【もしカメへ捧ぐ】山田たかしの数奇な人生
昨日、スタエフにて、こちらのLIVEにリスナーとしてコメント参加しました。
いや~めちゃくちゃ面白かった。
ストレングスファインダーで着想が上位の人々が集まり、ウミガメのスープというゲームをしたLIVEになるのですが、
その中でたかしを題材にしたゲームに私がどハマり。頭の中でたかしが踊り狂っていたので、短編小説という形で昇華させることにしました。
よければ、スタエフを聴いた後に読んでみてください。
それではどうぞ。
山田たかしはとにかく、小さな頃から視線が気になる男であった。
まだほんの幼い頃、父親に連れられて行った銭湯では頭を洗うたびに視線を感じた。
ある日から父親はいなくなった。
視線が少し、気にならなくなった。
母親といった食堂では母親から「ここはね、ママのご飯代だけでいいのよ」と言われていたものの、本当に母親の分しかお金を払わない様子に、またもや周りの視線が気になった。
中学生の頃はクラスのマドンナ田中Mini子に心を寄せ、高校生の頃はギター部に入り顧問の教師天田アキラのライブに入り浸るなど、普通の学生としての青春を謳歌していたし、この頃が1番視線が気にならなかったように思う。
しかし、大学受験に失敗し、就職活動に失敗し、探偵崩れの男の下で働くようになってから、再び、少しずつ視線が気になるようになっていった。
それは、かつてのマドンナ、現在はたかしが働いていたビルの清掃員として働くMini子と付き合うようになってからも同じであった。
時に、窓越しに見てくるMini子の視線でさえ気になるほどであった。
やがてMini子と結婚し、子供が産まれ、世間的には幸せな家族のようであったし、この頃にはたかしは名探偵と呼ばれるようになっており、警察に協力を依頼されるなど、人生は順調であった。
しかし、視線が気になるのは変わらなかった。
たかしは外出をひどく嫌ったものだから、Mini子はそんなたかしを見限り、子供を連れて出て行った。
生きていくためには家に篭り切りというわけにはいかない。
時に働くために、時に買い出しのために。
視線を振り切るようにイヤホンを耳に入れて音楽を聴きながら家の外に出たが、そんな時に限って警察に声をかけられる。お気に入りの天気キャスターはよく予報を外したので、雨に降られて風邪を引くということも珍しくなかった。
やはり外は良くない。
そしてそれは起こった。
その日はいつも以上に周りの視線が気になった。
貧乏ゆすりが止まらない。
最低限の買い出しをして家に帰ろうとしていた。
帰路の途中の公園で、泥まみれのアメリカンドッグを持って泣いている子供がいた。
それを怒鳴る父親らしき男がいた。
その姿に、かつての自分の父親の姿が重なった。
公園には親子以外には誰もいなかった。
誰も見ていなかった。
父親が、こちらを見た。
見るな。
見るな。
見るな。
そこから記憶が…ない。
プルルルル…
ガチャ
「はい。」
「あ!山田先生!ちょっとね、公園で殺人のガイシャが発見されましてね。ちょっと不可解な点がありまして…ご協力願いたいのですが。」
「…はい、わかりました。」
たかしは公園へ向かう。
たかしの数奇な人生は、終わりを告げようとしていた。
おわり