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映画「ノマドランド」感想
ディズニープラスで鑑賞。
アカデミー賞受賞作品だけど、正直、一生観ないかな、と思ってました。
それが「エターナルズ」を観直して、結構、面白かったので、この監督は他にどんな作品を撮っているんだろうと興味が湧いて、見ることにしました。そういう意味では、「ヒーロー映画なんてクソ」と公言する大御所監督もいたりするけど、MCUはしっかり映画業界に貢献しているといえるのではないでしょうか。以下、ネタバレあり。
冒頭、字幕でバックグラウンドを語るところが、「エターナルズ」と同じ。これはこの監督の芸風なのかな。確かにこういうテロップって地味に嬉しいね。少し特殊な設定だと特にそう。この映画においては、その背景というのが割りと重要になっているのでなおさら。これをきちんと見せようとすると、ちょっと説明臭くなるもんね。そういうのはもうサクッと字幕で説明しましょう、というスマートさが嬉しい。
だけど、開幕5分くらいで、「この映画、自分に向いてないかも」と思ってしまいました。なんか画面暗いし、主人公が大竹しのぶさんみたいなオバチャンで、彼女が「また会えるわよね」と中年男性とハグし、バンにのって旅立つ。(しのぶさんは好きです。念のため)
「うわっ、ダルい」と思ってしまいました。なんか辛そうな映画。いろんなやるせない出来事が次から次へと、しかも淡々と描かれるんだろうなと。
歳を取るとね、辛い話なんて観たくないと思うのよ。だって、人生って辛いじゃない? 映画でもわざわざそういう辛いもの見せられるのは苦痛でしょ?
そんなわけで、そっとじするかと思いながら、「もう少しだけ」と見続けていたら、荒野で主人公が排泄するシーンがあって、「なんだこりゃ」と興味を惹かれた。
さらに主人公がアマゾンで働き始め、ますます引き込まれ、気がつくと1時間半、主人公と一緒に旅していたという感じ。
事件らしい事件は起こらない。ただ、淡々とノマドな中年女性の日常が美しい映像と共に描かれていく。何気ない景色に胸が締め付けられるような気持ちになり、ただ主人公のそばを通り過ぎていくだけの人々との一期一会に自分の人生を重ねた。
なんだ、この映画は。
久しぶりに映画を観ることの快感に浸りました。
コロナ禍以降、映画館に行くことも減り、自分の中で「映画」の定義というものが変わってきた気がします。2時間椅子に座って拘束されるだけの価値を持つものだけが映画なんだ、と思うようになりました。
コロナ禍のせい、というより、自分の残り人生が少なくなってきているかもしれません。若い頃の2時間と、今の2時間の持つ重みが違うんだよね。迷ったり、悩んだり、立ち止まったりすることは時間の無駄だと思うようになりました。
この映画、もしかしたら、50代になった今だからこそ、その価値がわかるのかもしれない。
さすがに一人車で旅をしながら生活しようとは思わないけど、主人公が道中で会う人々との交流に、自分が今までいろんな人たちと出会ってきたことを重ね合わせてしまうのよね。
人間は死ぬまでにいったいどれくらいの人々と関わりを持つのだろうか。そして、その出会う人々にもまたそれぞれの人生があり、その人たちも様々な人たちと関わりを持っているのだな、と思うと、ただこの世に生まれ、死ぬだけの人生であっても、何か特別なものなのではないかという気持ちになってくる。
面白いのは、こんなアート系の映画と「エターナルズ」みたいなエンタメの塊みたいな映画を同じ監督が撮っているということ。クロエ・ジャオ監督、意外と器用な人なのかしら? でも、細かく見ていくと、まあまあ共通点もある気がします。
1シーンが短く、サクサク物語が進んでいくところとかね。あと、映像の美しさ。
この人に撮ってもらったら、自分のどうってことのない人生も情感溢れる味わい深いものになるのかも、と思うくらい、撮り方が上手いですね。それでいて、気取ったところもなく、本当にそういう人なんだろうなと撮った人の世界の見え方が伝わってくる。
この監督、意外と好きかも。