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嗅覚への介入方法と効果
▼ 文献情報 と 抄録和訳
認知症患者における嗅覚集中トレーニングの認知機能への効果
Cha H, Kim S, Kim H, Kim G, Kwon KY. Effect of intensive olfactory training for cognitive function in patients with dementia. Geriatr Gerontol Int. 2022 Jan;22(1):5-11.
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 近年、神経変性疾患と嗅覚障害との関連が明らかにされている。しかし、嗅覚トレーニングが認知症患者の認知機能障害を改善することができるかどうかについては、さらなる研究が必要である。本研究では、集中嗅覚トレーニング(IOT)プロトコルを開発し、認知症患者の各認知領域への影響を評価することで、この問題を解決することを目的とした。
[方法] 2020年6月から2020年9月にかけて、患者をプロスペクティブに募集した。ベースライン評価として、人口統計データ、嗅覚機能検査、うつ病尺度、詳細な認知機能検査を行った。実験群の34名は、40-odorセットで1日2回、15日間IOTを受け、対照群の31名は保存的管理を受けた。IOT後、うつ病尺度と詳細な認知機能検査を用いたフォローアップ評価を行った。
✅ 具体的な嗅覚トレーニングの内容
- 1日2回、15日間(計30回)のトレーニング
- 40種類のアロマオイルを嗅いでもらう(識別回答などはなかったよう)
- トレーニングは、各個人の合計で平均15分/回を要した
[結果] ベースラインの特性は両群間で差がなかった。IOT群は対照群と比較して、うつ病、注意、記憶、言語機能に有意な改善を示したが、グローバル認知、前頭実行、視空間機能には有意な改善は見られなかった。
[結論] 本研究は、IOTが認知症患者のうつ病を緩和し、いくつかの認知機能を改善する能力を持つことを示した。これらの結果は、IOTが認知症の症状を改善するための有効な非薬物療法である可能性を示唆している。
▼ So What?:何が面白いと感じたか?
嗅覚のバイオマーカとしての威力は、以前の抄読を参照いただきたい。
大掴みに要約すると、
● 嗅覚は認知機能低下やパーキンソン病の初期症状の1つ
● その機能低下に気づきにくいため嗅覚検査が必要である
そして、それに対してアロマテラピーが①認知症高齢者のQOL改善(>>> note)、②高齢者の転倒予防に効果(>>> note)があることを抄読した。
今回の論文は「だったら、嗅覚を鋭敏にできれば認知機能改善するのでは?」を検証している。
そして、RCTの結果、うつ病、注意、記憶、言語機能に有意な改善を示した。
あなたなら、この結果をどのように臨床に生かすだろうか。
普通に、介入の中に「嗅覚集中トレーニングを追加します」だろうか。
介入に「嗅覚集中トレーニングを追加」するのは、以下の条件を満たした場合だと思っている。
①複数RCTの [A systematic review] [Meta-analysis]により嗅覚集中トレーニング効果がより高いエビデンスレベルで判明
②有酸素運動や筋力トレ、デュアルタスク介入より効果が大きいことが判明
③アロマオイルや資格整備など、環境面の準備が整う
とくに②は重要で、介入を組み替える場合、現行の介入との比較は必須になる。
これらの検証と準備は、もう少し遅延すると考えている。
それよりも、現行の日常生活動作との「組み合わせ」にこそ価値が見出せるのでは?と期待する。
習慣レバレッジなる技法がある。
✅ 習慣レバレッジとは?
- 既存の行動と新習慣を組み合わせることで習慣化の可能性を上げる技法。
- 方法①:既に習慣となっている行動を一つ選ぶ。
※ 1日のうちで頻繁に行うもの(例えばスマホを見るなど)が足がかりの習慣として使うのに最善である。また食事のように、毎日必ずやるもので行う時間が一定のものも使える。
- 方法②:足がかりとして選んだ習慣の直前や直後に、新習慣を行うようにする。
例えば、「毎日スクワット」は続きにくくても、「歯磨きの時はスクワット姿勢で行う」は不思議と続けられる、のような感じだ。
今回の嗅覚集中トレーニングの活用方法としても、既存の「食事」との組み合わせがベストのような気がする。
すなわち、毎度の食事の直前に「テイスティングタイム(匂いを嗅ぐ時間)」を3分間くらい設けるのだ。それによって、「うつ、注意、記憶、言語機能」が変わるなら、最強ではないか!
面白いリサーチクエッションを得た!早速、STと相談してみよう。
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