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ちょっと怖い話。

 まぁ、古い話。
まだまだダルマセリカとかスカイラインジャパンとか、そういった車が現役で走ってた頃。

 その日は友達の車に乗り1日遊び回って、そろそろ帰るかと帰路に着いていた。
何せお金のない若い頃だったので高速使うのも勿体無いと下道で走ってた。
山から降りてそこそこ民家が見えてきた。
まだ市街地には遠いからか、街灯は少なく対向車はヘッドライトの光で分かる感じだった。

 そろそろ深夜って時間になり、ようやく平地に出てくねくねした道から直線の方が多くなってきた。
腹減ったなぁ、とかこの前行った店は良かったなぁ、とか喋りながら走ってるとZ字になってる道に出た。丁度こちらが直線部に来た辺りで対向車も直線に入った事がヘッドライトの動きで分かった。
今まで山道だったのもあり、対向車が来るのも久々だった。
左右は何故か歩道というには広い空きがあった。
結果としてこれがあったから助かった。
話を戻して直線に入った2台の車がすれ違う30メートル手前辺りだっただろうか、暗い色の和服を着たお婆さんがいきなり道路の中心に現れた。
友人がパニックブレーキ踏みながら左にハンドルを切る。
対向車も慌てて左にハンドルを切るのもちらっと見えた。
友人がハンドル切るのと対向車が切るのがほぼ同時。
車に何かぶつかる感触もなく避けたのは間違いない。
ハンドル握って固まってる友人を置いて、私はお婆さんの安否を確認する為に外に出る、が、お婆さんはどこにも居ない。
何もなくても驚かせたであろう事は謝らなくちゃと辺りを見るが全然それらしい姿がない。
そうこうしてると対向車の方も助手席が開いてお兄ちゃんが出て来た。
「どうですか」
とだけ聞いてきたお兄ちゃん。
「いや、こっちには。そっちは?」
「いや、見当たらない」
お互いが何となくお婆ちゃん見た地点に立ち、地面や辺りを見回す。
何か落ちてればそこから調べる事も出来るが何もない。
左右は住宅なんで家に入ったってのも考えられるが何も言わずに行くだろうか。
車に乗った双方がビビるレベルだ、苦情の一言も言うだろう。
車が通過した時の感じだと車とお婆ちゃんの距離は多く見積もっても1メートルもない。
向こうの助手席に乗ってたお兄ちゃんの印象も似た物だったらしく、車のどこかに引っ掛けててもおかしくないと感じたらしい。
一応お互いの車の右脇にすり傷とかないか調べようとなり、車に戻る。
「どう、だった?」
運転席の友人が顔真っ青にしてハンドル握ってる。
「いや、何もない」
それだけ言って車を調べるが擦った跡とかはない。
ぶつかった形跡はない。
対向車見ると向こうも何もないようで車の下とかも見てる。
私も一応下を見てみるが何もない。
もう一度お婆ちゃんが居たであろう地点で落ち合うと
「そっちどう?」
「いや、そっちは?」
どちらもぶつかったり擦ったりした形跡がない。
忽然と消えたお婆ちゃん。
この辺りで対向車の運転手も出て来てこちらに来た。
振り返ると私の友人もようやく動けるようになったみたいでこちらに来る。
「お疲れっす」
「ども。お疲れ」
そんな挨拶交わして運転者同士の話がようやく出来た。
「ここに婆さん居たよな」
「俺もここで見た」
ここで四人の意見が一致した。
「こっち見てニタニタしやがってよ」
向こうの運転手が言うが
「いや、待て。こっち見てたぞ」
友人が遮って言う。
「は?」
「え?」
「私もすれ違うまでこっち見てたと思うが」
私が言うと向こうの助手席のお兄ちゃんは
「いや、待ってくれ。俺もこっち見てたの見たぞ」
四人が固まる。
「服装は、和服で合ってる?」
私の発言に頷く3人。
「暗めの色で背は低い。オーケー?」
また3人頷く。
「ライトの交差した辺りでいきなり出てきた。中央線辺り」
運転してた双方が強く頷く。
「で、自分の方を見た」
今度は全員頷くのを躊躇う。
暫く固まる男四人。
「居なかった、婆さんなんて居なかった」
助手席のお兄ちやんがポツリと言う。
「まぁ、少なくとも救急車呼ぶ事態ではなさそう」
私が言うと
「呼ぶの、だいぶ遅れてるとか?」
茶化すように向こうの運転者が言うが、滑る事なく固まる。
「ま、まぁ、切り替えて行こう。事故は無かった。こっから先もご安全に」
助手席のお兄ちゃんが務めて明るく言う。
「そうだな、ご安全に」
双方言い合ってそれぞれの車に。

 車に戻る間、私が
「大丈夫か?運転代わるか?」
「いや、大丈夫」
と言いつつ運転席に。
それでも暫く動き出そうとしない。
「本当に何も無かったんだよな?」
友人が聞いて来たので
「少なくとも車にぶつかった何かは無かった」
「本当だな?」
「何かあったら友人だろうが指摘するのが私と知ってるだろ、何も無かった」
そこまで言ってようやく大きく息を吸って表情が柔らかくなる。
「忘れよう、多分警察より霊能者とかの出番だよ」
私がそう言うと友人も事故の線は無いとようやく理解して車を発進させた。
向こうもこちらが動いたからか、テールランプが動くのが見えた。

 車やバイクに乗ってると不思議な事象に出会う事はあるが、見ず知らずの人も巻き込んで遭遇した不可思議な出来事はそうそう無い。
このお婆ちゃん、私達が見落として家に帰ったのか、それとも・・・

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