プレママ。

 昭和の頃はよくある話だと思うが、小さな子供をちょっと大きな子供が面倒見る、そうしてお母さんは買い物に出たりしてた。

 私は子供の受けが良かったのもあって近所の子の面倒はよくみてた。
私自身も子供の世話は嫌いじゃなかったし、乳幼児も世話してた。
そんな事を続けてると中学生の頃には託児所扱いというか、近所のお母さんも安心して預けていくようになってて、赤ちゃんの世話も一通り出来るようになってた。

 そんなある日、役場主催のプレママ講習があり回覧が回ってた。
丁度妊婦さんも居てそのお母さんが出るんだろうなと思ってたらそのお母さんは講習日に検診があるので出れないとなったそう。
しかも思うより集まらなかったと役場から連絡があってどうしようと井戸端会議して、出た結論が
「集会所に行って講習受けてきて」
と、母に言われた。
いやいや、中学生だぞ?それはまぁ、そんな人も居るかもだけど、男だぞ?
どう考えてもお呼びじゃない。
しかし、近所のお母さんも
「私君なら大丈夫、そこいらのお母さんより育児やってるよ」
そんな事を言われ、渋々行く事に。

 行くと当然受講生は妊婦さんだらけ。
中にはお父さんも付き添い夫婦で来てる家庭もあった。
そんな中、中学生の男の子が一人で座ってる。
講師の産婆さん?が入って来て当然私に訝しみ
「きみ、講習受けるの?早くない?」
と聞かれたので
「近所の代表です。来るはずのお母さんが今日は検診だそうで」
ちょっと微妙な顔をしてたが、まぁいいやと思ったか講義を始めた。

 最初は座学で受けられる支援やそのやり方とか、乳児が罹りやすい病気、注意すべき兆候なんて話を続ける。
そして実演になり最初はオムツの掛け方。
イタズラっぽく産婆さんが
「君、やってみて」
はいはい、と前に出てお人形相手にオムツを当てる。
今は紙おむつだろうから全く使わなくなった技術だね。
手際よく当てると産婆さんが、おや?って顔をして
「上手ね、やったことあるの?」
「近所の子とか、まぁ」
曖昧に返事してると
「お前、隠し子とか居ないか?」
二組来てた夫婦の一人がからかい半分でそんな事を言う。
最初は興味なさそうだったお母さんも
「もう一度やってみて、ゆっくりね」
真剣に見るお母さん、今度は普段の半分くらいのスピードでやると
「そこ、もう一度」
研究熱心なお母さんのリクエストに応えてなるべく手元が見えるように見せて再度やり直す。
産婆さんは
「私の出番ないわね」
とか言いながら後ろでニコニコしてた。
抱っこの仕方、粉ミルクの作り方、沐浴の仕方なんかを何故か私が実演する流れになり、その度に
「この子教える事ないわ」
と笑ってる。
この辺りからお母さん達が
「男の子が出来るなら旦那に出来ない筈がない」
とか
「旦那もこのくらい関心持ってくれたら」
とか啜り泣くお母さんも。
ここで産婆さんが
「はいはい、見て分かるように男の人でも育児は出来ます。この子は、まぁ特別ですが仕込むのも母の勤めですよ」
と、朗らかに言い放つ。
隠し子と茶化してたお父さんはやってくれたなとバツの悪そうな顔をしてたが、もう一方のお父さんは産婆さんに聞くより気楽だったか私に色々聞いてきて
「僕も出来るようになるからね、子供に負けてられない」
とお母さんに言ってて、お母さんは嬉しそうだった。
そんな空気に当てられたのか、他のお母さん達も、今まで甘やかし過ぎたとか、今日からみっちり行くわよとか、連絡先交換したりして盛り上がる。

今なら夫婦共同で、出来なきゃブーイングの嵐だが昭和の頃は育児はお母さんとおばあちゃんがやる物って風潮が強く男が、それも子供が出来るってのは結構衝撃的だったようだ。
そんな時期にテキパキ出来る男の子、仕込めば旦那も出来ると確信を持ったお母さんの力強い言葉は聞いててちょっと怖かった。
最初は気の乗らない顔してたお母さんも目を輝かせ、来て良かったとおしゃべりしてる内に講習も終わり、最後の挨拶を産婆さんが
「ちょっと予想外の事もありましたが、慣れれば誰にでも出来る事です、今日学んだ事を思い出して頑張って下さい」
と閉め
「君は明日にも子供作れるね」
と、さらっと言う。
「いやいや、法的に無理です」
と返すと、あっ、と口元を押さえ顔を赤くして
「いえ、技術的にはよ?」
しどろもどろに弁解するが受講生の笑い声に押されて講義は終わった。

 講習後、産婆さんとお話もした。
聞くと中学生の女の子が来た事はあるが、男の子は初だったらしい。
そりゃそうだろう、と返事すると
「旦那様が育児に積極的じゃない、って相談はよく来るけど男の子でも出来る子は居るもんなんだね。新鮮だったわ」
これからは男の子でも出来るって言えるわと、ケラケラ笑ってた。
お母さん達からもどうして出来るのかとか、最初はどうだったのとか聞かれ、聞かれた事答えたり。
その内〇〇さんが一番お産が早いとか〇〇さんはまだ時間あるから旦那の教育間に合うねとか、団結する様子を目の当たりにした。

 やはり出産は一大イベント、団結も一気に進むものなんだなぁ。
多分あの講習に出たお母さん達は「男の子も出来た」を錦の旗にお父さんの教育頑張ったんだろうな。
「男手が必要なら僕が力添えしますから」
と、熱心なお父さんも言ってた。

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