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2024年:私の香水元年 (前編)


概要

本noteはある男の香水元年の記録である。ある男とは私のことだ。
2024年4月 ~ 2024年10月のざっくり半年がスコープだ。
半年分一気に書くつもりだったが、6月まで書いて既に長くなってしまったので、前後編に分けることにした。

1. はじまり(4月)

香水に興味を持つきっかけとはどういうものか?
「憧れの芸能人が使っているから……」
「学生時代、身だしなみに気を使っている同級生に触発されて……」
「なんとなく、モテたくてSNSで……」
若い頃から香水をつけている人は概ねこういったエピソードが多いように見受けられる。

私にはそれがなかった。おそらく、他人に対する興味が薄かったからであろう。
使い古した服の洗っても拭いきれない匂いとか、汗の匂いとか、風呂入ってないとか。所謂「臭い」匂いをしていなければ良いだろう、程度の価値観であった。今でも他人に要求するとしたらその程度である。
厳密には学生時代、親の趣味の影響でロールオンタイプのアロマオイルを持っていたことはある。が、別に常日頃体に塗りたくってた訳でもなく、「ハマる」ほどではなかった。

前置きが長い。
学生時代から時が経ち、私はVtuberを見て余暇を消費するありがちな独身生活を送っていた。
そんな生活が3年ほど続き、どこかに新たな刺激を求めていた4月。
「推し香水」というものを買った。所謂ファングッズのつもりだった。

https://scently.jp/

これをきっかけに、ふと昔に流行ったTwitter(現X)のハッシュタグを思い出した。

「#推しの香りになりたい」

このタグは普段使っているシャンプーやボディソープ、洗剤や香水を画像一枚にまとめ、「推しの香り」を想像したり、お揃いにしてみたりするためのものだ。
(使っているものから「推しの生活ぶり」を想像する手合もいるだろうが……)

そこで紹介されていた香水がこれであった。

一度このタグが流行した3年ほど前には「ふぅん、オシャレなもん使っちゃってぇ」程度に受け取っていたものが、そのとき無性に気になった。
2023年の秋冬頃に見た映画「北極百貨店のコンシェルジュさん」で、栞に染み付いた香水の香りからコンシェルジュ、香水マニアの客総出で銘柄を特定し、ボトルの在庫を探し出すエピソードがあり、そういった記憶も下地にあったかもしれない。

ともあれ、4mlで790円という、社会人であれば軽率に財布を開けるであろう金額もあり、「試しにいくつか買ってみるか」となったのである。
なお、その程度の価格で済まなくなることを、このときの私は全く知らない。

私が最初に買ったのはこの2つである。ちなみに4mlだ。

https://x.com/BMizar_13/status/1784094376245006409

「なんとなくカッコいい」「自然と都会でバランスが取れてそう」
こんな基準で選んだ。
なるべく男性がつけていても良さそうなものが良いと思ったため、明らかにフェミニンそうな香りは避けた。

武蔵野ワークスは日本人による、日本人のための香水ブランドである。
高温多湿な日本の気候に合わせた香り作りが特徴であり、和の香りを淡く漂わせることに拘りがあるという認識だ。
「日本人に向けて作っているのなら、用法用量を守ってさえいれば周囲に違和感を持たせることもないだろう」と背中を押してくれる言葉であった。

樹海/ 武蔵野ワークス


「樹海」は一嗅ぎしてとても良い香りだと思った。グレープフルーツの爽やかなオープニングは遥か昔に使っていた柑橘系の制汗剤を思い出させた。
(ちなみにこの界隈で制汗剤やトイレの芳香剤などのトイレタリー製品に例えた評価は「人工的(synthetic)」「安っぽい(cheap)」など、かなりネガティブな意味合いを持つことが多いが、そういう意図ではない。)
そこからどこか落ち着く、いい香り(今分析するならウッディノート、ムスクだろう)がした。
武蔵野ワークスで25mlボトルの購入に至ったのは今のところこれだけである。

摩天楼/武蔵野ワークス

「摩天楼」は中々敷居の高い香りであった。
レモンの酸味を伴ったオープニングからバラと墨汁の入り混じった、どこかダークかつ耽美な印象であった。
東京のモダンな高層建築のイメージはあまりせず、どちらかというと老舗のレストランのような「昭和で時が止まっているが、間違いなく当時から上品であり続けようとした」香りだと思う。
クセは強く、つけていくシーンを選ぶ香りであるという評価は今でも変わらないが、当時から「嫌な匂い」とは思わなかった。
墨汁じみた香りの正体はパチョリであり、この香料と共演NGでなかったことが今思えば香水探しのきっかけになったのかもしれない。

2. 香り探し、始まる(5月)


舌の根も乾かぬうちに3つも買っている。
とりあえず写真の左から順に紹介しよう。

ポロヌプリ/武蔵野ワークス

「ポロヌプリ」は北海道がモチーフであることが決め手だ。ポロヌプリ山は行ったことないけど。
幼少期、身近にラベンダーの香りがあったことも影響しているだろうか。ラベンダーの香りは好きだ。
香りとしてはややアロマに寄りすぎているところがあり、これは寝香水として使っている。

沈香/武蔵野ワークス

「沈香」はアニメ「モノノ怪」の「鵺」の回が影響している。

「鵺」は「香道」におけるべらぼうに高価な香木の伽羅、その中でも朝廷に献上された特上品、レア中のレア物である 蘭奢待 を元ネタとした香木を巡り、「手にしたものは天下を取れる」という逸話に釣られて集った貴族、侍、商人らのコミカルで哀れな人間模様を描いたエピソードである。

「沈香」は一言で言えば和室の香りである。ヘッドスペース法により再現された香りであることがこの価格の秘訣だ。
その後知ったことだが、沈香(Oud)そのものを香料に用いた香水は世に数多ある。(出典:NOSE SHOPの記事)2007年に発売されたTom Fordの Oud Woodが世界的ブームを巻き起こしたOud系香水だそうだ。(出典:カイエ・デ・モード)

これらの香りと比べるとどうしても本物とヘッドスペース法による模造の差が出てしまうのだろうが、まあ、この手の香りが苦手かどうか判断するリトマス試験紙としては適してると思う。ちなみに私は好き。実家の和室が共用PCの定位置だったこともあり、そこで長く過ごしていたこともあると思う。
在宅ワークで1日中家にいる寒い日にはよく合いそうなので、これから出番が増えそう。

黒文字の花/武蔵野ワークス

「黒文字の花」はクロモジの精油をベースにしているそうだが、残念ながらクロモジの香りをそれとして嗅いだ記憶がなく、したがって再現度は判定不能で「なんだかとってもグリーンな香り」といった印象だ。さっき草むらから出てきたような青々とした緑であり、5月の贈り物という名前の通り、初夏にピッタリな香りだ。
所謂期間限定品で、ご多分に漏れずそれに釣られて買ったクチだが、「限定品だけど、ちょっとでもリスクを感じたら買わずに忘れてほしい」というアドバイザーのコメントに誠実さを感じる。

3. プチプラ探究、一区切り(6月)

この頃(正確には5月中旬だが)、もう一つの国産香水ブランドに出会った。
名前は AUX PARADIS (オゥパラディ) である。

https://www.auxparadis.com

「樹海」が好みということは、とりあえずシトラス・ウッディを攻めていけば、「好きな香り」のバリエーションを増やすことができるだろう、という算段だ。

この頃よく見ていた(今もアーカイブを見返すことはあるが、残念ながらチャンネルは更新停止となってしまった)動画が出会ったきっかけである。

最初に買ったのは#06 Hommeで、程なくして#08 Pure, #04 Savonを買った。
10月時点で上の3つに加え、#02 Cirtron, #09 Grapefruit, #07 Osmanthus を持っているが、持っているもの全ての感想を述べるのも大変なので、ここでは最初に挙げた3種だけにしよう。

#06 Homme / AUX PARADIS

 「樹海」とはまた違う、「甘いシトラス・ウッディ」だ。おそらくマンダリン、ネロリ、サンダルウッドあたりの香りが強く出ているのだろう。独特のムワっとした感じが風呂上がりの体から出る蒸気にも似ているように思えて、この中では一番好きだ。オゥパラディのボトルはすべて15mlだけ持っているが、これが一番減っている。

#08 Pure / AUX PARADIS

どこか懐かしい、ボディケア用品、ヘアケア用品で嗅いだことがあるような、ないような香り。つけすぎるとスパイスが強く香りすぎて、虫除けグッズに近い香りになってしまう。適量つけるとスパイスが肌に馴染み、ハリのある清楚で丁寧な暮らしの香りになる。

#04 Savon / AUX PARADIS

「ポロヌプリ」がアロマティックで温かみのあるラベンダーなら、こちらは清涼感のあるラベンダーだ。風呂場に溜めたお湯にラベンダーを突っ込んだ原始的なラベンダー風呂の香りを遠巻きに嗅いでいるかのような、あるいはラベンダーを混ぜ込んだ石鹸(Savon)の香りのような。
汗をかくと体の湿気と混ざり合い、主観的には風呂上がりっぽさを感じた。
「お風呂上がりのような~」という文言はあまり香水マニアに好まれない表現だが、これはポジティブに言っているつもりである。

この頃までは「安くてもいい香りあるじゃん、香水のボトルに何万もかけるなんてバカじゃねえの?セレブならともかく……」と正直思っていた。今でもちょっと思っている。
同時にこの価格帯に留まっていることにも行き詰まりを感じつつあった。
この価格帯で男性もつけられる香水の選択肢は非常に少ないと思う。ドンキやZARAで売っている有名香水のコピーを除けば、あと2~3ブランド当たればそれで終わりなのでは、と思うぐらいだ。

また、低価格に拘り続ける限り、自分は所謂「マックしか食べたことない人」みたいな状態でもあるのでは、と思っていた。
(注:ネガティブな意味合いでマックを引き合いに出したが、私はジャンクフードが好き)

見聞を広めるための冒険、あるいは転落が7月からの話である。

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