笹塚駅のカラスの巣

毎朝新宿までの道すがら停車する笹塚駅。
私が乗る8号車の車窓から真正面に見える木の上にカラスの巣がある。
沢山のハンガーで作られた巣だ。
どこからこの大量のハンガーを持ってきたのか。
この巣を作るために母鳥が一つずつハンガーを運んだのだという事実を考えると、せこせこ効率だのを考えて生き急ぐ人間の営みが空しく感じる。

カラスは7000万年前からこの地球にいるらしい。
人間の発祥が700万年前だというから我々よりもはるかに先輩だ。
カラスという種が存在する大半の期間には人造物などなかったわけだから巣の材料である枝や葉などは今より容易に手に入っていたはずだ。
およそ6000年以上の年月を経て遺伝子に刻まれた本能に従って今日もカラスは巣を作っているということになる。
ところが人類の文明が急速に発達した直近200年くらいで、彼らの住処からは草木が激減してしまった。
そんな急激な環境の変化で巣が作れずに死に絶えるわけでもなく、枝葉の代わりとなるものをこのコンクリートジャングルから見出したことに、彼らの生命力と環境適応力の高さを感じる。
誰に教わるでもなく、みな一様にハンガーを使って巣作りをするカラス達はなんと賢いことだろうか。

個人的には自然環境に取り込まれる人造物というモチーフを表象する最も身近なオブジェクトとして非常に興味をそそられる。


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