不思議なおじさん。

 そろそろ暑くなった頃の話し。
その日は山な気分でフラフラと山の方に走り、涼しい森に入ってのんびり散策してた。

 日帰り登山でもするのか、小ぶりの登山リュックを背負って山頂を目指す人、もう少し重装備で歩く一団。
私は手ぶらで歩いてたからそんな一団から
「どこまで行くの?日が落ちるまでに戻れる所までにしなよ」
そんなアドバイスを度々聞きながら、適当な場所で引き返す。
そろそろ登山口って所で一本の木が目に入った。
マタタビ、かなあ?
山に生えてる自然木だったからイマイチ自信が持てず、木の前でウロウロしてると
「にいちゃん、どうしたの」
玄関から夕涼みにでも出て来たようなラフな格好のおじさんがサンダルペタペタ鳴らしながら私の方に向かって来る。
「あ、これマタタビかなって。そうなら猫のお土産に落ちた枝でも拾おうかなと」
「そうだよ、これマタタビ」
よく分かったねとおじさんが笑う。
「落ちたのなんて言わないで折って行きなよ」
「いや、国の管理とかだと面倒だし」
「こんなもん、管理してる奴居らんて」
そう言うと張り出した枝の先をぽきりと折った物を私に差し出す。
「ほら、猫ちゃん喜ぶぞ」
枝を手渡し
「森を荒らさんのは関心だ」
カラカラ笑いながらおじさんが山頂に向けて歩いていく。
辺りは夕陽が周りを赤く照らし出す頃、私は一本道を往復しただけだから
脇道にこのおじさんの家があるとは考えにくい。
私は手ぶらだったが足元は安物ではあるけど登山用のハイカットシューズ、おじさんはサンダル。
街中で散歩でもするような気楽さで歩いて行き、木陰に隠れて見えなくなった。

 手にはマタタビ。
白昼夢でもない。
あの足回りだとそんなに先に行けないような。
そもそもあんなラフな格好でここまで来たの?
誰、あのおじさん。
たまーに不思議な話を聞くが、あんなラフな格好した山神様ってアリ?
地元で山道に慣れた、ただのおじさんかも知れない。
けれどおじさん出て来た方に民家もないし。
まぁ、山神様の贈り物って事でマタタビは有り難く頂いて下山した。

 家で猫にマタタビ見せると大ハッスル。
遊ぶのにいい感じに切り、機嫌を損ねた時とかに使ってたが何年経ってもその枝は効果があって山から持って来た物は一味違うなと枝見る度にあのおじさんを思い出してしまう。

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