唱え薬
多分、普通ならなんてこと無いこと。
そんなことに、恐怖や不安を、
無性に感じてしまうことがある。
そんな時、いつも頭の中で唱える言葉がある。
何度も唱えたせいで耐性が出来てしまったのか、端から自分に合っていないのか、
この言葉で、恐怖心や不安が消えることは、
ほとんど無い。
でもたまに、頭に広がる恐怖や不安を、薄めてくれることがある。
だから常備薬のように常に頭の中に置いている。
「恐怖」や「不安」
そういう感情は、
他者から理解されるものばかりではない。
他者どころか、自分自身でさえ、
なんでこんなことが怖いのかと、理解が及ばないことすらある。
感情に理由はついてくれない。
理由がないものを理解するのは難しい。
たとえそれが、自分自身のことであっても。
そして、理由がないものは、治すことも困難だ。
一生、抱えたままかもしれない。
でも……
もしかしたら……
いつか……
そんな、雀の涙程もない僅かな期待を、
俺はこの言葉に持っているのだろう。
だからきっと、明日も唱えるだろう。
効き目の薄いこの薬を。
「俺、こんなことが怖かったんすよ!」
そんなふうに、
笑って言える日が来ることを願って。
『大丈夫』