自分も生活に困らないぐらい裕福に過ごしているなどと、どのぐらいこのインターンで夢があるかを熱く語り、学生の心を鷲掴みしていました。
しかし、実際は契約をとるまでの研修期間や雑務などは時給制では無く、完全歩合制であるため給料に反映されないというブラックさが存在します。大学1年生は特にこの事に気付かず、続ける印象が強かったです。
2つ目はものを売る商材などの情報が初めから説明されないということです。
何を売るかわからない状態で参加1日目にウォーターサーバーの営業だとしらされ、ウォーターサーバーのメリットなどを熱く説明されました。
3つ目は友達に大きな迷惑をかけてしまうという点です。
1日目の最後の1時間で上司から【今から自分の友達にできるだけウォーターサーバーの魅力を伝える為の商談日程を5件立てろ】と言われ上司の目の前で友達に電話をかけ、日程を組まされます。
日程が組めたら上司にその日程を報告し、ウォーターサーバーの営業をかける準備をさせられました。電話をどのようにかければ良いかを20分ほど教えられます。
4つ目は沢山の企業とのコネクションがあるからもったいないなどと言われ辞めづらいということです。
はじめに超大手の有名な企業を沢山挙げられ、大手のコネクションが強いということと、普段絶対に聞けないような大手の人事と直接話すことができるからこのインターンを長く続けたほうが良いなどと、就職活動へのサポートを売りにできるだけ辞めさせないようにしていました。
最後に、本当に辞めると言った時、かなりの圧をかけられ、関係者3人と話し合わなければならないという点です。
私が最後辞めると言った時色々な理由で1時間以上、辞めないように説得させられました。また最後には、そのような理由で仕事をやめていては将来、必ず成功しないとまで言われるなど、かなりマイナス発言をされました。
ブラックインターンの対処法
学生が、これまでに述べてきたブラックインターンの被害に遭わないためにはどうしたら良いでしょうか。ここでは対策と対処法を紹介します。
まず対処法としてはブラックインターンの特徴を知り避けることです。前項で述べた特徴を持つ求人には要注意です。
それでも避けることができず、実際にブラックインターンに巻き込まれていると思った場合、まずは、自分のインターンシップの内容が、ブラックインターンに該当するか確認しましょう。自分のインターンシップ内容について、労働基準法や関連する法律について確認することが必要です。
例えば、インターンシップに対する賃金について、未払いや最低賃金未満で無いか等を確認しましょう。インターンシップといっても、雇用契約を結んでいる場合には、労働者としての権利が保障されます。少しでも、違法なインターンシップに巻き込まれていると思ったら、労働基準法が保障する権利を確認してみましょう。
以上の確認をして、もしブラックインターンシップの可能性がある場合は、所属大学のキャリアセンターや労働相談機関等の専門機関に相談しましょう。
労働相談機関の例としては、厚生労働省の都道府県事務局があります。都道府県事務局は、各都道府県に設置されていて、労働相談を受け付けています。大学のキャリアセンターの担当者と一緒に相談することも可能です。
都道府県事務局への相談は無料で、匿名相談も可能です。相談後、都道府県事務局によるトラブルの解決援助や、事業主への助言が行われます。適切な対応を受けるためには、インターンシップの状況を整理することが必要です。
以上のようにブラックインターンに巻き込まれている可能性がある場合は、キャリアセンターやお住まいの当道府県の都道府県労働事務局へ相談し、適
切な対処を受けましょう。
以上が対象方法です。「入ってみたらイメージと違った。」「マルチまがいななことをさせられた。」「労働基準法違反をしている。」と感じてインターンを続けたくない場合には迷わずに辞めましょう。
しかしインターンを無断でとんだりするのではなく、徐々にシフトを減らす、1か月前に離職の旨を伝えるなどして適切に辞めましょう。このことも含めて社会勉強となります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回の記事では、法改正によって企業、就活中の学生の双方から注目が集まっているインターンシップについて解説しました。
企業がインターン生を雇うメリットは学生を安い労働力で雇えるから、また優秀なインターン生を正社員として雇うことができるからです。学生側にも就活で有利であり、社会人と関われる、スキルが身につく、また業界について深く知れるなど多くのメリットがあります。
一方で、インターンシップにはデメリットやトラブルが存在することも事実です。企業の搾取に注意を払い記事に出てきたようなブラックインターンを避けて、社会人になる前にできる最大限の準備をしましょう。この記事を読んだ学生がインターンシップの機会を最大限に活用できることを願っています。
ここまでご覧いただきありがとうございました。
参考文献
・経済産業省「現大学2年生より、インターンシップのあり方が変わります!」
(https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220613002/20220613002.html 2023/06/03 閲覧)
・文部科学省、厚生労働省、経済産業省「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方」
(https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220613002/20220613002-1.pdf 2023/06/03閲覧)
・採用と大学教育の未来に関する座学協議会「座学で変えるこれからのインターンシップ」(https://www.keidanren.or.jp/policy/2022/039_leaflet2.pdf 2023/06/04閲覧)
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