上筋筋膜の力の伝達EMFT;大腿直筋の伸張は筋膜を介して力伝達される
▼ 文献情報 と 抄録和訳
大腿直筋の股関節伸展による上筋筋膜の力伝達が単関節大腿四頭筋のせん断弾性を高める
Yanase, Ko, et al. "Epimuscular myofascial force transmission from biarticular rectus femoris elongation increases shear modulus of monoarticular quadriceps muscles." Journal of Biomechanics 122 (2021): 110421.
[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar
[背景・目的] 本研究は,ヒトの大腿四頭筋においてEpimuscular myofascial force transmission(EMFT)が発生しているかどうかを検証するために,受動的な股関節角度の変化に伴う大腿直筋(RF)の伸長が外側広筋(VL)と内側広筋(VM)のせん断弾性に及ぼす影響を調べることを目的としたものである。
[方法] この研究には14人の健康な男性が参加した。RF,VL,VMのせん断弾性を,屈曲(Flex),伸展・外転(Ext-Abd),伸展(Ext),伸展・内転(Ext-Ad)の4つの股関節ポジションで測定した。Vasti muscleの部位によってせん断弾性の挙動が異なる可能性があるため、VLの内側と外側(Medial-VLとLateral-VL)、VMの内側と外側(Medial-VMとLateral-VM)を測定した。
[結果] RF、VL、VMでは、ExtおよびExt-Addの位置でのせん断弾性率がFlexの位置よりも高かった。また,RF,VL,Lateral-VMではExtおよびExt-Add時のせん断弾性率がExt-Abd時よりも高かった。さらに、Lateral-VMのせん断弾性率はMedial-VMよりも高かった(Flex:8.5%高、Ext-Abd:15.6%高、Ext:30.2%高、Ext-Add:32.6%高)。膝の一関節筋であるVLとVMのせん断弾性率は、膝の角度を一定にしても、股関節の受動的伸展や伸展に伴う内転によって増加した。
[結論] この結果から、EMFTは大腿四頭筋で発生し、RFに解剖学的に隣接するLateral-VMではEMFTの影響が大きいが、RFから離れたMedial-VMではほとんど影響がないことが示唆された。
▼ So What?:何が面白いと感じたか?
骨格筋には、起始と停止があって、その両者の距離が変化することで伸張-弛緩が規定される。
ほとんどのセラピストが、この単純な図式で臨床思考過程を組み立てていると思う、僕もそうだ。
このEMFTの考え方は、僕たちの臨床思考過程にパラダイムシフトを起こしうる、というか変革の必要を迫っている。
①ある1つの筋が伸張される(あるいは収縮する)
②隣接する1つの筋は筋膜を介して引っ張られる
③隣接する筋の隣接部分は収縮 or 伸張、というせん断の運動が起きる
これは、受動的な伸張にも、随意的な収縮時にも応用できる考え方だ。
分かりやすいのが次の図である。
受動筋(灰色)と能動筋(赤色)の相乗効果による結合組織の長さの変化を説明するための図。1つの筋肉の長さを変えると、それらの結合が再配置され、展開される。展開は共役の場合にも見られる。コラーゲン線維の巨視的なクリンプのこのような直線化は、応力-歪み曲線のつま先領域と相関している。Maas, 2010
世界の諸現象をただ観察するだけだと、細部の明らかでない、そして相互に関連のない世界像しか現れない。どんな対象も、どんな出来事も、事物をただ観察しているだけだと、他のものよりも重要にも有意味にもならない。
知性は、観察を通して、思考内容を生み出す。そしてその思考内容をもとに、観察した諸事実から思想豊かな世界像をまとめあげる。観察したすべてを自由に処理できる思考内容にする。
ニーチェ みずからの時代と闘う者 P. 82
自分の知性(思考過程のプログラム)に、『EMFT』という一行を書き加えた。
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