きちんと終わって行く
人生の終わりを感じる。ちゃんと壊れつつある。その感覚が、きちんとある。
今、三月になっている。私は三月末で家を出なければいけないが、まだ家も仕事も決まっていない。ほとんどなにもしてないに等しい。辛うじてやっている社会的なことと言えば、週三、四日のバイトだけだ。貯金は十万円あるかないかの程度だ。普通に考えて、家の審査とか絶対に降りない。バイト先は古い喫茶店で、給与は最低賃金で、社保とか正社員雇用とかは全くない。個人経営で法にルーズなので、正社員になる方が危険だと思う。そもそも週五で働くと自殺しようとするから、せめてもうちょっと時給のいいところに乗り換えなければいけない。でも普通に見つからない。検索の進行速度がカスすぎると言うのもある。色の強い文字列を見るのが苦手で、求人サイトを見ていると胸の真ん中にやっすい食パンが詰まったみたいな感覚になるのだ。だから一時間以上求人を検索すると、身体的苦痛と「あかん、無理や」と言う精神疲労から絶叫しそうになる。正気のまま求人を探せるのは、せいぜい一日30分だ。詰みか?
ちなみに、最終学歴は中学卒業だ。すごい、なんてことだ。激烈に終わっている。
と言うか、「色の強い文字列に弱い」と言う時点で、できる仕事が結構限られそうだ。今、書きながら気付いた。事務職は厳しいのかもしれない。関数もわからないし。グラフとか見たらそれこそ発狂しそうだな。事務でグラフ見るのかは知らないが。だけど、時給がそこそこで比較的学歴が問われない仕事と言うと、事務か、軽作業しかない。つまりもう、私の働き先は軽作業しかないと言うことだ。
わかってる。
そんなことない。
全然わかっている。仕事なんて、選ばなければクソほどある。夜職でも、警備でも、土木でも。新聞配達だって。そうじゃなくても、もっと探せばもっとある。
自分で選択肢を潰している。その自覚はある。でも、そうやって視野を狭めないとキャパオーバーするのだ。事務・受付・軽作業・販売。この四つで探すのが今の限界だ。ここに夜職と警備入れたら頭が爆発して狂う。そもそも昼夜逆転は苦手だ。でも朝来て夜寝るのもめちゃめちゃ苦手。じゃあどうすんだよ。殺してくれ。それでいいだろ。もう金稼ぐとか無理なんだよ。朝起きて、ラジオ体操して、水飲んだら疲れる人間なのに。そのあと仕事に行くと言うのがもう無理だ。無理だけどどうにかやっている。それも週四日が限界だ。昔週五日でやっていたが、普通に自殺未遂して病棟に隔離された。ダメすぎる。
それでも最初はシンプルに、バカの中卒でもどうにか就職しようと思っていた。そして奇跡的に就職出来た。でも上司と喧嘩して普通に辞めた。
上司の「お前らは無能の中途なんだから身を粉にして貢献しろ(意訳)」と言う言葉にキレたり、新入社員間の交流を一切禁ずると言うカルト宗教みたいな社則を心底怖がったりしていたら普通に面談になって、ZOOMで教育係とレスバして、結局辞めた。今でもちょっとヤバい会社だったんじゃねえかとは思うが、それでも上司と喧嘩なんてするか? バカの中卒が。しかも入社三日とかで。こりゃダメだと思った。思って然るべきだろう。まさか自分が、ここまで堪え性と社会性に欠けているとは。接客業五年くらいやってたし、どこ行ってもいい意味で客に覚えられる店員だったから、対人はいけるかなと思ったのに。自分の終わりを痛感する出来事だった。
そして振り出しに戻った。
金がない。職もなくなった。血眼でどうにかなりそうなバイトを探した。結局飲食だったけど、シフトもゆるいし、ひとまず安心だと思った。矢先、父に「バイト決まった? じゃあ出てけ。三月な。」と言われた。決める前に行って欲しかったと、心から思った。今のバイト先は、そもそも週五フルタイムを募集していない。募集されていてもできないが、それはそれとして、じゃあとりあえずここで……となれるような店じゃない。だから結局、振り出しに戻った。今も血眼になってバイトを探している。
狂いそうだ。不要なら金なんていらないのに、結局金を稼ぐために、金の稼ぎ方を模索している。必死で。この現状がつらすぎる。
もうこの際服もいらないし、コスメも切れるまで変えなくていいし、石鹸とかもなんでもいい。趣味は時々酒を飲むことと、女に殴られる妄想をすることだけ。あとはせいぜいインターネット。多分、言うほど銭の流れる趣味じゃない。だろう。寒さや暑さにも無頓着で、飯に執着もない。毎食味噌汁飲めたらそれでいいと思っている。いや、別に飲めなくてもいい。意外にも料理はできるし、宅配食や外食も言うほど好きじゃない。友達は一人二人しかいなくて、そんなしょっちゅう会うわけじゃない。旅行とか温泉にも興味がない。家具や楽器にこだわりもない。ギャンブルもしないし、ペットもいらない。彼女とかも、もういい。綺麗なお姉さんになんの意味もなく殴られることにしか興味がない。
でも実際そんなお姉さんはいないから、もうなんでもいい。全部がなんでもいいのだ。金なんて絶対にいらない。なのに、どうしてこんなに金がいるんだ。おかしいだろ。
いや、ぶっちゃけおかしいとかはどうでもよくて、とにかく金がないと全てが不安定になるシステムをやめてほしい。月収十万でも安心して適当に生きたい。家賃は二円に、年金とか税金は石ころとかになって欲しい。つーか年金ってなんだよ。概念としても存在としても憎い。年金が出る年齢まで生きてるかも怪しいのに、とりあえず払うって言うのが嫌だ。バカの私からしても効率的に思えない。
なにより老人が嫌いだし、いよいよマジで年金払う意味がわからない。店に来る老人は基本態度がデカいし、肉体の使用年数と経年劣化を笠に着て私たち店員をこき使う。五百円そこそこのコーヒー一杯でノートとチラシ広げて四人席に何時間も居座る。ほんとに嫌いだ。こいつらの生活を補助したくない。私の生活だって脅かされているのに、喫茶店で横暴に振る舞う連中の営みを健全化するために金を払いたくない(年金に対する無知と偏見がより強い怒りを呼んでいる)。
コーヒーチラシ四人席老人は邪魔だし迷惑だし売り上げにもならないし、何度もお冷をおかわりするし忙しい時に限って呼びつける。会計の時もクシャクシャに折りたたんだお札や、なんの因果か青くなってる小銭を投げてくる。しかも年金で暮らしている。嫌いすぎる。と言うか、そう言う嫌な年寄りの客が、「老人代表」として脳の顧客データベースを埋めているのだ。人間の脳は嫌なことばっかり覚える。絶対いい客もいたはずなのに。何も思い出せない。終わってる。そんなんだから鬱病とかなるんだよ。そうだよな。ソエジマ先生。前に出してもらったデエビゴ、いい加減なくなりそうです。でも保険証も今月でなくなるんで、もう通院は無理です。ごめんなさい。またいつかお会いできた時には、是非とも、どうにか、隔離してください。
これ、なんの話してたんだ?
もうダメだ。いいから早く死のう。お疲れ様でした。
耳目